35GHz低周波数ジャイロトロンシステムの性能試験において、 3秒間の1MW級での出力を実現~ 産学、国際協力のもと、フュージョンエネルギーの実現に向けたマイルストーンを達成~

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2024-01-12 核融合科学研究所

京都フュージョニアリング株式会社(以下KF)、核融合科学研究所(National Institute for Fusion Science:以下、NIFS)、国立大学法人筑波大学(以下、筑波大学)、英国原子力公社(UK Atomic Energy Authority:以下、UKAEA)およびキヤノン電子管デバイス株式会社(以下、キヤノン電子管デバイス)の国際産学共同研究グループは、35GHz低周波数ジャイロトロンシステムの性能試験において、60GHz以下の低周波数ジャイロトロンでの最大級かつ最長級となる3秒間の1MW級での出力を実現しました。

研究開発の背景

大型核融合炉であるITERやJT-60SA向けに開発されているジャイロトロンシステムは電子の回転周波数に合わせて共鳴させる100GHz以上の高周波数のものが主流で、電子サイクロトロン加熱により炉心を加熱します。しかし、MAST Upgradeをはじめとする球状トカマク装置においては、その特徴から電子サイクロトロン加熱が難しいため、電子バーンスタイン波という比較的低周波数で高密度プラズマの電子を加速し加熱できる別の方式を取り入れる必要があります。そこで、プラズマ加熱実験のために1台のジャイロトロンで28GHzと35GHzが発振できる1MW級低周波数ジャイロトロンシステムを新たに開発することになりました。

ジャイロトロンシステムを用いて核融合反応を起こすためには、炉心プラズマを加熱するためのビーム(注1)を、高い出力のままジャイロトロンから炉心プラズマに誘導することが重要です。しかし、ジャイロトロンシステムは、周波数が低くなるほどジャイロトロン本体から出力するビームが発散しやすくなり、炉心プラズマまでの伝送が難しい、かつ放電しやすくなり、機器の破損等に注意が必要という問題がありました。そのため、秒レベルでMW級のビーム出力が可能なジャイロトロンの開発が困難な状況でした。

そこで、KF、ジャイロトロン性能試験のために必要な設備を有するNIFS西浦 正樹准教授らの電子サイクロトロン加熱グループ、低周波数ジャイロトロンシステムの研究開発をけん引してきた筑波大学数理物質系 假家 強准教授、UKAEAおよびジャイロトロン製品設計・製造企業であるキヤノン電子管デバイスの共同研究グループは、低周波数ジャイロトロンシステムの研究開発に取り組みました。

研究開発の方法

筑波大学のノウハウをもとに、ジャイロトロン本体からビームを出力するためのジャイロトロン内部に設置しているミラーと、ジャイロトロン本体から発生したビームを炉心プラズマに伝送するための導波管へ誘導する準光学的結合器(MOU)内のミラーをそれぞれ大きくするとともに、2つのミラー間の距離を可能な限り近づけるように、システムを設計しました。ミラーを大きくすることにより、発散しやすいビームの伝送損失を最小限に抑え、またミラー間の距離を縮めることで伝送損失や放電を軽減させることが期待できます。

これらの設計を微調整しつつ、ジャイロトロン本体を稼働させるために高電圧電源や、ビームを発生させるために必要な磁場を形成する超電導マグネットのパラメータを調整しながら、性能試験を重ねました。

研究開発の結果

今回、このジャイロトロンシステムの性能試験において、35GHzの低周波数で3秒間の1MW級(ダミーロードでの計測で930kW)の出力を実現しました。従来は筑波大学の2周波数ジャイロトロンにおいて、1ミリ秒クラスの短パルス動作では 28GHzで1.65MW、35GHzで1.21MWを達成していました。一方で秒レベルの発振としては、電源システムの制約により、0.4MW-2.8秒、0.13MW-30秒等の出力までを達成していました(注2)。しかしながら、パルス幅が制限されていたことから、これまで、1MW級、秒レベルの動作検証は行われていませんでした。

大電力電磁波ビームの発散が大きな課題である35GHzの比較的低周波の領域で、秒レベルのMW級での出力を達成したことは、小型核融合炉開発における大きな貢献となる可能性があります。

また再現性と安定性の観点でも高い性能を確認し、合計20回の出力のうち19回は同等の数値での出力に成功しました。加えて10回連続の出力でも同等の数値を確認し、信頼性の高い結果を得ることができました。

NIFSでの性能試験時のジャイロトロンシステム

なお本結果は、2023年11月27日(月)から30日(木)に岩手県で開催された「第40回プラズマ・核融合学会 年会」において発表しました。

このジャイロトロンはUKAEAへと渡り、オックスフォード近郊のカルハムに位置する球状トカマク装置MAST Upgradeにて使用される予定です(注3)。ここではUKAEAが主導する核融合プラント開発プログラム「STEP(Spherical Tokamak for Energy Production)」に貢献する実験が行われます。

ジャイロトロンシステムについて

ジャイロトロンシステムは、ジャイロトロン内部に発生させた強磁場中で回転する電子の運動エネルギーからマイクロ波を発生させ、導波管を通じて炉心プラズマを加熱する装置です。

磁場閉じ込め方式の核融合炉において、プラズマ状態を作り出すために必要な加熱システムとされています。

(注1)ビーム:ギガヘルツ帯の波は波長がミリメートルからマイクロメートルとなるため、ミリ波やマイクロ波と呼ばれます。光と同じように指向性があり、レンズやミラーで収束や発散させることができます。

(注2) 假家准教授らのグループにより論文誌K. Kariya et al., 2019 Nucl. Fusion 59 066009. に報告されています。

(注3)UKAEA の取り組みについては各公式サイトをご参照ください。
英国原子力公社(UKAEA):https://www.gov.uk/ukaea
STEPプログラム: https://step.ukaea.uk/

本件のお問い合わせ先

大学共同利用機関法人
自然科学研究機構 核融合科学研究所 研究部
位相空間乱流ユニット
准教授 西浦 正樹(にしうら まさき)

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2001原子炉システムの設計及び建設
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