日本の空き家問題を数学の力で解決 ~最適税金政策の提案~

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2019-12-17 広島大学,科学技術振興機構

ポイント
  • 2033年に日本全国で30.5パーセントに達すると予想されている深刻な空き家問題を、数理モデルで初めて捉えることに成功した。
  • 数理モデルを用いて、将来の空き家の動向を予測可能にするだけではなく、地域性を反映した上で最適となる税金政策を提案した。
  • 広島市のデータをもとに、将来の空き家の空間分布を予測し、自治体の財政圧迫を減らす空き家の有効活用の空間戦略を発見した。

広島大学 大学院統合生命科学研究科 李 聖林 准教授は、日本の空き家問題を数理モデルで捉えることに成功した。

本研究では、空き家の動向を現在の人口分布や経済規模から予測できる数理モデルを世界で初めて構築し、地域性を反映することで現実的に考えられる税金政策を提案し、その有効性を調べた。その結果、地域の人口や経済力によって最適な政策が異なることを発見した。

また、政策による自治体のコストを評価し、空き家を減らすだけでなく、その政策によって自治体の財政がどう影響を受けるかについても明らかにした。

また、空き家の有効活用における空間政策注)を提案し、それを行えば、自治体の財政に一層有利になる政策も可能であることを示した。

本研究の数理モデルは各地域のデータや状況を細かく反映することが可能であり、政府や自治体が空き家政策を実施する上で、事前にその有効性を検討することが可能である。本研究によって実社会課題における数学の新たな可能性を開けると期待する。

本研究成果は、2019年12月17日(日本時間)「Japan Journal of Industrial and Applied Mathematics」オンライン版に掲載される。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

研究領域:「社会的課題の解決に向けた数学と諸分野の協働」(研究総括:國府 寛司 京都大学 大学院理学研究科 教授)

研究課題名:「動的変形空間による細胞機能決定機構の解明及びIn vitro実験への検証」

<背景>

超高齢化と人口減少に直面している現日本の社会で、空き家問題は2033年に日本全国で30.5パーセントに悪化すると予測されており、近い将来、日本の社会システムのみならず日本経済全体にも悪影響を及ぼすと考えらえている(図1)。しかしながら、その根本的な解決策は提示されておらず、各自治体レベルで行われている多くの政策は将来的な有効性の保証もないまま実行されているのが現状である。このような社会的問題は、実験的政策の実施が非常に難しく、国の予算や政策にも重要に関わるようになるため、実質的に最適結果を予想して政策を実行することは非常に難しい。そこで、政策の有効性を実験できる空き家の数理モデルを構築し、空き家を減らすための最適な税金政策を提案した。

<研究内容>

本研究では、空き家の動向を地域の人口や経済規模を反映した上で将来の空き率が予測できる数理モデルを世界で初めて構築し、現実的に考えられる3つの税金政策「空き家処分への補助金政策」、「土地に関わる固定資産税率軽減政策」、「住宅(空き家)における固定資産税特例装置の撤廃政策」を提案し、その有効性を調べた。その結果、地域の人口分布や経済力によって政策の効果が異なることを発見した(図2)。さらに、政策による自治体のコストを評価し、空き家を減らすだけでなく、その政策によって自治体の財政がどう影響を受けるかについても明らかにした(図3)。また、空き家の有効活用対策は、将来都心部の住居地を減らしてしまう可能性があることを発見した(図4)。

空き家が増える中、広域に渡ってインフラ整備を行う必要がある自治体においては、将来的に大きな財政圧迫を迫る可能性がある。その解決策として、空き家の有効活用において競争度を考慮した政策を税金政策と一緒に行えば、空き家を減らすと同時に自治体の財政に一層有利になる空間政策が可能であることを発見した。

本研究では空き家の空間政策を考察する部分において、空間的効果(位置情報)を導入している。空間(ドメイン)の影響を考察し、空間パターンに着目した部分は科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけの研究で得られた数理的研究成果のアイデアを応用している。また、本研究で使われている確率手法は細胞核内クロマチンの空間構造形成研究においてミクロ的手法とマクロ手法を組み合わせて統合的に捉えることができる数理モデルへの拡張の可能性がある。

<今後の展開>

本研究の数理モデルは各地域のデータや状況を細かく反映することが可能であり、政府や自治体が空き家政策を実施する上で、事前にその有効性を検討することが可能である。

本研究は空き家という現実の社会的現象を数理モデルで捉えたアイデアの新規性が非常に高い。今後、各地域の詳細なデータが得られれば、その地域においてどのような税金政策が有効であるか今回のモデルを拡張させて仮想的にシミュレーションすることが可能である。また政策の実施によって自治体の財政にどの程度の影響があるか、具体的な数値で示すことが可能であり、政策実行の上で決断の材料として活用できると考える。実社会における課題や行政の政策に数学の力が発揮できる可能性だけではなく、その実装化を期待する。

<参考図>

日本の空き家問題を数学の力で解決 ~最適税金政策の提案~

図1 空き家の推移における数理モデルの結果と統計dataの比較

図2 3つの税金政策における空き家率軽減効果の結果
図2 3つの税金政策における空き家率軽減効果の結果

図3 空き家政策を実施しなかった場合の自治体の財政と補助金政策を実施した場合の自治体の財政状況

図3 空き家政策を実施しなかった場合の自治体の財政と補助金政策を実施した場合の自治体の財政状況

図4 広島市の今後100年後の空き家分布の予測と空間政策後の都心部における住居可能領域の推移
図4 広島市の今後100年後の空き家分布の予測と空間政策後の都心部における住居可能領域の推移

<用語解説>
注)空間政策
空間的配置(つまり、位置)によって生じる有効活用間の競争度を利用し、有効活用の都心部集中現象を減らす政策。
<論文タイトル>
“Mathematical modeling and regionality-based optimal policy to reduce empty houses, Akiya, in Japan”
著者名:李 聖林, 野間田 匡顕, 椋 実代子
DOI:10.1007/s13160-019-00400-3
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

李 聖林(リ セイリン)
広島大学 大学院統合生命科学研究科 数理生命科学プログラム 准教授

<JST事業に関すること>

舘澤 博子(タテサワ ヒロコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ICTグループ

<報道担当>

広島大学 広報グループ

科学技術振興機構 広報課

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