多少の雑草がある圃場でも高精度に推定可能
2020-10-20 東京大学
- 発表者
- 郭 威(東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 助教)
深野 祐也(東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 助教)
野下 浩司(九州大学理学研究院生物科学部門 助教)
二宮 正士(東京大学大学院農学生命科学研究科 特任教授)
発表のポイント
- ドローン空撮と画像解析により、圃場で栽培した草本植物のさまざまな形質(草丈や容積、植被率など)を1個体ごとに自動で推定する手法を開発しました。この手法には、対象植物と雑草を分割するための新しいアルゴリズムが含まれています。
- 本手法で推定された植物の草丈は、実測した草丈と高い相関がありました。
- 個体ごとの形質データが必要となる生態学・園芸学・林学などの幅広い植物科学分野に応用可能な手法です。
発表概要
東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構の郭威助教らは、ドローン空撮と画像解析技術を使って、野外で栽培した草本植物のさまざまな形質(草丈や容積、植被率など)を1個体ごとに自動で推定する手法を開発しました(図1)。近年、ドローン空撮や画像解析技術の発達により、生産農学をはじめ、さまざまな研究分野でドローンを用いた植物の形質推定技術が開発されています。しかし、これまでの多くの研究では、水田やコムギ畑のような単一種を対象とした群落(プロット)レベルの形質推定を目的としており、個体レベルの形質を推定する手法はほとんど開発されていません。ドローン空撮による個体レベルの形質推定が難しい理由の一つが、雑草の存在です。雑草は、対象の植物と雑草の区別を難しくするため、画像解析上大きな問題となります。
そこで、空撮画像から雑草と対象植物を自動で分割するアルゴリズム(WEIPS、図2)を開発することで、この問題を解決しました。その上で、ドローン空撮画像から対象個体の3次元再構築を行い、個体ごとの草丈や容積、植被率など形質を自動で推定する手法を開発しました。加えて、これまで定量化の難しかった「植物体の輪郭」を推定・比較する手法を考案しました。本手法の有効性を検証するために東京大学生態調和農学機構の圃場で栽培されたキクイモ60株をモデルとして解析したところ、対象植物と雑草や土壌は精度よく領域分割されており、推定された植物の草丈は地上で人が実測したものと高い相関を示しました(図3)。
今後、個体ごとの形質データが必要となる生態学・園芸学・林学などの幅広い植物科学分野への応用が期待されます。
発表内容
図1 開発した手法の概要図
図2 新しい雑草除去アルゴリズムの概要
図3 空撮画像から推定した草丈と人力で測定した草丈の関係
近年のドローンや画像解析技術の著しい発達により、野外圃場で栽培する植物の形質(草丈や植被率など)を大規模に、短時間で、そして安価に推定できるようになりました。しかし、これまでの応用例はイネやコムギのような作物を対象とした群落(プロット)レベルの形質推定に限られています。一方で、1個体ずつ栽培されている植物の形質を推定する手法はほとんどありませんでした。個体レベルの形質データが必要な場面は、生態学的な野外圃場実験や、露地野菜の栽培、林業における苗木生産など多くあります。そこで、本研究では、ドローン空撮と画像解析技術を使って、野外条件で栽培した草本植物のさまざまな形質(草丈や容積、草姿の輪郭、植被率など)を1個体ごとに自動で推定する手法の開発を目的としました。
ドローン空撮で個体レベルの形質推定が難しい理由の一つが、雑草の存在です。圃場試験においては、対象となる植物種以外の雑草が発芽・生育するのは避けられず、特に大規模な圃場になると人力による完全な除草は非現実的です。雑草の存在は、栽培には影響のない低い密度であっても、画像処理上では大きな問題になります。なぜなら、植物個体の形質を推定するためには空撮画像から植物個体だけを領域分割する必要がありますが、雑草が少しでも画像に含まれると、分割の精度が著しく低下してしまうからです。
発表者らは、空撮画像から雑草を自動的に除去するために、既存のRGB画像ベースの分割に加えて、3次元再構築された植物の高さ情報も加味した新しい分割アルゴリズム(WEIPS: Weed Elimination for Individual Plant Segmentation)を開発しました(図2)。この手法の有効性を検証するために、東京大学生態調和農学機構の圃場で栽培した3集団由来のキクイモ60株を対象とし、2017年5月13日から2017年7月18日までドローンによる撮影を経時的に行いました。撮影された画像をWEIPSによって分割し、草丈や容積など3次元形質、植被率やRoundnessなどの2次元形質を推定しました。加えて、これまで定量化が難しかった植物体の輪郭を推定する手法を考案しました(図1左下)。最後に、この手法で推定された草丈と、地上で実測した草丈を比較し、この手法の精度を評価しました。
WEIPSによる雑草と対象植物の分割は、人が画像を見ながら手作業で分割したものとおおむね一致していました。一方、既存のRGB画像ベースの手法では、うまく分割できていませんでした。つまり高さ情報を加味することによって、対象植物と雑草を効果的に分割できていたといえます。また、一連の解析によって推定されたキクイモ60株の草丈は、実測した草丈と高い相関を示していました(図3)。特に、草丈が30センチ程度の生育初期でも、精度よく推定できることがわかりました。加えて、実測が困難な、植物体の容積や輪郭など、いくつかの形質において集団間の違いを検出できました。これらの結果は、発表者らの開発した手法は、圃場試験での個体レベルの形質測定に有用であることを示しています。
個体ごとの形質測定は生態学・園芸学・林学など幅広い植物科学分野で行われており、本手法はさまざまな分野で応用が期待されます。本研究ではキクイモ60個体だけを解析対象にしましたが、一連の解析は自動化されているので、より多くの個体を栽培する圃場試験にも応用することができます。また、非破壊で形質を推定しているので、同一個体を経時的に測定できます。つまり、本手法を用いれば、野外圃場で栽培されている数千・数万の植物個体の形質を数日おきに計測することも可能です。今後は、本手法の有効性をさまざまな状況下で検証していくと同時に、推定精度を高めるための研究が必要です。なお、本手法のソースコードはオンラインで公開していますので、誰でも利用可能です(URL:https://datadryad.org/stash/dataset/doi:10.5061/dryad.0cfxpnw0b。
発表雑誌
- 雑誌名:Ecology and Evolution
- 論文タイトル:Field-based individual plant phenotyping of herbaceous species by unmanned aerial vehicle
- 著者:Wei Guo*, Yuya Fukano, Koji Noshita, Seishi Ninomiya(*責任著者)
- DOI番号:10.1002/ece3.6861
問い合わせ先
東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構
助教 郭 威(カク イ)