スマートセル技術を活用し、世界最高レベルの生産効率達成
2020-09-30 新エネルギー・産業技術総合開発機構
NEDOと長瀬産業は、食品・化粧品・医薬品などの幅広い分野での利用が期待されている希少アミノ酸エルゴチオネインの発酵生産法の開発に取り組んでいます。この度、NEDOが開発を進めるスマートセル技術の活用により、微生物細胞の生産性を飛躍的に向上させ、世界最高レベルの生産効率を達成しました。今回の成果により、安価かつ高純度なエルゴチオネインの環境配慮型バイオ生産プロセスの確立が可能になりました。
今後は、開発した生産菌株を活用し早期の事業化を進め、「スマートセルインダストリー」の実現に貢献します。
1.概要
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、植物や微生物の細胞が持つ物質生産能力を人工的に最大限引き出した生物合成技術「スマートセル」を構築し、化学合成では生産が難しい有用物質の創製、または化学合成法の生産性を上回ることを目的に、基盤技術および特定の生産物質における実用化技術の研究開発プロジェクト(スマートセルプロジェクト※1)を推進しています。
エルゴチオネイン(EGT)※2は、キノコなどに微量に含まれる抗酸化能に優れた希少アミノ酸で、食品・化粧品・医薬品などの幅広い分野での利用が期待されています。既存のEGTの製法としては、天然物からの抽出法・化学合成法などが主流ですが、抽出法では天然物中のEGTが微量であること、化学合成法では環境負荷が大きいことなどから、安価かつ環境にやさしい製造方法が確立されておらず、EGTの製造コストが高いことが普及の課題でした。
長瀬産業株式会社(長瀬産業)では、2015年から微生物を用いた発酵法で安価なEGTを安定供給できる環境配慮型バイオ生産プロセスの開発を開始しました。2019年からはNEDOのスマートセルプロジェクトに参画し、さらに研究開発を加速しました。
今回、スマートセル基盤技術を活用することで開発した生産菌株において、EGT生産性を従来比で約1000倍※3に向上させ、微生物を用いて世界最高レベル※4の生産効率を達成しました。今後は、開発した生産菌株を活用し早期の事業化を進め、「スマートセルインダストリー」の実現に貢献します。
なお、本成果は、2020年10月14日から16日までパシフィコ横浜で開催される「BioJapan 2020」のNEDOブースでも展示・発表する予定です。
2.今回の成果
独自の4種類のスマートセル基盤技術※5「酵素改変設計技術」「代謝経路設計技術」「HTP微生物構築・評価技術」「輸送体探索技術」を活用し、微生物細胞のEGT生産能力向上を目指した結果、細胞内の生産反応の最適化に成功したことで、従来比で約1000倍となる飛躍的な生産技術を確立し、微生物を用いた世界最高レベルの生産効率を達成しました。
【事業の概要】
- (1)事業名:
- 植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発/微生物による高機能品生産技術開発/希少アミノ酸エルゴチオネイン高生産スマートセルの開発
- (2)事業期間:
- 2019~2020年度
- (3)助成先:
- 長瀬産業
- (4)共同研究機関:
- 国立研究開発法人産業技術総合研究所、国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学、国立大学法人神戸大学、国立大学法人東北大学
【注釈】
- ※1 スマートセルプロジェクト
- NEDOが2016~2020年度で推進している「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発」プロジェクトの通称です。このプロジェクトでは、植物や微生物の細胞が持つ物質生産能力を最大限に引き出した“スマートセル”を作り出し、従来の化学合成法では生産が難しい有用物質の創製、生産プロセスの低コスト化や低環境負荷を実現するための次世代技術の開発をオールジャパン体制で進めることで、次世代産業“スマートセルインダストリー”の実現を目指しています。
(『Natureオンライン』掲載のプロジェクト記事 : Focal Point on Synthetic Biology in Japan)
(スマートセルプロジェクトホームページ : 植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発) - ※2 エルゴチオネイン(EGT)
- キノコなど一部の微生物が生産できる希少アミノ酸(下図、構造式)。近年の研究で、ヒトにはEGTを利用するための仕組みが備わっていることが明らかになりました。食事から摂取したEGTが脳機能の改善、皮膚、眼、各種臓器における酸化ストレスから細胞を保護することが示唆されています。
(『Natureオンライン』掲載のEGT生産に関する記事 : Breakthrough in bio-based production of longevity vitamin, ergothioneine)
(長瀬産業ホームページ : エルゴチオネイン ~安定・安全かつ強力な天然抗酸化物質~)
- ※3 約1000倍
- 長瀬産業における研究開始時の生産性との比較。
- ※4 世界最高レベル
- 長瀬産業調べ。
- ※5 スマートセル基盤技術
- 短期間での微生物の物質生産性向上を目指すために、同プロジェクトで開発された基盤技術。詳細は下記ホームページを参照。
(スマートセルプロジェクトの技術紹介 : NEDO SMARTCELL PROJECT)
3.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 材料・ナノテクノロジー部 バイオエコノミー推進室 担当:伊藤、金田、林
長瀬産業株式会社 ナガセR&Dセンター 担当:仲谷、曽田
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:坂本、鈴木(美)