廃棄食材から完全植物性の新素材開発に成功

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2021-05-25 東京大学

○発表者:
酒井 雄也(東京大学 生産技術研究所 准教授)
町田 紘太(研究当時:東京大学 工学部 社会基盤学科 4年)

○発表のポイント:
◆コンクリートの4倍近い曲げ強度を有する、完全植物由来の新素材の製造技術を、世界で初めて開発しました。
◆この素材は、原料の野菜や果物の色、香りや味を残すことも可能です。
◆不可食部を含む植物性資源の有効活用や、地球温暖化ガスの抑制に繋がると期待されます。

○発表内容:
東京大学 工学部 社会基盤学科 4年の町田 紘太 学部生(研究当時)と同 生産技術研究所の酒井 雄也 准教授は、同 生産技術研究所 豊島ライフスタイル寄付研究部門(注1)での作製に着想を得て(注2)、野菜や果物など廃棄食材を乾燥後に粉砕し、適量の水を加えて熱圧縮成形することで、建設材料としても十分な強度を有する素材製造の技術を開発しました。本研究成果は2021年5月28日(金)~30日(日)にオンラインで開催される日本材料学会の学術講演会で発表される予定です。

<研究の背景>
食品廃棄物は、本来食べられるのに廃棄されてしまう「食品ロス」と、野菜や果物の皮、種、芯、肉や魚の骨、鱗といった食用にできない「不可触部」の2つに分類されます。日本では2018年には約600万トンの可食部(食品ロス)と約1,930万トンの不可食部が廃棄物処理され、これらの約5割が肥料化、飼料化、約4割が焼却、埋め立てされていると試算されています(注3)。肥料化、飼料化のいずれで活用する場合も、製品の単価が低いため、収益を上げることは容易ではありません。また堆肥については年間8,300万トン発生する家畜糞尿も活用されており(注4)、その結果、農地における窒素過多が進行していることが指摘されています(注5)。そのため、食品廃棄物について、飼料化、肥料化以外に、高付加価値を付けつつ活用する新たな方法が求められてきました。

<研究内容>
本研究では原料をフリーズドライ、粉砕した後に、様々な条件で加熱成形を実施した結果、完全植物由来の新素材に、十分な強度を付与することに成功しました(図1、図2)。熱圧縮成形における最適な温度は100℃前後、圧力は20MPa前後で、原料によって異なります。廃棄野菜や果物が熱圧縮成形により高い強度を発現するメカニズムについては検討中ですが、熱圧縮成形において熱により食材中の糖類が軟化し、圧力により糖類が流動して間隙を埋めることで、強度が発現しているものと予想されます。原料によっては18MPaの曲げ強度を達成しており、一般的なコンクリートの曲げ強度(約5MPa)と比較して4倍の強度を確認しています。木材に使われる耐水処理を加えることで、耐水性が求められる環境での使用も可能です。
また製造条件を調整することによって、原料の香り、質感の維持もしくは除去、色の調整などを行い、粉末にした廃棄野菜や果物に、塩や砂糖、コンソメパウダーなどの調味料を加えることで、強度を維持したまま味を向上させられることも確認されています。これにより、建設材料程度の強度を有しつつ、使用後には食用に供することを目的とした素材としての活用も期待されます。

<研究の意義と展望>
本素材製造技術を活用することで、廃棄野菜や果物の焼却や埋め立ておよび堆肥化による窒素過多を回避するとともに、本来必要であった資源採取が不要となることから環境負荷を低減することが期待されます。

○発表会議:
会議名:日本材料学会 第70期通常総会・学術講演会(オンライン)
会期:2021年5月28日(金)~30日(日)
論文タイトル:可食性の材料を用いた新建設材料の開発
著者:町田紘太 酒井雄也

○問い合わせ先:
(研究全般に関するお問い合わせ)
東京大学 生産技術研究所
准教授 酒井 雄也(さかい ゆうや)

(豊島ライフスタイル寄付研究部門の研究成果に関するお問い合わせ)
東京大学 生産技術研究所 豊島ライフスタイル寄付研究部門
リサーチフェロー 吉村 正昭(よしむら まさあき)

○参考文献、用語解説等:
(注1)東京大学 生産技術研究所 豊島ライフスタイル寄付研究部門
豊島(とよしま)株式会社(代表取締役社長 豊島 半七、愛知県名古屋市中区錦2-15-15)からの寄付を元に設立された寄付研究部門。

(注2)
本研究の前段階として、東京大学 生産技術研究所 豊島ライフスタイル寄付研究部門における植物コンクリートの活用法を検討するプロジェクトにおいて、廃棄される素材を使ってオーダーメイドの製品を作り、一般消費者向けの製品、災害援助等に活用することで、廃棄物の資産的価値をユーザが見いだせるようにするプラットフォーム(Dust to Dust)を試作しました。この試作において、廃棄食材を原料としたさまざまなプロトタイプ(図3)を作製したことで、本素材開発の着想につながりました。

(注3)
環境省:食品廃棄物等の利用状況等(平成30年度推計)

(注4)
農林水産省生産局畜産部畜産企画課:家畜排せつ物の管理と利用の現状と対策について、2015

(注5)
農林水産省農林水産技術会議:循環する資源としての家畜排せつ物、農林水産研究開発レポート、No.3、2002

○添付資料:
図1 野菜.png
図1 廃棄野菜、果物から製造した素材の例①
左からキャベツの外皮、いよかんの皮、玉ねぎの皮。

図2 野菜.png
図2 廃棄野菜、果物から製造した素材の例②
左から玉ねぎの皮、製造温度が異なるいよかんの皮2種、茶葉、製造温度が異なるキャベツの外皮2種。

図3Dust.png
図3 本素材開発の着想となった、豊島ライフスタイル寄付研究部門での廃棄物を原料とした各種試作品(Dust to Dust)
上から、パイプ、ボウル、蓋、タイル、キャップ。廃棄物を原料に、ユーザの注文により様々な形へ加工し、活用する方法を考案しました。

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