2024-11-15 地球電磁気・地球惑星圏学会,国立極地研究所
国立極地研究所などの研究グループは、日本独自のスーパープレッシャー気球2機を2024年1-2月に南極・昭和基地から放球し、南極域における大気重力波の動態や役割を調べる観測を実施しました。同観測では、高度18km付近の下部成層圏における大気重力波起源の風速変動を捉えるとともに、気球放球時の制約条件を従来よりも大幅に緩和することに成功しました。新たな成層圏プラットフォームであるスーパープレッシャー気球を用いた観測技術の確立は、将来的に様々な科学・商業分野への応用につながると期待されます。
背景
スーパープレッシャー気球は、体積を一定に保つことでほぼ一定の高度を長ければ数か月にわたって飛翔することができます。高度約20kmの成層圏に長期滞在可能な新たな観測・通信プラットフォームとして注目されています。本研究グループでは、スーパープレッシャー気球による大気重力波(*1)観測の有効性に着目し、同観測の実現を目指してきました。2022年1-2月にはその第1回のキャンペーン観測を南極・昭和基地で実施し、3機のスーパープレッシャー気球を飛翔させることに成功しました。これがスーパープレッシャー気球による日本初の科学観測となります。その後、次回の観測に向けて気球や放球方法の改良に取り組んできました。
今回の成果
第2回キャンペーン観測として、2024年1-2月に南極・昭和基地より2機のスーパープレッシャー気球を放球し、高度18km付近を飛翔させることに成功しました。観測では、周期が慣性周期(*2)に近い大気重力波による水平風速と飛跡(図1)の振動を捉えることに成功しました。今回のキャンペーン観測中には南極唯一の大型大気レーダーである南極昭和基地大型大気レーダー(PANSY)(*3)との同時観測も行っており、PANSYでも同様の風速変動が観測されました。また、第1回のキャンペーン観測では地上風速が3m/s以下でしか放球することができませんでしたが、気球中央部を縛って気球下部が広がることを防ぐネクタイを導入することで、より強い地上風速でも放球可能であることを実証しました。一方で、飛翔期間は目標の10日以上に対して3日以下にとどまり(*4)、更なる気球の改良が必要なことも明らかとなりました。これらの結果は、大気重力波研究の最新の成果であるだけでなく、日本独自のスーパープレッシャー気球の様々な科学・商業分野への応用に向けて大きな一歩となる成果です。
図1:放球した2機のスーパープレッシャー気球の飛跡。
今後の展望
今後、スーパープレッシャー気球の更なる改良を進め、次回のキャンペーン観測を2027年4-11月に南極・昭和基地で実施する予定です。また、国際連携による海外基地での実施や他の観測装置の搭載についても検討を進めていきます。なお、本研究結果の詳細については、2024年11月25日に東京都立川市で行われる「第156回地球電磁気・地球惑星圏学会 総会および講演会」で発表される予定です。
注
*1:大気重力波
浮力を復元力とする大気波動で、運動量を発生領域から遠く離れた場所へと輸送することで、その場所の風速や温度を変動させます。長期的な気候変動を予測・再現するために、大気重力波が風や温度を変える効果を定量的に明らかにすることが求められています。
*2:慣性周期
地球の自転に伴う空気塊の回転運動の周期。大気重力波の周期の上限でもあり、昭和基地付近では約13時間です。
*3:南極・昭和基地大型大気レーダー(PANSY)
約1000本のアンテナで構成される南極唯一の大型大気レーダー。2011年に南極・昭和基地に設置され、2012年から連続観測を継続しています。
*4:2機の気球の内、1機目(図1の緑線)は南緯60度を越えた時点(COMNAP(南極観測実施責任者評議会)との取り決めによる)で、2機目(図1の青線)は浮力を失った時点でカッターコマンドを送信し、気球と観測装置を降下させて観測を終了しました。
お問い合わせ先
本件に関する問い合わせ先
情報・システム研究機構 国立極地研究所
先端研究推進系 冨川 喜弘
SGEPSSプレスリリース担当
運営委員 臼井洋一