データセンターや高性能コンピューティング内の大容量光接続を目指す
2019-09-20 新エネルギー・産業技術総合開発機構,技術研究組合光電子融合基盤技術研究所
NEDOは「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」事業を行っており、今般、技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)と共同で、データセンター(DC)や高性能コンピューティング(HPC)内の大容量光接続に向けた小型の16波長多重光回路チップを開発しました。
本成果は、高い伝送密度を低コストで実現できるシリコンフォトニクス集積光回路に波長多重技術を導入するための回路構成を開発し、それに高い寸法精度の微細加工プロセスを適用することで実現したものです。今回、16波長の多重な光信号を合分波できる、低損失かつ任意の偏波に対応した小型の光回路チップを開発し、世界で初めて1波長当たり32Gbpsの高密度信号伝送での動作を確認しました。
このチップを用いることで、大規模集積回路(LSI)に内蔵可能な光電子集積インターポーザーの開発が可能となり、DCやHPC内のサーバー間の大容量光接続への利用が見込めます。
なお、PETRAは、アイルランドのダブリンで9月22日から開催される世界最大級の光通信国際会議「ECOC (The 45th European Conference on Optical Communication) 2019」で、今回の成果について発表します。本発表は、当該国際会議で発表されるデバイス分野の論文のなかで高い評価を得た「Highly Scoredペーパー」に選出されています。
図1 開発した小型の16波長多重光回路チップ
1.概要
クラウドコンピューティング※1やビッグデータアナリシス※2、機械学習などの技術の発展に伴い、データセンター(DC)や高性能コンピューティング(HPC)※3で用いられる情報伝達量は増加し続け、サーバー間では電気配線に代わり光配線が適用されています。それに伴い、DCやHPC内の高性能サーバー用の大規模集積回路(LSI)やスイッチLSIには、2025年に現在比5倍以上となる、1ノード※4当たり10Tbps以上の伝送帯域が必要になると考えられます。
このような伝送帯域の容量増加方法の1つとして、波長多重技術があります。この技術は、1本の光ファイバーに複数の異なる波長の光信号を同時に乗せる方式で、波長数が増えることで容量増加が可能になります。この方式をDCやHPC内に適用するには、小型の光電子集積インターポーザー※5に内蔵可能で、多数の光を合分波する超小型の波長多重光回路の開発が必要となります。また、DCやHPCの大容量接続に光回路を用いるためには、高い伝送密度を低コストで実現する微細加工プロセス技術が必要とされ、シリコンを材料とする光素子技術(シリコンフォトニクス技術)が注目されています。
こうした背景から、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)は、2013年度から、シリコンフォトニクス技術による小型化した16波の波長多重光回路を実現するプロジェクト※6に取り組んでいます。
そして今般、本事業において、NEDOとPETRAは、DCやHPC内の大容量光接続に向けた小型の16波長多重光回路チップを開発しました。
本成果は、高い伝送密度を低コストで実現できるシリコンフォトニクス集積光回路に波長多重技術を導入するために新たな回路構成を設計し、それに高い寸法精度の微細加工プロセスを適用することで実現したものです。今回、16波長の多重な光信号を合分波できる低損失かつ任意の偏波に対応した光回路チップを開発し、世界で初めて1波長当たり32Gbpsの高密度信号伝送での動作を確認しました。
このチップを用いることで、大規模集積回路(LSI)に内蔵可能な光電子集積インターポーザーの開発が可能となり、DCやHPC内のサーバー間の大容量光接続への利用が見込めます。
今後NEDOとPETRAは、今回開発した16波長多重光回路を集積した光電子集積インターポーザーの開発を進め、DCやHPC内に向けた大容量光接続の実現を目指します。それを通じて、大量のデータを処理する人工知能(AI)や大量のデータを収集するIoTの発展につながることが期待されます。
この成果は、アイルランドのダブリンで9月22日から開催される世界最大級の光通信国際会議「ECOC (The 45th European Conference on Optical Communication) 2019」で、PETRAが発表します。本発表は、当該国際会議で発表されるデバイス分野の論文のなかで高い評価を得た論文である「Highly Scoredペーパー」に選出されています。
2.今回の成果
DCやHPC内の10Tbps以上の大容量光接続を実現するには、波長多重光通信を可能とする小型で高速光信号を多重できる16波以上の波長多重光回路が必要です。加えて、光ファイバーを経由したランダムな偏波※7状態の光信号でも安定して合分波できる「偏波無依存合分波動作」が求められます。これまでは、ガラスを用いて光回路を作製してきましたが、センチメートルオーダーのサイズであり、光電子集積インターポーザーに適用可能な超小型光モジュールを作ることは困難でした。
今回開発した16波の波長多重光回路は、2波長の遅延マッハ・ツェンダー干渉(DMZI)※8型フィルタと8波長のアレイ導波路回折格子(AWG)※9型フィルタを直列に接続した新構造を用いることで、挿入損※10および波長クロストーク※11の劣化問題を解決して高性能化を実現しました。また、本事業で開発した高い寸法精度の微細加工プロセス技術を適用することで、従来のAWG型フィルタを多波長化する場合の素子サイズの増大問題を解決し、光回路チップの小型化に成功しました。さらに、偏波無依存合分波動作を実現するため、波長多重化された光信号を2つの偏波成分に分離した後に16個の波長成分に分離し、波長ごとに偏波成分を出力する光回路を開発しました。
そして、この波長多重光回路に任意偏波の32Gbps高速光信号を伝送した場合も、16波全ての波長について光信号の劣化なく合分波が可能であることを実証しました。
これにより、同じ機能を待つ波長多重光回路を従来のガラスで作製した場合、サイズが数センチメートル角まで大きくなってしまいますが、この光回路を用いることでサイズを数ミリメートル角に縮小でき、光電子集積インターポーザーに適用することが可能になります。
図2 開発した小型の16波長多重光回路チップの回路構成(a)と高速伝送動作特性(b)
(a)入力された16波長の光は、偏波分離素子(PBS/PR)でTE波とTM波の2つの偏波に分離される。各偏波はDMZI型フィルタで、8波ずつに分離され、最後に8波AWGにより異なる波長に分離される。2つの偏波があるので合計32チャンネル(16波長×2偏波)の出口になる。
(b)この16波長多重光回路チップに、16波長の光に1波長当たり32Gbpsの光信号を入力した場合の32チャンネルの各出力からの光信号が正しく伝送されている波形の結果を示す。
【注釈】
- ※1 クラウドコンピューティング
- 従来、パソコンにダウンロードやインストールして利用していたデータやソフトを、ネットワークを通じて利用する方法です。
- ※2 ビッグデータアナリシス
- データの収集、取捨選択、管理および処理に関して、一般的なソフトウェアの能力を超えたサイズのデータ集合を分析することです。
- ※3 HPC
- High performance computingの略で、単位時間当たりの計算量が非常に多い計算処理を行うコンピューターをいいます。
- ※4 ノード
- 通信ネットワークにおいて、再配布ポイント(データ回線終端装置など)かエンドポイント(データ端末装置など)のいずれかを示します。
- ※5 光電子集積インターポーザー
- LSIパッケージ内に内蔵可能な電子回路と光回路が3次元集積実装された小型の光電子集積モジュールです。
- ※6 プロジェクト
- 事業名:超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発
事業期間:2013年度~2021年度
- ※7 偏波
- 電磁波における電磁界の振動状態を表します。光は電磁波であり、電磁界の振動方向が互いに直交する2つの偏波成分(TE波、TM波)に分けて考えることができます。
- ※8 遅延マッハ・ツェンダー干渉(DMZI)
- 光波長フィルタの一種で、1つの光源から分けた2つの光の間の位相差を利用して干渉させ動作します。
- ※9 アレイ導波路型回折格子(AWG)
- 光波長フィルタの一種で、光の干渉現象により動作します。
- ※10 挿入損
- 2端子対回路網で構成される高周波光回路において、1つの端子からもう1つの端子に伝搬する光信号の損失です。
- ※11 波長クロストーク
- 波長の異なる通信路を流れる光信号にすぐ近くの他の波長の通信路に由来する光信号やノイズが混入し、本来の信号が乱されてしまう現象です。
3.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO IoT推進部 担当:栗原、豊田
PETRA 光エレクトロ二クス実装研究推進部 担当:中田
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:佐藤、坂本、中里