地球が見える 2018年

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「しきさい」が捉えた東日本の新緑

2018-05-31 JAXA

2018年12月23日に種子島宇宙センターより打ち上げられた「しきさい」は、東日本の森林で新緑が広がっていく様子を捉えました。

「しきさい」は可視域において250m解像度のチャンネルを持ち、2日に1回程度の頻度で地表を観測する事により植物の季節変化を知る事が出来ます。植物の季節変化の一つに展葉がありますが、この森林域における展葉の様子も宇宙から明確に識別する事ができました。
*展葉:植物が芽吹きから葉が開いていく事

図1は、「しきさい」搭載の多波長光学放射計(SGLI)が2018年4月から5月にかけて観測したデータから作成した東北地方周辺のRGB画像です。このRGB画像では展葉前の落葉樹林域は茶色、展葉後の森林域は緑色に見えていますが、緑色に展葉した部分が時期を追って北方や高山域に広がっていく様子が分かります。

「しきさい」による東北地方のカラー合成画像(上図)。SGLIの赤(VN08: 673.5nm)・緑(VN06: 565nm)・青(VN03: 443nm)のチャンネルの観測データをそれぞれR・G・Bに割り当てた。下図は北上山地付近の拡大図で、季節が進むにつれて高山域でも徐々に展葉が進んでいく様子が分かる。

図1 「しきさい」による東北地方のカラー合成画像(上図)。SGLIの赤(VN08: 673.5nm)・緑(VN06: 565nm)・青(VN03: 443nm)のチャンネルの観測データをそれぞれR・G・Bに割り当てた。下図は北上山地付近の拡大図で、季節が進むにつれて高山域でも徐々に展葉が進んでいく様子が分かる。

図2はNASAのTerra/Aqua衛星に搭載されているMODISが2017年4月下旬から5月上旬にかけて日本周辺を観測した時の同種画像を示しています。図1と図2を比較すると、昨年は4月30日の時点ではまだ展葉が進んでいなかったようですが、今年は4月30日の時点で既に東北地方南部で展葉が進んでいるように見えます。また宮古市周辺(黒丸内)でも昨年より早く展葉が始まっているように見えます。

MODISによる2017年4月30日(左図2枚)と5月3日(右図2枚)の東北地方周辺のカラー合成画像。宮古市周辺(黒丸内)では、4月30日と5月3日の間に展葉が開始している様子が分かる。

図2 MODISによる2017年4月30日(左図2枚)と5月3日(右図2枚)の東北地方周辺のカラー合成画像。宮古市周辺(黒丸内)では、4月30日と5月3日の間に展葉が開始している様子が分かる。

図3は、同じように「しきさい」搭載の多波長光学放射計(SGLI)が2018年4月から5月にかけて観測したデータから作成した関東地方周辺のRGB画像(上図)とMODISが2017年4月下旬から5月上旬にかけて関東地方周辺を観測した時の同種画像です。丹沢山地(赤丸内)や山梨県南部(青丸内)の展葉の広がり具合を見ると、関東甲信地方では昨年より展葉開始時期が10日近く早いように見えます。

「しきさい」による2018年の関東地方周辺のカラー合成画像[R:G:B=VN08:VN06:VN03](上図)とNASAのTerra/Aqua衛星搭載のMODISによる2017年の同種画像(下図)。丹沢山地や山梨県南部では、今年4月21日と昨年4月30日、今年4月29日と昨年5月8日の展葉状況がそれぞれ対応しているように見える。

図3 「しきさい」による2018年の関東地方周辺のカラー合成画像[R:G:B=VN08:VN06:VN03](上図)とNASAのTerra/Aqua衛星搭載のMODISによる2017年の同種画像(下図)。丹沢山地や山梨県南部では、今年4月21日と昨年4月30日、今年4月29日と昨年5月8日の展葉状況がそれぞれ対応しているように見える。

国土交通省気象庁では桜の開花・満開状況を毎年発表しておりますが、関東甲信地方から福島県にかけては桜の満開日が概ね10日ほど昨年より早くなっています(参照1)。開花や展葉の時期は緯度や標高、平均気温などに依存するとも言われており、今年は桜の開花時期、森林の展葉時期とも早くなっているようです。

図4は、SGLIが観測したデータから作成した富士山付近のRGB画像とPhenological Eyes Network (PEN)による富士北麓フラックス観測サイト(カラマツ林) (参照2)の写真を並べた図です。SGLI/RGB画像上の赤丸内が富士北麓フラックス観測サイトに当たり、2018年富士北麓フラックス観測サイト写真と比べると展葉時期がほぼ対応しているのが分かります。また2018年(中段)と2017年(下段)の写真を見比べると、2018年の展葉は2017年に比べて10日近く早いように見えます。

「しきさい」による2018年4月の富士山周辺のカラー合成画像[R:G:B=VN08:VN06:VN03](上段)とPhenological Eyes Network (PEN)による富士北麓フラックス観測サイトの2018年4月(中段)、2017年4月(下段)の写真。「しきさい」画像中央の白い積雪域が富士山頂付近に当たる。

図4 「しきさい」による2018年4月の富士山周辺のカラー合成画像[R:G:B=VN08:VN06:VN03](上段)とPhenological Eyes Network (PEN)による富士北麓フラックス観測サイトの2018年4月(中段)、2017年4月(下段)の写真。「しきさい」画像中央の白い積雪域が富士山頂付近に当たる。

JAXAでは、植物群落内の葉量を捉えるため、単位面積当たりの葉面積を積算した値(LAIと呼ばれる)を「しきさい」のデータを用いて推定し今後公開していく予定です。LAIやバイオマスの全球分布と変動を高精度に観測する事で炭素循環の変動メカニズム解明や気候数値モデルの高精度化などに寄与する事が期待されます。
(本記事の作成において、千葉大学本多嘉明准教授、海洋研究開発機構(JAMSTEC)永井信主任研究員にご協力頂きました。また、Phenological Eyes Network (PEN)による富士北麓フラックス観測サイトのカメラデータは国立環境研究所(NIES)により取得されています。)

観測画像について

図1、3、4

観測衛星
気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)

観測センサ
多波長光学放射計(SGLI)

観測日時
2018年4月21日、2018年4月29日、2018年5月11日、2018年5月21日(図1)
2018年4月21日、2018年4月29日、2018年5月15日(図3)
2018年4月13日、2018年4月21日、2018年4月26日、2018年4月29日、2018年5月15日(図4)

図2、3

観測衛星
地球観測衛星AquaおよびTerra (NASA)

観測センサ
中分解能スペクトロメータ MODIS (NASA)

観測日時
2017年4月30日(Aqua)、2017年5月3日(Terra)(図2)
2017年4月30日(Aqua)、2017年5月8日(Terra)(図3)

0303宇宙環境利用
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