2021-12-02 国立天文台
天の川銀河の最外縁部に発見された原始星とそれを取り巻く有機分子の雲の想像図(クレジット:新潟大学) オリジナルサイズ(3.7MB)
アルマ望遠鏡による観測から、天の川銀河(銀河系)の最も外側の領域にこれまで知られていなかった原始星(赤ちゃん星)が発見されました。さらにこの星を、水や複雑な有機分子を含む化学的に豊かな分子ガスが取り巻いていることも明らかになりました。この領域には天の川銀河が形成された頃の環境が残されていると考えられることから、今回の発見は、宇宙史を通した星・惑星の材料となる物質の化学的な多様性の理解に大きく貢献すると期待されます。
天の川銀河を構成する物質は均一ではなく、最も外側にあたる領域では、太陽系近傍に比べて、炭素や酸素、窒素といった重元素が少なく、天の川銀河が形成された頃の環境に近いと考えられています。この領域では分子雲や原始星の候補がいくつか見つかっていましたが、太陽系近傍に比べて研究が進んでおらず、星・惑星の材料となる物質の化学組成の研究はほぼ未開拓でした。
新潟大学の下西 隆(しもにし たかし)研究准教授を中心とする研究チームは、アルマ望遠鏡を用いて、天の川銀河の中心から約6.2万光年の距離にある星形成領域を観測しました。この領域はまさに天の川銀河の最外縁部にあたります。観測の結果、研究チームはこの領域に新たな原始星を発見し、この星を、水や複雑な有機分子などを含む化学的に非常に豊かな分子ガスが取り巻いていることを明らかにしました。天の川銀河の最外縁部において、原始星やそれを取り巻く有機分子の雲が検出されたのは、今回が初めてです。太陽系近傍とは大きく環境が異なる天の川銀河の最外縁部のような原始的な環境の領域でも、化学的に豊かな物質の進化が起こっているのです。このことから、複雑な有機分子が作られる環境は、宇宙史の比較的初期の段階から存在していた可能性があります。
今回の観測から、天の川銀河の最外縁部のような重元素が少ない環境の下でも、複雑な有機分子が効率的に作られることが明らかになりました。今後、アルマ望遠鏡などを用いた同様の天体の観測が進めば、天の川銀河の原始的な環境における星形成や物質進化の詳細なようすが、より多くの天体について明らかになると期待されます。
この研究成果は、Takashi Shimonishi et al. “The detection of a hot molecular core in the extreme outer Galaxy”として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2021年12月1日付で掲載されました。