2020-01-31 JAXA
地球が見える 2020年
オーストラリアは、もともと干ばつや森林火災が多い地域ですが、2019年9月頃にオーストラリア南東部のニューサウスウェールズ州を中心に多発した森林火災は、次第に規模を拡大し、複数の場所で発生した森林火災が合流して制御不能となる「メガ火災(Mega Fire)」も発生するなど、2020年1月末の段階でも終息の目途が立たない状況となっています。森林火災は、人的・経済的被害だけでなく、多くの動物の生息環境の悪化や、大量の温室効果気体である二酸化炭素の大気放出を招きますが、オーストラリアの森林火災でも、コアラなどの野生動物の生息域への深刻な打撃が懸念されています。ここでは複数の衛星データを用いて、今回の森林火災を多角的に解析した結果を紹介します。
■ 干ばつの状況
今回の森林火災の背景のひとつに、オーストラリアの特に東部が、平年に比べて雨が非常に少ない「干ばつ」の状況にあったことが挙げられます。JAXAでは、全球降水観測計画(GPM)において、GPM主衛星や水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)など複数の人工衛星データを用いて、「衛星全球降水マップ(GSMaP)」という世界の降水分布データを作成して提供しています。GSMaPは2000年3月以降のデータが整備されており、20年弱の衛星降水データとしては長期データセットであるため統計解析にも利用できます。
降水量のみで干ばつを評価できる統計指数である「標準化降水指標」(SPI: Standardized Precipitation Index)を、GSMaPから計算し、現在オーストラリアで発生している干ばつの検出を試みました。図1左は2019年12月の1か月間のGSMaP降水量から計算したSPI、右は2019年10-12月の3か月間の降水量より計算したSPIです。2019年12月のGSMaP降水量から計算した場合でも、2019年10-12月の降水量から計算した場合でも、オーストラリアの大部分が負のSPI値となっており、平均よりも降水量が少ないことがわかります。特に、東部では主要な穀倉地帯であるマレー・ダーリング盆地を含めて-1.5を下回る著しい乾燥や-2.0を下回る極端な乾燥の地域が広がっています。この結果は、オーストラリア気象局による2019年12月の干ばつ報告と一致しています。
図1 (左)2019年12月の1か月間のGSMaP降水量から計算したオーストラリアのSPI、(右)同様に2019年10-12月の3か月間の降水量から計算したSPI。SPIの値と干ばつの規模、現象の頻度の関係は、WMO (2012)で整理されており、SPIが「-1.5以下で-2.0より大きい」値を取る場合は、概ね「20年に1回」の著しく乾燥した(雨の少ない)状態、SPIが-2.0未満の場合は、現象の頻度が「50年に1回以下」の極端な乾燥に該当し、社会的影響が非常に大きい干ばつが発生する恐れのあることを示す。
このように昨年秋から、オーストラリアの広い範囲、特に東部が平年よりもかなり乾燥した干ばつの状態にある状況で、南東部のニューサウスウェールズ州を中心に森林火災が多発しました。
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