歪なサブmm粒子を光でグルっと囲んで補捉~大きく不規則な粒子の光ピンセット操作が可能に~

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2025-05-15 東京大学

発表のポイント

◆ リアルタイムで粒子の輪郭に合わせた光の照射パターンを形成する、新たな輪郭トラッキング光ピンセット(CTOTs)という技術を開発。
◆ 従来の光ピンセットでは困難だった50µmを超える歪なプラスチック粒子の補捉を実現。
◆ この技術は、微生物の自然環境下での観察やマイクロプラスチックの分析など、さまざまな応用が期待される。

歪なサブmm粒子を光でグルっと囲んで補捉~大きく不規則な粒子の光ピンセット操作が可能に~
提案した輪郭トラッキング光ピンセット(CTOTs)による、歪な100µm超ポリスチレン粒子の補捉

概要

東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻の大峰遼平大学院生、高橋哲教授、道畑正岐准教授、門屋祥太郎助教(研究当時)、増井周造特任助教らによる研究グループは、新しい光ピンセット技術「輪郭トラッキング光ピンセット(Contour-tracking optical tweezers, CTOTs)」を開発しました。本研究では、従来の光ピンセット(注1)では操作が難しい大きさと不規則な形状を持つポリスチレン粒子に対して、画像処理で抽出した輪郭に沿って集光ビームを走査することで、安定したトラッピング(捕捉)を実現しました。この成果は、生物学、ナノテクノロジー、コロイド科学など広範な分野での応用が期待されます。

本研究成果は、2024年5月13日(米国東部夏時間)にOPTICA(米国光学会)が発行する科学誌「Optics letters」のオンライン版に掲載されました。また、同日公開予定のOPTICAのNews Releasesに取り上げられました。

発表内容

光ピンセットは、マイクロスケールの粒子をレーザー光の焦点に捕捉し操作する技術であり、生物学、原子物理学、ナノテクノロジー、コロイド科学、そして生体組織の機械的特性の計測など、多岐にわたる分野で応用されています。しかし、従来の光ピンセット技術では、集光ビームを1点に照射して物体を補捉するため、大きさが数十µm程度の単純形状(球形やロッド状)粒子の操作が限界であり、特に大きな粒子や不規則な形の粒子の操作は困難でした。

そこで、本研究では、顕微鏡で観察される粒子の輪郭を画像処理で抽出し、輪郭をトラッキングするようにレーザー光を動的に制御する「輪郭トラッキング光ピンセット(CTOTs)」を提案・実証しました。実験では、粒子の輪郭に沿って50個の捕捉点を等間隔に設定し、50msかけて粒子の輪郭を1周するようにガルバノミラー(注2)で集光点を二次元的に操作しました。

この提案手法の実証実験として、図1に示したように大きさ約50µmと120µmの形状の異なる粒子に対して複数の実験を行いました。実験の手順として、まず基板に固着した粒子を剥離するために、レーザーの出力を350mWまで上げて粒子に照射します。その後、剥離した粒子に対して、レーザーの出力を20mWから80mWまで下げて補捉を行います。この時、CTOTsでは、リアルタイムの画像処理で粒子の輪郭を検出し、輪郭に沿った補捉点を計算することで、粒子の補捉を行います。その結果、従来手法(一点照射)では補捉できなかった大きく形状が歪なポリスチレン粒子を、CTOTsでは安定して捕捉することに成功しました。また、CTOTsは従来の方法と比較して、粒子に適用される光放射圧(注3)が均等に分布されるため、粒子の不規則な回転や動きが大幅に抑制され、操作の精度が向上します。

fig02
図1:従来手法と輪郭照射法でのトラップ安定性の比較

本研究成果は、光ピンセット技術の新たな可能性を示すものです。本手法により、従来の光ピンセットでは扱うことのできなかった多様なサンプルの操作が可能になります。特に生きたままの微生物の姿勢を制御して観察・分析したり、環境汚染で問題となっているマイクロプラスチックなどのサブmm程度の歪なサンプルの操作など、新たな応用領域での利用が期待されます。

発表者・研究者等情報

東京大学大学院工学系研究科
高橋 哲 教授

道畑 正岐 准教授
門屋 祥太郎 助教:研究当時
増井 周造 特任助教
大峰 遼平 博士課程

論文情報

雑誌名:Optics letters
題 名:Manipulation of large, irregular-shape particles using contour-tracking optical tweezers
著者名:RYOHEI OMINE, SHUZO MASUI, SHOTARO KADOYA, MASAKI MICHIHATA, AND SATORU TAKAHASHI* *責任著者
DOI10.1364/OL.524424
URLhttps://doi.org/10.1364/OL.524424

研究助成

本研究は、里見奨学会の支援を受けました。

用語解説

(注1)光ピンセット
レーザービームを利用して、非常に小さい粒子や細胞などを捕捉し、操作する技術です。レーザーの焦点に粒子を固定し、光の力(光放射圧)を使って粒子を移動させることができます。

(注2)ガルバノミラー
ガルバノミラーは、モータによって角度が制御されたミラーであり、2枚のミラーを使うことで、レーザー光を自在に動かすことができます。

(注3)光放射圧
光が物体に力を及ぼす現象のこと。光には運動量があり、これが物体に吸収または反射されることで力が生じます。光ピンセットでは、この力を利用して粒子を操作します。

プレスリリース本体:PDFファイル
Optics letters:https://opg.optica.org/ol/fulltext.cfm?uri=ol-49-10-2773&id=550072

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