超高均一で究極に透明なゲルを創出 〜ゲルの状態を再定義〜

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2019-12-07 東京大学

発表のポイント
  • 簡便な方法で、ソフトマテリアルの常識を覆す、極めて均一性の高いゲルの合成に成功した。
  • ゲル化前の溶液内で高分子を緻密に充填することで、ゲル化後でも均一に分散した状態を維
    持できることを突き止めた。
  • 本手法は、幅広い高分子種に適用でき、医学、薬学、化学、光学、電子工学、など幅広い分
    野への波及効果が期待される。
発表概要

東京大学物性研究所のLi Xiang(リ シャン)助教、柴山充弘教授、日本学術振興会の中川 慎太郎特別研究員(現:東京大学生産技術研究所 助教)らの研究グループは、溶液中に星型分岐高分子を緻密に充填した状態で架橋反応を進めることで、架橋構造が超高均一なゲルを創出した。本ゲルは空間的な構造の欠陥がなく、究極に透明という特徴を有するため、光ファイバーなどへの応用が期待される。

ゼリーに代表される柔軟なゲル材料は溶液に溶けた高分子同士をピン留(架橋)することで作られる。この架橋反応は、溶液中で乱雑に動く高分子の間で確率論的に進むため、形成される高分子架橋構造は必然的に不均一なものになると考えられてきた。

本研究で創出されたゲルは、高分子の網目構造が不均一なものであるという常識を覆し、ゲルという状態を再定義するものである。また、提案した手法は、高分子の種類・反応様式に依存しないため、幅広い高分子種に適応でき、医学、薬学、化学、光学、電子工学など幅広い分野への波及効果が期待される。

本成果は2019年12月6日(米国東部時間)に「Science Advances」のオンライン速報版で公開されました。

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発表内容
背景

ゼリーに代表される高分子ゲル材料は我々の身の回りにあるありふれたソフトマテリアルであり、おむつや化粧品の吸水・保水剤、リチウムイオン電池の電解質担体、DNAやタンパク質の分離膜、抗がん剤の徐放化担体など、幅広く利用されている。ゲルは溶液中で高分子同士をピン留(架橋)することよって形成され、ナノメートルサイズ(~10−9 m)の網目を持つ高度に発達した3次元架橋構造を有する。

このようなナノ細孔を持つ3次元構造体を形成する他の方法には、ナノリソグラフィー(注1)金属有機構造体(注2)などがあるが、出来上がる構造体全体のサイズは顕微鏡でしか見えないほど小さく(~10−9 cm3)、手で扱える大きさ(~1 cm3)のものを構築するのは極めて困難である。これに対し、ゲルはナノ細孔をもつ材料でありながら、簡単な化学合成で、全体のサイズが手で扱えるほどまで成長させることができるという、他の材料にはない特徴を持つ。

しかし、ゲルの網目構造は一般的に多くの欠陥を含み、非常に不均一である。ゲルに干渉性の良いレーザー光を当てると、これまで全てのゲルにおいて、その不均一なナノ構造を反映した乱雑な干渉スポット(スペックル)が必ず検出されてきた。もし、精緻なナノ構造を維持したまま、手のひらサイズの大きさのゲルを合成することができれば、多くの科学分野に大きな発展をもたらすことができる。

研究内容と成果

今回、Li助教らは、架橋前の高分子を溶液内で緻密に充填することで、溶液内の高分子が架橋前から架橋後まで一貫して空間を均一に埋め尽くす状態を作り出し、最終的な架橋構造が極めて均一なゲルを創出した。溶液内の空間が常に均一に埋め尽くされた状態で進む架橋反応は、古典的なパーコレーション理論の中の「ボンドパーコレーション」(注3)と呼ばれるものに相当し、概念としては1950年代から存在していたが、現実な系で実現できたのは今回が初めてである。

本研究では、4本の長い腕をもつテトラポリエチレングリコールと呼ばれる星型分岐高分子と、タンパク質同士の接着にも使われているアミノペグアミンを架橋剤として用いた(図1)。まず、テトラポリエチレングリコールを溶液中に均一に分散・充填させるため、適切な有機溶媒に溶かした。次に架橋剤となるアミノペグアミンを加えることで架橋、ゲル化させた。

図1

図1. ボンドパーコレーション型の架橋反応を用いてゲルを作製する模式図と、実際に合成された非常に均一で透明なゲルの写真。ゲル化前の溶液内で星型高分子を緻密に充填することで、ボンドパーコレーションの要件を満たし、架橋が起きても空間は常に均一に高分子で埋め尽くされる。

合成されたゲルの空間相関・時間相関を光散乱やX線散乱で評価した結果、空間不均一性を示す散乱光の干渉スポット(スペックル)は一切見られなかった(図2)。また、これまで全てのゲルにおいて観測されていた異常な小角散乱は生じず、さらにはゲル化点の決定にも使われていた位置依存的な緩和挙動(非エルゴード性の発現)(注4)も一切観測されなかった。これらの結果は、これまで広く受け入れられてきたゲル材料の描像と全く異なる。

図2

図2. 光散乱実験によって得られたボンドパーコレーションゲルと従来の手法で合成されたゲルのレーザースペックル画像。従来の手法では散乱光の干渉スポット(スペックル)が多く見られるのに対して、今回提案した手法で合成されたゲルは一様な散乱光が観測された。

本研究で開発されたゲルは、ゲル化前後での高分子鎖の空間相関・時間相関が全く同一であったことから、もはや一般的な散乱法ではゲル化を検出できないことが明らかになった。言い換えれば、今回合成されたゲルは、実際にそれを触ってみるまで、溶液なのかゲルなのか判別できない。そのため、本研究では別途粘弾性特性の測定よりゲル化の確認およびゲル化点の決定を行った。

今回作製された均一な網目構造を持つゲルは、高性能分離膜としての応用が期待されるだけでなく、構造不均一性に由来する光の異常散乱が起こらないため、ソフトマテリアルとして達成しうる理論上限の透明度が実現された。このような究極の光学特性から、非常に柔軟で液漏れの心配もない光ファイバーなど光学デバイスへの応用も期待できる。さらに、導電性高分子でゲルを構築すれば、欠陥による抵抗増加が起こらず、伝導率の向上が見込める。

本研究の意義、今後の展望

今回提案したボンドパーコレーションに基づくゲル材料の合成方法は、高分子の化学種・反応様式に依存しないため、種々の架橋高分子材料(ゲル・ゴム・樹脂)へ適用できる可能性があり、医学、薬学、化学、光学、電子工学、など幅広い分野への波及効果が期待される。さらに、このような超高均一なゲルは、これまで不均一性の裏に隠されていた架橋高分子材料の本質的な理解に資することが期待される。

発表雑誌
  • 雑誌名:「Science Advances」(2019年12月6日(米国東部時間)掲載)
  • 論文タイトル:Polymer gel with a flexible and highly ordered three-dimensional network synthesized via bond-percolation
  • 著者: Xiang Li, Shintaro Nakagawa, Yui Tsuji, Nobuyuki Watanabe, Mitsuhiro Shibayama
  • DOI番号:10.1126/sciadv.aax8647
用語解説
(注1)ナノリソグラフィー
ナノリソグラフィーは材料を分子レベルで削ることで、ナノメートルスケールの構造体の形成に用いられる技術である。
(注2)金属有機構造体
金属有機構造体は、金属イオンと有機配位分子が相互作用することで、ナノメートルスケールの細孔を持つ3次元構造体である。金属有機構造体は非常に剛直な構造を持つのに対して、高分子ゲルは柔軟な構造を持つ。
(注3)パーコレーション理論とボンドパーコレーション
パーコレーション理論は、ある限られた空間内で、粒子が互いに結合しクラスターを形成していく際に、どのようなクラスターが形成され、いつ空間と同じ大きさのクラスターが形成されるのか、すなわちパーコレートしたのかを考察する理論である。パーコレーション理論はゲル化過程だけでなく、森林火災や疫病の伝播などでも利用される。特にボンドパーコレーションと呼ばれる条件では、空間を小さな格子(サイト)区切り、全てのサイトを粒子で埋め尽くした状態からスタートする。粒子間で結合が起きても、粒子が移動しても、空間は常に均一に充填されているので、空間的な不均一性は起き得ない。
(注4)位置依存的な緩和挙動と非エルゴード性の発現
これまでの高分子ゲルは構造欠陥が多く、非常に不均一網目持っていたため、測定するサンプルの場所に応じて観測される高分子の運動性(緩和挙動)が変化していた。このように測定するサンプル位置に応じて、運動性が変化する状況、すなわち時間平均と統計平均が一致しない状況は、非エルゴード的な状況と呼ばれる。
関連ページ
  • 東京大学物性研究所 柴山研究室