2024-03-18 東京都立大学,科学技術振興機構
ポイント
- Sn-Pb(スズ―鉛)ハンダはSnとPbが完全に相分離した複合材料で、7.2ケルビン以下で超伝導を示す。
- Sn-Pbハンダを磁場中で冷却したり、低温で高磁場を経験させたりすると、Sn領域のみが磁石になる。
- 超伝導状態は熱伝導率が低く、磁石の時(常伝導状態)は熱伝導率が高い。
- 磁場の印加により低熱伝導率から高熱伝導率への熱スイッチングを観測し、磁場を取り除いた場合にも高熱伝導率が維持する不揮発磁気熱スイッチングを実現。
電子デバイスなどの高性能化のために、熱流を自在に操るサーマルマネージメント技術が世界中で開発されています。特に、機械的接触がなくても熱伝導率を大幅に変化させられる「熱スイッチング材料」の開発が求められており、本研究の対象である磁気熱スイッチングもその1つです。しかし、磁気熱スイッチング技術の有用性を高める不揮発性を持つ磁気熱スイッチング材料はこれまでに発見されていませんでした。
東京都立大学 大学院理学研究科 物理学専攻の水口 佳一 准教授、有馬 寛人 博士(研究当時:特任研究員、現在:産業技術総合研究所 研究員)、モハマド リアド カセム 特任研究員、物質・材料研究機構(NIMS) 磁性・スピントロニクス材料研究センターの世伯理 那仁 グループリーダー、安藤 冬希 特別研究員、内田 健一 上席グループリーダー、東京大学 物性研究所の木下 雄斗 特任助教、徳永 将史 准教授の研究チームは、世の中にありふれたSn-Pbハンダに着目し、ハンダを磁場中で冷却することで磁石と超伝導の2つの性質を持つことを見いだしました。さらに、ハンダに含まれるSn領域の性質が、磁場印加によって超伝導から磁石に変わることを発見し、不揮発性を持った磁気熱スイッチング現象を実現しました。本研究における磁気熱スイッチングは、ハンダの超伝導転移温度である7.2ケルビン以下でのみ生じる低温の現象ですが、今後、高温超伝導体を用いた不揮発磁気熱スイッチング材料を開発できれば、より高温で動作する新たな熱スイッチ技術の創出につながると期待されます。
本研究成果は、2024年3月15日(現地時間)付けでSpringer Natureが発行する英文誌「Communications Materials」に発表されました。
本研究の一部は、JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO「内田磁性熱動体プロジェクト」(研究総括:内田 健一、課題番号:JPMJER2201)および東京都高度研究(研究代表:水口 佳一、課題番号:H31-1)の支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(728KB)
<論文タイトル>
- “Observation of nonvolatile magneto-thermal switching in superconductors”
- DOI:10.1038/s43246-024-00465-9
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
水口 佳一(ミズグチ ヨシカズ)
東京都立大学 大学院理学研究科 准教授
<JST事業に関すること>
古川 雅士(フルカワ マサシ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部 グリーンイノベーショングループ
<報道担当>
東京都立大学 管理部 企画広報課 広報係
科学技術振興機構 広報課