コロイドの凝集過程をきわめて精密に予測

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2019-04-03 東京大学

○発表者:
田中 肇(東京大学 生産技術研究所 教授)

○発表のポイント:
◆コロイド(微粒子)が凝集していく過程を、共焦点顕微鏡により1粒子分解能で、3次元的に観察することに成功するとともに、独自のシミュレーション手法により、恣意的なパラメータを一切含まずに、実験結果をきわめて正確に再現することに成功した。
◆コロイドの凝集過程の予測は、ソフト・バイオマター分野の重要課題のひとつだが、この過程でサイズの異なる構成要素(コロイド粒子・溶媒分子)の運動が複雑に絡み合うため、理論的な取り扱いが困難だった。今回、コロイドと溶媒の運動をコンピューター上で正確に再現することで、凝集過程の精密な予測に初めて成功した。
◆この成果は、コンピューターをベースとした、コロイド分散系を中心とするソフト・バイオマターのマテリアルデザインに新たな展開をもたらすものと期待される。

○発表概要:
 東京大学 生産技術研究所の田中 肇 教授と博士課程の学生 舘野 道雄 氏の研究グループは、直径がnm~μm(ナノメートル~マイクロメートル)程度の大きさの微粒子(コロイド)が溶媒中に分散した「コロイド分散系」において、コロイドが凝集していく過程を、共焦点顕微鏡を用いて、1粒子分解能で3次元的に観察することに成功した。同時に、独自の数値シミュレーション手法(流体粒子動力学法)を用いて、凝集過程を予測した。そして、実験で得られた観察データとシミュレーション結果を、個々のコロイドの微視的な運動から凝集体の大域的な構造にわたって比較したところ、恣意的なパラメータを一切含むことなく、実験結果をきわめて正確に再現できることが判明した。
 この結果は、コンピューターを利用したコロイド分散系の構造形成の予測、さらには、ソフト・バイオマターの物質設計に新たな展開をもたらすと期待される。
 本成果は2019年4月2日(英国夏時間)に「npj Computational Materials」のオンライン速報版で公開された。

○発表内容:
 コロイド分散系とは、nm~μm程度の粒子(コロイド)が溶媒中に分散した系を指し、気体・液体・固体微粒子の懸濁液、タンパク質溶液、エマルジョンなど、ソフトマター物理学・生命科学が対象とする系の多くを含んでいる。コロイドの凝集過程は、タンパク質の自己組織化のモデルでもあり、その過程を数値的に予測することは、基礎・応用両面できわめて重要な課題である。しかし、この過程において、サイズの大きく異なる構成要素(コロイド粒子・溶媒分子)の運動が運動量保存則を満たすように複雑に絡み合うことが予想される。
 これまで長年の間に、コロイドの凝集過程については、さまざまなシミュレーションモデルが適用されてきた。代表的な例としては、コロイド粒子・溶媒分子の両者を粒子とみなし分子動力学法よりシミュレーションする方法、溶媒の運動の寄与をコロイド間に働く相互作用として扱うことで、コロイドの運動のみを時間発展させる方法、溶媒の運動を流体力学方程式として記述しコロイドの運動と連立して解く方法が挙げられる。しかし、これらの計算結果を、個々のコロイド運動と照らし合わせて精密に比較できる実験を行うことは難しく、上述のシミュレーションモデルの妥当性に関して、実験的な裏付けがなされていないのが現状であった。
 今回、東京大学 生産技術研究所の田中 肇 教授と博士課程の学生 舘野 道雄 氏の研究グループは、コロイド分散系の相分離の過程で起きるコロイドの凝集現象を、相分離のごく初期から、共焦点顕微鏡により1粒子レベルで3次元実時間観察することに成功した。さらに、実験で得られたコロイドの凝集構造の経時変化を、数値シミュレーション結果と直接比較することに成功した。その結果、実験とシミュレーションの間で、コロイドの密度とコロイド間の相互作用を正確にマッチングさせた状況下では、本研究グループが独自に開発した、Navier-Stokes方程式の直接計算に基づく数値シミュレーション手法(流体粒子動力学法:FPD法)が、恣意的なパラメータを一切含まずに、実験結果をきわめて正確に再現することが判明した。例えば、低密度のコロイド分散系で形成される空間的に孤立した凝集体のサイズ分布や、これよりも比較的高い密度で生じるネットワーク状の凝集構造のトポロジー的特徴(ネットワーク構造を貫く穴の個数など)について、実験とFPD法の間にきわめて良い一致が見られた。一方、溶媒の流体力学的な運動の寄与を完全に無視したシミュレーション手法(ブラウン動力学法:BD法)による数値計算結果は、実験結果を全く再現できないことも分かった(図1)。
 以上の結果は、溶媒の流体力学的な振る舞いが、コロイドの自己組織化の過程においてきわめて重要な役割を演じることを、明確な形で示したものである。また、今後のコンピューターをベースとした、ソフト・バイオマターのマテリアルデザインに新たな展開をもたらすものと期待される。

○発表雑誌:
雑誌名:「npj Computational Materials」
論文タイトル: Numerical prediction of colloidal phase separation by direct computation of Navier-Stokes equation.
著者: Michio Tateno and Hajime Tanaka
DOI番号 : 10.1038/s41524-019-0178-z

○問い合わせ先:
東京大学 生産技術研究所
教授 田中 肇(たなか はじめ)

○添付資料:

図1
 相分離の後期過程での凝集構造。左から右へそれぞれ、実験結果(EXP)、流体効果を含むシミュレーションの結果(FPD)、含まないシミュレーションの結果(BD)を示す。コロイドの濃度が希薄な系では、上段のようにそれぞれがつながっていない孤立した凝集体が、ある程度高い濃度では、下段のようにネットワーク状の凝集構造が見られる。上段の粒子の色は、それぞれの凝集体に含まれる粒子の個数に応じて付けられており、含まれる粒子が多いほど暖色で表現されている。下段は、手前と奥を見分けるために粒子に色をつけてあり、手前ほど薄い色で表現されている。

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