史上最薄の高分子樹脂を開発

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2020-07-17 東京大学

発表のポイント

◆高分子シートはさまざまな製品に利用されていますが、その厚さを分子レベルにまで薄くすることは非常に難しく、これまで長い間化学者の課題となっていました。

◆分子レベルの細孔を有する多孔性金属錯体(MOF)を鋳型として使うことで、わずか1分子の厚さの高分子シートを大量合成することに成功しました。

◆この高分子シートは従来の紐状高分子と比べて、柔軟性が大幅に向上することを明らかにし、多くの機能性材料の素材として幅広い応用の可能性が示されました。

発表概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科の植村教授らは、分子でつくったナノサイズの空間を鋳型として使うことで、極限的に薄い高分子シートを正確かつ大量に合成する手法を開発しました。

自動車やスマートフォン等、高性能化や軽量化が要求される製品開発においては、どれだけ薄い高分子シートを作れるかが重要となっています。しかし、一般的な塗布や延伸といった成膜法では薄膜化に限界があり、分子レベルまで薄い高分子シートを合理的かつ大量に合成することはできませんでした。植村教授らの研究グループは、分子サイズの小さな隙間を持つ多孔性金属錯体(MOF、注1)を高分子合成の鋳型として利用することで、分子1個の厚さしかない高分子シートを大量に合成する手法を開発しました。これは世界で最も薄い高分子シートです。興味深いことに、この高分子シートは従来の高分子とは異なる性質を持っていることがわかりました。一般的な高分子は紐状の分子構造を持っており互いに絡み合いますが、高分子シートは原理的に絡み合えないため、これまで知られていなかった非常に柔軟な性質を示すことを発見しました。

本手法は、夢の材料であったシート状高分子の大量供給に繋がり、高分子製品、油脂、塗料、コーティング素材等、あらゆる化成品産業へ幅広い応用が考えられます(図1)。

本研究成果は、2020年7月17日(英国時間)に国際科学誌「Nature Communications」のオンライン版で公開されました。

発表内容

①    研究背景

高分子化合物からなる薄いシートは、ラッピングやコーティング材料、ディスプレイや電池、医療用品から化粧品に至るまで、多くの産業製品に欠かせない素材です。高分子シートを薄くすることは、それら製品の性能を向上させるだけでなく、軽量化やコスト削減にも繋がる重要な技術です。ところで、この高分子シートの厚さはどこまで薄くすることができるのでしょうか。実はこの問題には昔から多くの化学者が挑戦してきました。一般的に塗布や延伸といった工程で合成される高分子シートは、製造の原理上、分子レベルまで薄くすることは困難であるため、これまで分子レベルの厚さを持った高分子シートを大量にかつ合理的に合成する方法はありませんでした。そのため、極薄の高分子シートがどのような性質を示すのかなどについても、その多くが謎に包まれたまま夢の材料とされてきました。

したがって、高性能化・低コスト化の厳しい課題解決が求められる高分子・化成品産業では、汎用的なビニルモノマー(注2)を利用して分子レベルの厚さを持った高分子シートを合成する技術が課題解決の一つの突破口として注目され、その開発が長年待ち望まれていました。

②    研究内容

本研究では、金属イオンとそれをつなぐ有機物から合成され、ナノサイズの空間を有する多孔性金属錯体(MOF)と呼ばれる材料に着目しました。二次元状の空間(隙間)が規則的に並んだ構造を持つMOFを利用し、その隙間の中でモノマーを架橋重合(注3)すれば、分子レベルの厚さの極薄高分子シートが効率的に得られると考え、研究を行いました。

汎用的なビニルモノマーであるスチレンは約0.7 nmの大きさを持っています。それよりも少しだけ大きい約0.8 nmの隙間を有するMOFを合成し、その隙間にスチレン分子を入れることで、1分子の厚さの二次元空間内にスチレンを閉じ込めることができました。その状態でスチレンモノマーを架橋重合し、MOFを取り除くことで、わずか1分子の厚さのポリスチレンシートを単離することに成功しました。本手法は反応のスケールアップも容易であり、同様の手順でグラムオーダーのポリスチレンシートの合成が可能であることも示されました。一般にモノマーを架橋重合すると三次元的なネットワークを作るため、溶媒に不溶の固体になってしまいます。しかし、この高分子シートは溶媒に均一に分散し溶解することがわかりました。光散乱を用いた分子量測定により、ポリスチレンシートの分子量は約30万であることもわかり、そのサイズは約100 nmであると見積もられました。一般的な高分子は、多数のモノマーが連結した紐状構造を持っています。しかし、今回得られた高分子シートは、分子レベルで二次元状のシート構造を持っており、従来の紐状高分子とは大きくことなる形状であることが原子間力顕微鏡(注4)による観察で明らかになりました。

このMOFを鋳型とした合成手法はモノマーの種類を選ばないため、代表的な汎用高分子の一つであるポリメチルメタクリレートも同様に単分子厚のシートとすることができました。MOFは金属と有機物の組み合わせにより自在に構造設計が可能です。そこでMOFの隙間の広さを約1.2 nmに調整し、同様にモノマーの架橋重合を行ったところ、隙間の広さに応じた厚い高分子シートも得られることもわかりました。したがって、本手法によりシートの厚さも自在に制御が可能であることが示されました。

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