2019-04-12 環境省
1.事業概要
我が国では一次エネルギーのうち40%以上が電力として消費されています。この電力エネルギー消費量を低減させ、脱炭素社会を実現するためには、身の回りの全ての電機設備・製品中の半導体で発生する、電力の直流・交流変換時等の損失を低減させることが不可欠です。しかしながら、シリコン製を含む既存の半導体では素材の性能的な限界に達しているため、電力損失の低減のためには新たな種類の半導体が必要です。
窒化ガリウム(GaN)半導体は、青色発光ダイオード(LED)として広く実用化されており、その発見と高効率化等の功績により天野教授を含む日本人3名が平成26年度にノーベル物理学賞を受賞したところですが、LED以外にも、電力変換デバイスに使用することで、既存の半導体に比べ電力の直流・交流変換時の損失を抜本的に(10分の1程度に)低減させられるものと期待されています。既に、GaNを用いた横型トランジスタが量産化されているものの、これまでのデバイスはGaN結晶の欠陥密度が高いため、期待通りの性能が発揮できていませんでした。
そこで環境省では、上記のノーベル物理学賞受賞に先立って日本のお家芸であるGaN技術に注目し、天野教授とともに、社会のあらゆる場面でエネルギー損失を抜本的に減らすための技術開発・実証事業を平成26年4月より開始しました。その後、天野教授を含む3名のノーベル物理学賞受賞によりGaNの社会実装に向けた機運がいっそう高まりました。本事業は、GaN結晶を低欠陥・高品質・大口径化する手法を開発し、それを活用してGaNデバイスの高性能化を図るとともに、GaNデバイスを用いて、パワコン、サーバ、EV、マイクロ波加熱装置、照明機器等の様々な実機評価を行うことで、CO2削減効果を実証することを目的としています。
参考資料 <https://www.env.go.jp/council/06earth/y0618-06/mat04.pdf>
超高効率GaNパワー・光デバイスの技術開発とその実証
大阪大学大学院工学研究科 森勇介
名古屋大学未来材料・システム研究所 天野浩
2.平成30年度の主な成果
(1)結晶技術
原料ガスに酸化ガリウムを用いる独自の気相成長法(OVPE法)の開発において、結晶品質を低下させないで酸素を高濃度に添加できることを世界で初めて見出し、従来のGaN基板の1/10の低抵抗化を実現しました。これによって、GaNパワーデバイスの抵抗を最大10%低減することが可能となり、電力変換時の損失低減によるCO2排出量の更なる削減が期待できます。
(2)デバイス技術
GaN基板を用いた縦型GaNトランジスタの開発を推進しております。現在市販されている横型GaNトランジスタと比べて、半導体層に多くの電流を流すことができるため、大電流動作に有利という特徴があります。平成30年度は大面積チップを試作し、耐圧600V、1チップで最大ピーク電流132Aという特性を実現し、縦型GaNトランジスタが大電流動作可能であることを世界で初めて実証しました。大電流縦型GaNトランジスタを産業用電力変換機器や車載機器に搭載することで、機器の高効率動作を実現し、CO2削減に貢献することが期待できます。
(3)社会実装技術
GaNデバイスに基づく100ワット級マイクロ波源を用いた4チャンネルマイクロ波加熱装置(電子レンジ)を、世界で初めて開発しました。本機ではマイクロ波加熱装置の内部領域を4分割し、各領域に平面パッチアンテナに接続されたマイクロ波源を配置します。マイクロ波源の出力パワーを独立に制御することで、各々の領域を任意のマイクロ波パワーと時間で加熱することができると実証されました。これにより、加熱したい領域のみにマイクロ波エネルギーを照射できること等により、無駄なエネルギー消費を抑えることができます。
本技術を業務用電子レンジや産業用途に展開することで大幅なCO2削減効果が期待されます。詳細については添付資料をご参照ください。
3.今後の予定
平成30年度のマイクロ波加熱装置等の成果について本年「G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」等の場で情報発信するとともに、さらなる結晶技術・デバイス技術の向上や電子レンジ以外の機器での実機実証に取組む予定です。
添付資料
窒化ガリウム(GaN)半導体を用いた選択型マイクロ波加熱装置について
従来技術
水分子を振動させることで加熱させるマイクロ波加熱(電子レンジ)は、マイクロ波源として 真空管で構成されたマグネトロンを用いています。マグネトロンから出力されたマイクロ波は導 波管を通して金属遮蔽された庫内へ放射されます。マイクロ波が効率良く庫内に放射されるには、 庫内はマイクロ波の波長(約7.4cm)より十分に広いことが必要となり装置は大型化します。また、 庫内に生じる定在波の強め合う位置が加熱されるため、不均一な加熱になり、かつ特定領域の効 率的な選択的加熱はできません(図1左図)。
開発した技術
一方、窒化ガリウム(GaN)半導体を用いたマイクロ波源は、照射部にWiFi などの無線装置で用 いられるパッチアンテナを使用できます。図1右図に示すように、パッチアンテナと加熱物を1 波長以下で結合した新方式の採用により、マイクロ波のエネルギーを内部から効率良く加熱物へ 伝えることができ、装置も小型化できます。また、GaN 半導体によるマイクロ波源はマグネトロ ンに比較して小型であるため、1台の装置に複数個取り付けることができます。特定のマイクロ 波源のみからマイクロ波を照射する選択加熱や、全源から一斉照射する均一加熱などが可能とな ります。これらの機能は従来のマイクロ波加熱装置では得られない特質です。
図1 マイクロ波加熱装置
効果
図2に示す4チャンネルマイクロ波選択加熱装置は、従来型装置に比べて体積を60%削減し、 重量を約半分に減らすことができました。また、右図は4領域に仕切られた容器に入った水を選 択加熱した様子を示しています。赤外線映像により強、中、弱、非加熱と明瞭な色分けが得られ ており、選択加熱が実証されました。
本方式により、加熱したい領域のみを高効率に加熱することで業務用電子レンジにおける年間 のCO2 排出量を約7 万t削減することが可能となります。また、本方式によるマイクロ波加熱を 化学合成・乾燥など大型産業用途へ展開することでさらなるCO2 削減効果(年間約630 万t)が 期待されます。
連絡先
環境省地球環境局地球温暖化対策課地球温暖化対策事業室
- 室長相澤寛史(内線 6771)
- 室長補佐佐藤滋芳(内線 6791)
- 室長補佐池本忠弘(内線 6731)
- 担当柳川立樹(内線 6795)