ほ場の排水環境把握や被災農地の簡易評価に活用可能
2018-04-25 農研機構
ポイント
農研機構農業環境変動研究センターは、市販のドローンを用いてほ場内の凹凸を計測する方法を解説したマニュアルを公開しました。本成果は、ほ場のどこに水が溜まりやすいのか、地震被災農地に凹凸がどのくらい発生したのかといった状況の把握に役立ちます。
概要
市販の安価なドローンの活用場面が広がりつつあるなか、農研機構は、2016年に熊本地震で生じた農地の不陸(凹凸)を迅速に把握するために、ドローンと画像解析ソフトを使う方法の適用を検討し、簡便な手法を用いた場合でも不陸の状況を精度良く計測できることを明らかにしました。この事例をもとに、手順をわかりやすく解説した技術マニュアルを作成しました。
地方自治体、農業団体、営農法人などで、このマニュアルに則って作業して頂ければ、市販のドローンを使ってほ場内の相対的な凹凸を簡単に計測することができます。数十ha程度以下であれば航空機を使うより早く、安く計測可能です。この計測方法は、災害時のみならず、平時においても活用可能であり、例えば、本格的な測量が必要な土木工事をする必要まではないものの、生育不良の原因となっているほ場内の小さな窪地など水の溜まりやすい箇所を見える化することにも役立ちます。
なお、本マニュアル(PDF形式)は農研機構のウェブページからダウンロードできます。<https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/pub2016_or_later/laboratory/niaes/manual/080528.html>
関連情報
予算:農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(緊急対応研究課題)「被災地域の営農再開に向けた熊本地震による農地・作物生育への影響に関する調査研究」、運営費交付金
お問い合わせ
研究推進責任者
農研機構農業環境変動研究センター 所長 渡邊 朋也
研究担当者
同 環境情報基盤研究領域 上級研究員 石塚 直樹
広報担当者
同 広報プランナー 大浦 典子
詳細情報
開発の社会的背景と経緯
2016年4月に発生した熊本地震は、農業にも大きな被害をもたらし、被災農地ほ場では作物の作付ができないケースも多くみられました。特に不陸と呼ばれるほ場内の農地面の凹凸が生じた場合には、その程度により作業機の導入が必要かどうか、作付けが可能かどうかの判断が必要となり、また復旧計画などにも影響を及ぼすため、迅速に被害の程度を評価することが求められます。
広い土地の計測には、航空機によるレーザー計測が使われるのが一般的ですが、飛行あたりの経費が高いことから、ほ場単位のような狭い面積の計測では割高となり、あまり実用的とは言えません。そこで、農研機構では、近年急速に活用が広まっているドローンを使い、数十ha程度以下のほ場での使用に適した簡便な計測手法の検討を行いました。
研究の内容・意義
ドローンで撮影した複数枚の画像から対象物の3次元形状を復元する技術SfM(Structure from Motion)1)・MVS(Multi View Stereo)2)を活用する方法を、ほ場に発生した不陸の計測に適用しました。
この方法で計測した不陸の程度(図2)と、公共測量等に使われる航空機レーザー測量により算出した不陸の程度を比較したところ、両者の間に統計的に有意な差は認められませんでした。
この方法は簡便かつ高精度に地表の凹凸を見える化できる有力な手法であることから、誰でも使えるようにマニュアルを作成しました。
マニュアルでは、1.不陸計測の作業手順概要、2.ドローンによる撮影、3.地上基準点(GCP)3)の測量、4.Agisoft Photoscan Professional(SfM・MVS処理ソフトウェア)による3次元モデルの作成、5.QGIS(地理情報システムソフトウェア)4)による不陸量の算出、という一連の作業に沿って解説しています(図1、表1)。
導入コストは、市販のカメラを搭載した安価なドローン(約10~20万円)と市販ソフトウェア(Agisoft Photoscan Professional;約50万円)、無料ソフトウェア(QGIS)、数万円の簡易測量機器のみで、これにより、ほ場内の不陸の程度を安価かつ高い精度で、面的に計測可能です。運用コストは、地上における簡易測量費用のみです。
農地内の不陸把握は、地震災害による復旧計画に役立つ以外にも、例えば、大規模水田ほ場における均平の確認や、畑地ほ場における湿害対策などに有効です。普段の営農作業では、土木工事をするわけではないため公共測量までは必要がありませんが、不陸を容易に把握できれば、均平作業や排水対策の要否・作業方法・作業量などを的確に判断することができます。
今後の予定・期待
ドローンは可搬性、機動性に優れるため、ほ場間の移動も容易であり、自治体や団体内での共用利用もしやすく、また、災害発生時には迅速な対応が可能と考えられます。また、本計測方法は安価で操作も簡易であるため、ほ場の表面の小さな凹凸の把握に基づく精密農業等への応用が可能です。今後、ユーザーからの意見も聞きながら、さらに使い易い手法の開発やマニュアルの改善などを進める予定です。
用語の解説
1)SfM(Structure from Motion)
画像に映った同じ対象物の見え方の違いから、形状とカメラの位置・方向を同時に推定する手法。結果として画像間における同じ特徴点の3次元座標が得られる。
2)MVS(Multi View Stereo)
多視点ステレオとも呼ばれ、2枚の画像の見え方の違いから距離を推定することで3次元形状を求めるステレオ画像処理を、3枚以上の画像も同時利用するように拡張した手法。
3)地上基準点(GCP: Ground Control Point)
地上において、画像と対応する特徴点について位置、高さを計測し、その値を処理画像に与えることで補正するため点。
4)地理情報システム(GIS: Geographic Information System)
位置情報を有する空間情報を取り扱うシステム。QGISはソフトウェアの中の一つ。
発表論文
石塚・岩崎・坂本 (2018) システム農学、印刷中
参考図表
図1 マニュアルの表紙とコンテンツ例
表1 マニュアルの目次一覧
1 不陸計測の作業手順概要
2 ドローンによる撮影
2.1 飛行計画の策定
2.2 DJI GS Proの設定
2.3 飛行・撮影の実施
2.4 ドローンを安全に運用するための注意事項
3 地上基準点(GCP)の測量
3.1 地上基準点のレベル測量
3.2 地理院地図より座標と標高値を取得
4 Agisoft Photoscan Professionalによる地表高データの作成
4.1 Agisoft Photoscanの概要
4.2 データ処理の手順
5 QGISによる不陸量の算出
5.1 QGISについて
5.2 不陸量の算出とレイアウト図の作成手順
図2 ドローンによるほ場ごとの不陸計測結果の例
この図は、計測結果から得られた不陸量を色で表しています。ほ場の平均的な高さを白(0 m)とし、高い部分を赤(最大 0.2 m)、低い部分を青(最大 -0.2 m)で表すと、凹凸の発生パターンを確認することができます。