『原子力機構の研究開発成果2020-21』P.36
図2-11 東北地方太平洋沖地震の余震記録の例
東北地方太平洋沖地震の本震後には、M7 以上の大規模余震が複数発生し、余震被害が多数報告されました。このような大規模余震の影響を適切に考慮したリスク評価手法の提案が求められています。
図2-12 東北地方太平洋沖地震における余震ハザード評価の例(石巻、本震後 90 日間)
本提案手法を用いて予測した余震の発生数は、観測結果とよく一致していることを確認しました。また、本結果より、本震の揺れの強さ(最大速度 56 cm/s)を超える余震の発生数は、本震後 90日間に平均 0.1 回と予測することができます。
図2-13 余震ハザードマップの例
本震の揺れの強さ(最大速度)を超える規模の余震の発生数の予測値を用いることで、広域避難等の地域防災対策に活用可能な余震ハザードマップを提案しました。
従来、原子力施設の確率論的地震リスク評価(以下、地震 PRA)では本震のみが重要視され、余震の影響が考慮された評価手法が確立されていませんでした。しかしながら、国内観測史上最大であるマグニチュード(M)9を記録した 2011 年東北地方太平洋沖地震の本震後には、M7 以上の大規模余震が複数発生し(図 2-11)、余震被害が多数報告されたため、地震 PRA において余震の影響に関する認識を見直す契機となりました。そこで、私たちは本研究において、原子力発電所が大きな地震動に見舞われる可能性を評価する地震ハザードに着目し、大規模余震による地震ハザードへの影響を考慮する目的として、余震ハザード評価手法の開発に取り組みました。
大規模余震を考慮した地震ハザード評価の課題として、余震の発生時期、規模、頻度(発生数)等の事前予測が困難なことが挙げられます。これらの課題を解決するため、M7 を超える過去の巨大本震(M9 級の東北地方太平洋沖地震を含む)による余震記録を分析し、半経験的な余震発生モデルを整備しました。また、余震記録の分析結果に基づき、従来の余震発生モデルにおける本震規模と余震規模の関係、余震規模と余震数の関係等の関係式の適用範囲を、本研究により初めて M9 級の巨大本震後の余震にまで拡張しました。さらに、拡張した余震発生モデルと従来の地震ハザード評価手法の距離減衰式を組み合わせることで、大規模余震の揺れの強さ(最大速度)とその発生数の関係を経過期間に応じて求める余震ハザード評価手法を提案しました。その評価例の一つを図 2-12 に示します。
本評価手法の原子力施設の地震 PRA への活用法として、原子力発電所における代表的な余震発生シナリオを考慮し、余震ハザード評価を事前に実施することが考えらます。また、本手法の地震防災への応用として、本震の揺れの強さを超える規模の余震の発生数の予測値により、広域避難計画等に活用可能な余震ハザードマップを提案しました(図 2-13)。
国内の原子力施設に対しては、今後広い範囲で大規模余震の発生が懸念されている南海トラフ地震等の発生に備えた防災・減災対策が求められています。そのためには、大規模余震の影響を適切に考慮した地震 PRA 手法の確立が不可欠です。
本研究では、今後も余震ハザード評価結果を活用し、本震と余震の影響を考慮したより現実的な地震 PRA 手法の高度化に取り組んでいきます。(崔 炳賢)
●参考文献
Choi, B. et al., Engineering Applications Using Probabilistic Aftershock Hazard Analyses: Aftershock Hazard Map and Load Combination of Aftershock and Tsunamis, Geosciences, vol.8, issue 1, 2018, p.1-1–1-22.