2018/09/14 環境省
環境省は、14日、鹿児島県で計画されている「(仮称)輝北風力発電事業Ⅰ更新計画計画段階環境配慮書」(株式会社ユーラスエナジーホールディングス)に対する環境大臣意見を経済産業大臣に提出した。
本事業は、鹿児島県鹿屋市、垂水市及び霧島市において、現在稼働中の「ユーラス輝北ウインドファームⅠ」(総出力20,800kW、定格出力1,300kWの風力発電設備16基)について、既設の風力発電設備を全て撤去し、総出力は増加させずに、定格出力最大4,000kW級の風力発電設備最大12基程度に建て替える事業である。
環境大臣意見では、(1) 騒音等や風車の影による生活環境への影響を回避又は極力低減すること、(2) 既設風力発電設備の設置・稼働による鳥類のバードストライクや渡りへの影響等について適切に把握するとともに、本事業に係る調査、予測及び評価を行い、その結果を踏まえ、適切な環境保全措置を講じ、鳥類への影響を回避又は極力低減すること、(3) 全国有数の天体観測地点であることから、風力発電設備に係る航空障害灯の設置に当たっては、適切な環境保全措置を講ずること等を求めている。
1.背景
環境影響評価法及び電気事業法は、出力10,000kW以上の風力発電所の設置又は変更の工事を対象事業としており、環境大臣は、事業者から提出された計画段階環境配慮書※について、経済産業大臣からの照会に対して意見を述べることができるとされている。
今後、経済産業大臣から事業者である株式会社ユーラスエナジーホールディングスに対して、環境大臣意見を勘案した意見が述べられ、事業者は、意見の内容を検討した上で事業計画を決定し、事業段階の環境影響評価(環境影響評価方法書、準備書、評価書)を行うこととなる。
※計画段階環境配慮書:配置・構造又は位置・規模に係る事業の計画段階において、重大な環境影響の回避・低減についての評価を記載した文書。
2.事業の概要
・事業者 株式会社ユーラスエナジーホールディングス
・事業位置 鹿児島県鹿屋市、垂水市及び霧島市(事業実施想定区域面積 約277ha)
・出力 最大20,800kW(2,000kW~4,000kW級×最大12基程度)
3.環境大臣意見
別紙のとおり。
(参考)環境影響評価に係る手続
・平成30年7月31日 経済産業大臣から環境大臣に意見照会
・平成30年9月14日 環境大臣から経済産業大臣に意見提出
添付資料
連絡先 環境省大臣官房環境影響評価課環境影響審査室
【別 紙】
(仮称)輝北風力発電事業Ⅰ更新計画計画段階環境配慮書」に対する環境大臣意見
本事業は、株式会社ユーラスエナジーホールディングスが、鹿児島県鹿屋市、垂水市及 び霧島市において、現在稼働中の「ユーラス輝北ウインドファームⅠ」(総出力20,800kW、 定格出力1,300kWの風力発電設備16基)について、既設の風力発電設備を全て撤去し、総出 力は増加させずに、定格出力最大4,000kW級の風力発電設備最大12基程度に建て替える事業 である。
本事業は、再生可能エネルギーの導入・普及に資するものであり、地球温暖化対策の観 点からは望ましいものである。一般的に、風力発電設備の建て替えは、既存の道路や送電 線等を利用することにより、新設する場合に比べ、土地の改変等による環境影響を低減す ることが可能であると考えられる。また、既設の風力発電設備及び取付道路等の附帯設備 「以下「風力発電設備等」という。」の設置の際に行った環境影響評価等の結果と現在の状 況を適切に比較することにより、事業による環境影響を事前により正確に把握することが 可能であると考えられる。
一方、本事業者によると、既設の風力発電施設における環境影響評価及び稼働後におけ るクマタカの生息状況調査を実施しているものの、当該調査結果等をどのように本事業に 反映したか不明確であるため、今後、適切に事業計画等に反映し、本事業の実施による環 境影響を回避又は極力低減することが重要である。また、本事業は、既設の風力発電設備 等の撤去を伴うことが想定され、既設の風力発電設備等の撤去工事の実施に伴う大気環境、 水環境、廃棄物等の影響が生じる可能性に留意する必要がある。 加えて、事業実施想定区域及びその周辺には、住居等が存在していることから、工事中 及び供用時における騒音並びに供用時における風車の影による生活環境への重大な影響が 懸念される。
さらに、同区域及びその周辺では、希少猛禽類であるクマタカの生息及び繁殖行動が確 認されているほか、サシバ及びアカハラダカ等の主要な渡り経路となっている可能性があ ることから、本事業の実施により、風力発電設備への衝突事故や移動経路の阻害等による 鳥類への重大な影響が懸念される。
したがって、本事業計画の更なる検討に当たっては、以下の措置を適切に講じられたい。 また、それらの経緯及び内容については、方法書以降の図書に適切に記載されたい。
1.総論
(1)対象事業実施区域の設定等
対象事業実施区域の設定及び風力発電設備等の構造・配置又は位置・規模(以下「配置 等」という。)の検討に当たっては、既設の風力発電設備等の設置の際に行った環境影響 評価等の結果及び稼働中に実施した調査結果等を活用し、既設の風力発電設備等の設置 による環境影響を適切に把握した上で、計画段階配慮事項に係る環境影響の重大性の程 別紙 度を整理し、反映させること。
また、同検討のうち、風力発電設備等の建て替えについては、既存の風力発電設備等の 撤去跡地、既存の道路や送電線等を利用すること等により、新設する場合に比べ環境影 響を低減することが可能な場合には、その利用等を考慮した検討を行うこと。森林法(昭 和26年法律第249号)に基づき指定された保安林等について関係機関と協議・調整した上 で、改変を想定しない範囲を除外すること。
(2)累積的な影響
事業実施想定区域の周辺においては、同事業者による風力発電所「ユーラス輝北ウイ ンドファームⅡ」が稼働中であることから、これらの風力発電設備等による累積的な影 響が懸念される。よって、既存の風力発電設備等に対するこれまでの調査等から明らか になっている情報の収集等を行った上で、本事業との累積的な影響について、適切な予 測及び評価を行うこと。また、重大な影響が懸念された場合は、適切な環境保全措置を講 ずること。
(3)事業計画等の見直し
上記のほか、2.により、本事業の実施による重大な影響等を回避又は十分に低減でき ない場合は、風力発電設備等の配置等の再検討、対象事業実施区域の見直し及び基数の 削減を含む事業計画の見直しを行うこと。
(4)工事計画の検討
工事計画の検討に当たっては、既設の風力発電設備等の撤去工事の実施に伴う大気環 境、水環境、廃棄物等の影響に関する調査、予測及び評価並びに環境保全措置の検討を適 切に実施すること。これらを行わない場合には、方法書において、その合理的な理由を検 討経緯も含めて適切に記載すること。
(5)環境保全措置の検討 環境保全措置の検討に当たっては、環境影響の回避・低減を優先的に検討し、代償措 置を優先的に検討することがないようにすること。 また、風力発電設備等の建て替えにおいては、現況からの環境影響の増加分のみに着 眼することなく、現況の課題も踏まえた上で、本事業の実施による環境影響の回避・低減 のための環境保全措置を検討すること。
2.各論
(1)騒音等に係る環境影響
本事業の事業実施想定区域及びその周辺には、住居及び保育所が存在していることか ら、工事中又は供用時における騒音による生活環境への重大な影響が懸念されるため、 環境保全に十全を期することが求められる。
このため、風力発電設備等の配置等の検討に当たっては、代表地点における既設風力 発電設備の稼働中の騒音等を測定するとともに、「風力発電施設から発生する騒音等測定 マニュアル」(平成29年5月環境省)及びその他の最新の知見等に基づき、配置位置の変 更、単基出力の増加、工事用資材の搬出入等による騒音等に係る生活環境への影響につ いて適切に調査、予測及び評価を行うこと。また、その結果を踏まえ、風力発電設備等を 住居等から離隔すること等により、騒音等による生活環境への影響を回避又は極力低減 すること。
(2)風車の影に係る環境影響
本事業の事業実施想定区域及びその周辺には、住居が存在していることから、供用時 における風車の影による生活環境への重大な影響が懸念されるため、環境保全に十全を 期することが求められる。
このため、風力発電設備の配置等の検討に当たっては、代表地点における既設風力発 電設備の風車の影について調査を実施するとともに、配置位置が変更すること並びにハ ブ高さ及びブレードの長さ等が増加することによる生活環境への影響について適切に調 査、予測及び評価を行うこと。また、その結果を踏まえ、風力発電設備を住居から離隔す ること等により、風車の影による生活環境への影響を回避又は極力低減すること。
(3)鳥類に対する影響
事業実施想定区域及びその周辺では、希少猛禽類であるクマタカの生息及び繁殖行動 が確認されているほか、サシバ及びアカハラダカ等の主要な渡り経路となっている可能 性があることから、本事業の実施により、風力発電設備への衝突事故や移動経路の阻害 等による鳥類への重大な影響が懸念される。
このため、専門家等からの助言を踏まえ、既設風力発電設備の設置・稼働によるこれ ら鳥類のバードストライクや渡りへの影響等について適切に把握するとともに、それら を踏まえた上で、本事業に係る調査、予測及び評価を行うこと。また、その結果を踏ま えた適切な環境保全措置を講ずることにより、鳥類への影響を回避又は極力低減するこ と。
(4)景観に対する影響 事業実施想定区域及びその周辺には、主要な眺望点である「輝北うわば公園」等が存在 しており、本事業の実施により、これら眺望点からの眺望景観に対する影響が懸念される。
このため、風力発電設備等の配置等の検討に当たっては、現地調査により主要な眺望 点からの眺望の特性、利用状況等を把握した上で、フォトモンタージュを作成し、垂直見 込角、主要な眺望方向及び水平視野も考慮した客観的な予測及び評価を行い、その結果を踏まえ、重要な眺望景観への影響を回避又は極力低減すること。また、重要な眺望景観 については、事業計画の具体化並びに調査、予測及び評価に当たり、当該施設の設置者又 は管理者、利用者、地域住民及び関係自治体等の意見を踏まえること。
(5)人と自然との触れ合いの活動の場に対する影響 事業実施想定区域には、九州自然歩道「北大隈コース」及び「輝北うわば公園」等が存 在しており、直接改変による影響のほか、工事中及び供用時の騒音、供用時の風車の影並 びに景観変化等によるこれらの人と自然との触れ合いの活動の場への影響が懸念される。
このため、風力発電設備等の配置等の検討に当たっては、これらの人と自然との触れ 合いの活動の場の直接改変を極力回避すること。また、やむを得ず必要最小限の改変等 を検討する場合には、主要な人と自然との触れ合いの活動の場の状態及び利用の状況に 関する調査及び予測を行い、事業実施による影響を評価するとともに、その結果を踏ま え、事業の実施による影響を回避又は極力低減すること。
また、本地域は全国有数の天体観測地点であり、事業実施想定区域内には「輝北天球 館」が存在する。このため、風力発電設備に係る航空障害灯の設置に当たっては、天体観 測に係る専門家等へのヒアリング結果を踏まえつつ、当該施設管理者及び関係行政機関 等に対して可能な限り早期に協議等を行った上で、必要に応じて、風力発電設備の配置、 航空障害灯の種類の選定、遮光板の利用等の適切な環境保全措置を講ずることにより、 本地点における天体観測に対して配慮すること。
これらの主要な人と自然との触れ合いの活動の場への影響に関する調査及びこれに係 る環境保全措置の検討に当たっては、当該人と自然との触れ合いの活動の場の設置者又 は管理者、利用者、地域住民及び関係自治体等の意見を踏まえること。