人為的作用による大気中への鉄の供給量を同位体比から解明

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燃焼起源鉄の気候変動への影響の定量化に寄与

2019-04-15 東京大学

東京大学大学院理学系研究科の栗栖美菜子大学院生(博士課程2年)と高橋嘉夫教授らの研究グループは、製鉄所付近で採取された大気中微粒子(エアロゾル)の分析から、燃焼起源の鉄が特異的に低い鉄安定同位体比を持ち、海洋表層に輸送される燃焼起源鉄の寄与を知る手がかりとなることを示しました。


外洋域では、海水中の溶存態の鉄の濃度が低いために、植物プランクトンによる生物生産性が制限されている海域があります。鉄の供給は生物生産に伴う光合成の増加により、大気中の二酸化炭素を吸収することで炭素循環にも影響を及ぼし、これは最終的に気候変動とも関連します。鉄の主要な供給源として考えられているのがエアロゾルですが、黄砂等に含まれる自然起源鉄に加えて、近年では石炭燃焼等の人為的な活動により排出されるエアロゾル、いわゆるPM2.5のような微小粒子中の鉄の重要性が示唆されていますが、その寄与については未解明の部分が多くありました。

「鉄安定同位体比」は異なる質量数を持つ鉄同位体の存在比を表し、鉄の供給源ごとに異なる値を持つため、鉄の起源を示すトレーサーとしての利用可能性が示唆されていますが、燃焼起源鉄のデータはほぼありませんでした。栗栖・高橋らは、燃焼起源鉄の発生源の一つである製鉄所付近で粒径を細かく分けてエアロゾルを採取・分析し、燃焼起源鉄は自然起源鉄に対して非常に低い鉄安定同位体比を持つことを明らかにしました。燃焼過程で鉄が気化し、より質量数の小さい(軽い)鉄が優先的に気化することにより同位体分別が起こったことが原因であると考えられます。同様の現象が他の排出源付近や日本の一般的な環境においても見られることも同グループは発表しており、低い同位体比を持つ燃焼起源鉄が普遍的に存在し、トレーサーとして利用可能であることが示されました。実際に沿岸域においても低い同位体比が観察されており、燃焼起源鉄が海洋にまで到達していることが明らかになりました。

今回の結果は、燃焼起源鉄の海洋の鉄循環における定量的な寄与の評価、そして炭素循環や気候変動との関連性を明らかにしていく上でも重要であると考えられます。

「驚くような低い鉄同位体比が検出されたときにはとても興奮しました。この低い同位体比が観測された時、すぐにこれは鉄の物質循環において重要な指標になると思いました」と栗栖大学院生は語ります。鉄の安定同位体比の分析は、他の元素の干渉などが原因となり非常に難しく、また大気中の鉄濃度は低いため、この研究には高度な分析技術が必要でした。高橋教授は、「栗栖さんの非常に丁寧かつ高度な分析により、この研究は可能になった」と評価しています。「エアロゾル中の鉄が海洋の生物生産を活発化させ気候変動に影響を与えることは、現在世界的に活発に研究されている分野であり、今後、この燃焼に伴う低い同位体比を用いて、人為起源鉄の寄与の推定や、さらに火山(=やはり気化を伴う)からの鉄の寄与の推定などが行われてくると思います」と高橋教授は将来の展望を語ります。

論文情報

Minako Kurisu, Kouji Adachi, Kohei Sakata, and Yoshio Takahashi, “Stable isotope ratios of combustion iron produced by evaporation in a steel plant,” ACS Earth and Space Chemistry: 2019年2月22日, doi:10.1021/acsearthspacechem.8b00171.
論文へのリンク (掲載誌)

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