原子間の静電的な力が支配 断層運動の仕組み解明にむけた指針として期待
2018.12.22 物質・材料研究機構 (NIMS),東京大学,広島大学
NIMSは、東京大学大学院理学系研究科、広島大学と共同で、粘土鉱物の摩擦の起源が、接触面の原子間にはたらく静電的な力であることを、実験と理論から初めて明らかにしました。
概要
- NIMSは、東京大学大学院理学系研究科、広島大学と共同で、粘土鉱物の摩擦の起源が、接触面の原子間にはたらく静電的な力であることを、実験と理論から初めて明らかにしました。固体潤滑剤の材料設計や、地震発生の原因となる断層面のすべりの仕組み解明の指針となることが期待されます。
- 粘土鉱物を含む層状結晶は一般的に摩擦力が低く、自然界では地滑りや断層運動の要因の1つと考えられています。また摩擦を低減する固体潤滑剤としての利用も検討されるなど、摩擦に関する研究が盛んに行なわれています。しかし粘土鉱物の摩擦の起源については、何らかの力で表面同士が接着することが原因だと考えられていますが、物質間にはたらく静電力や分子間力のほか、接触面同士の結晶方向の違い、表面の粗さや不純物の存在なども複合的に作用するため、詳細は分かっていませんでした。
- 本研究チームは、原子レベルで平滑な表面を持つ層状粘土鉱物「白雲母」に注目しました。20×40 cm2の白雲母表面間に乾燥状態で高圧をかけて水分を排除し、表面をずらしながら摩擦力を測定しました。その結果、接触面が削れてできた摩耗粒子の影響で、結晶方位の影響が平均化されている可能性があることが分かりました。さらに量子力学に基づいて、接触面で原子間にはたらく静電的な力を計算し、結晶方位の影響を平均化して摩擦力を求めたところ、実験結果と非常によく一致することが分かりました。これらの結果から、粘土鉱物におけるセンチメートルサイズの摩擦が、原子スケールの静電的な力によって支配されていることを初めて明らかにしました。
- 今後は白雲母以外の粘土鉱物全般の摩擦強度を理解する理論を構築して、地滑りや地震と摩擦の関係解明を目指します。また摩擦を低減する固体潤滑剤などの材料設計の指針を与えるものと期待されます。
- 本研究は、物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点の佐久間博主任研究員、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (WPI – MANA) 末原茂主幹研究員、東京大学大学院理学系研究科の河合研志准教授、広島大学大学院理学研究科の片山郁夫教授の研究チームによって行われました。また本研究は、文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究 「地殻ダイナミクス – 東北沖地震後の内陸変動の統一的理解—」の公募研究 JP17H05320, JP15H01145 および、JSPS科学研究費補助金 JP15H02147の助成を受けたものです。
- 本研究成果は、Science Advances誌にて現地時間2018年12月21日14時 (日本時間12月22日4時) に掲載されます。
掲載論文
題目 : What is the origin of macroscopic friction?
著者 : Hiroshi Sakuma, Kenji Kawai, Ikuo Katayama, Shigeru Suehara
雑誌 : Science Advances
掲載日時 : 2018年12月21日14時 (日本時間22日4時)
DOI:10.1126/sciadv.aav2268