宇宙から降り注ぐ宇宙線「空気シャワー」の可視化に成功!

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2023-10-11 国立天文台

国立天文台、大阪公立大学等の研究者からなる研究チームが、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラで撮られた2万枚もの画像を解析した結果、宇宙から降り注ぐ高エネルギー粒子の「空気シャワー」を非常に高い空間分解能で可視化できることを発見しました。この新しい検出手法を発展させることで、宇宙線の粒子種の解明や、ダークマターの探査、さらには物質優勢の宇宙の解明につながる可能性が期待されます。

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宇宙から降り注ぐ宇宙線「空気シャワー」の可視化に成功! 図図1:すばる望遠鏡の HSC で可視化された高エネルギー宇宙線の2次粒子群(空気シャワー; 図では黄色で表されています)。天体観測では、やっかいなノイズである宇宙線ですが、本研究は、その「ノイズ」に着目しました。高解像度画像はこちら(2.0 MB)(クレジット:NAOJ/HSC Collaboration)


宇宙空間には高エネルギーの放射線(宇宙線)が存在し、地球に絶えず降り注いでいます。なかでも非常に高いエネルギーを持った宇宙線は、地球大気に入射すると大量の電子や陽電子、ミューオンなどからなる高エネルギー粒子群(空気シャワー)となって地表に到来します。すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム;HSC)で撮影された画像には、宇宙線が CCD を貫通することで生じる飛跡(図1、2)が1回の撮影につき約2万個映り込みます。宇宙線の飛跡は、星や銀河を観測する天体観測においてノイズとなるため、通常はデータ処理の過程で除去されます。

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宇宙から降り注ぐ宇宙線「空気シャワー」の可視化に成功! 図2図2:(左)宇宙線が CCD 内を通過したときに残る飛跡の概念図。(右)HSC のカメラ部分には、6センチメートル×3センチメートルの大型 CCD が 116 枚並べられています。(クレジット:大阪公立大学/HSC Project)


国立天文台ハワイ観測所の川野元聡 特任研究員、小池美知太郎 研究技師、宮崎聡 教授、大阪公立大学の藤井俊博 准教授、Fraser Bradfield 大学院生、千葉工業大学の諸隈智貴 主席研究員、法政大学の小宮山裕 教授らの研究チームが、2014年から 2020年にかけて HSCを用いた大規模サーベイ(HSC-SSP)で撮影された画像約 17,000 枚について、映り込んだ宇宙線の飛跡を詳しく再解析したところ、13 枚の画像で、通常の飛跡数をはるかに上回る、空気シャワーの粒子群が捉えられていたことを突き止めました。これらの空気シャワーは、高い解像度で撮影されており、その飛跡が同じ方向を向いていることから、非常にエネルギーの高い1つの宇宙線から生成された2次粒子群であることが明らかになりました。
このような事象が系統的に解析され、専門誌に報告された例はこれまでにありません。シャワーを検出するためには、それが広がる前の高山で観測する必要があります。また、検出器の厚みが充分ないと、長い軌跡を記録することができません。標高4200メートルという高地に設置され、空乏層の厚いCCDを採用したHSCを長期間観測運用したからこそ初めて得られたデータである、と言えるでしょう。HSCとそのサーベイのユニークさを、全く別の角度からも示しました。
従来の宇宙線検出器(注1)は、入射した宇宙線の総粒子数と時刻情報を記録するもので、空気シャワーを構成している粒子の種類(電子や陽電子、ミューオン)は区別できません。一方、HSC に搭載されている CCD を使えば、各飛跡の形からミューオンか電子であるかを個別に判断できる可能性があります。
研究チームの Fraser Bradfield 大学院生は、「空気シャワーの粒子がこれほど詳細に見えたことは、宇宙線研究の新たな方法を拓く可能性があり、とても興味深く感じています。本研究は、異分野との共同研究の重要性と「捨てる神あれば拾う神あり」を証明しています。将来的には、本研究の新しい観測手法と伝統的な観測手法の特徴を活かし、宇宙線の解明に重要な質量組成(粒子種)を決定したいです」と語ります。
HSC が捉えた空気シャワーには、ダークマター由来の信号が含まれている可能性も示唆され、ダークマター探査への応用が考えられます。また、高精度で捉えられた飛跡の詳細な解析から、物質優勢の宇宙(注2)の成因を探るなど、新たな研究を切り拓く可能性が期待されます。
論文の主著者の川野元特任研究員は、「天体画像においては補正の対象である宇宙線イベントですが、HSC-SSP という長期に渡る一様な観測データを解析することで、元々の観測目的ではなかった科学の領域まで有効な情報を引き出せる可能性を示すことができました。高エネルギー粒子の観測手法についての知見はもちろん、一様な品質が保証されたデータアーカイブの重要性についての示唆も与える結果であったと考えています」と語ります。
本研究成果は、Springer Nature 社の国際学術誌『Scientific Reports』に 2023年10月12日付で掲載されました(Kawanomoto et al. “Observing Cosmic-Ray Extensive Air Showers with a Silicon Imaging Detector“)。
本研究の一部は、科学研究費助成事業(科研費)学術変革領域(A)20H05852、20H0585、基盤研究(A)20H00181、国際共同研究加速基金(国際先導研究)22K21349、JST 科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業 JPMJFS2138 の支援を受けて行われました。
(注1)宇宙線検出器には、プラスチックなどの物質内を宇宙線が通過した際の微弱な蛍光発光を検出するシンチレーターや、水中の荷電粒子からのチェレンコフ光を検出する水チェレンコフ光検出器などがあります。
(注2)宇宙の始まりでは物質と反物質が同じだけ存在していたと予想されていますが、現在の宇宙では反物質が消え去り、物質が大部分を占めています。この状態を「物質優勢」といいます。反物質が消える理由は明らかになっておらず、私たちの知らない物理法則が関連していると考えられています。

すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

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