遺伝子組換え植物で生産したタンパク質を高効率に一貫抽出できるシステムを開発~炭素循環型社会の実現に向け、バイオ由来製品生産技術の社会実装を目指す~

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2023-10-05 新エネルギー・産業技術総合開発機構,鹿島建設株式会社

NEDOの「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」(以下、本事業)で、鹿島建設(株)(以下、鹿島)は、「遺伝子組換え植物を利用した大規模有用物質生産システムの実証開発」に関する共同研究に参画しています。その中で鹿島は今般、遺伝子組換えを行った植物が細胞内に生産したタンパク質(目的タンパク質)を短時間・高効率に抽出できる一貫抽出システムを構築しました(特許出願中)。本システムは、目的タンパク質の生産に必要な破砕から精密ろ過までの3プロセスを最適化したもので、タンパク質の高い抽出効率を実現しながら、従来必要な植物由来の不要粒子を除くための多くのプロセスを省略することができます。

鹿島は今後、植物から生産した目的タンパク質の破砕・抽出技術に関する研究開発をさらに進めていきます。併せて、一過性遺伝子発現系技術を利用した植物による有用タンパク質の商業生産に関する本共同研究全体成果の社会実装に向けた取り組みを、建設・エンジニアリングの側面から進めることで、NEDOとともに炭素循環型社会の実現に貢献します。

なお、本研究成果の一部を、2023年10月11日から13日にパシフィコ横浜で開催される「BioJapan2023」のNEDOブースに展示します。

図1 開発した一貫抽出システムの構成イメージ図
図1 開発した一貫抽出システムの構成イメージ

1.背景

近年、温室効果ガス(GHG)排出量の削減や炭素循環型社会の実現に向けて、バイオテクノロジーによるものづくり(バイオものづくり)が注目されています。バイオものづくりは、化学プロセスと比較して省エネルギーで物質を生産できます。さらに、バイオものづくりは化石資源に依存することなく、光合成によって二酸化炭素(CO2)を固定する植物を物質生産に利用するため、カーボンリサイクル実現を加速するための有効な手段の一つとされています。特に、植物遺伝子組換え技術の一つである一過性遺伝子発現系技術※1を利用した植物による有用タンパク質生産では、現在の一般的な組換えタンパク質生産手法である微生物や動物細胞の培養と比較して、次のような利点がある※2とされており、商業生産への適用が期待されています。

1.低コストかつ短期間で大量生産が可能であること

2.生産設備を低コスト化できる可能性があること

3.新規目的物質に対する生産開始までのリードタイムを短縮することができること

4.ヒト感染性病原体や毒素の混入リスクが低いこと

しかし、大量の植物材料から目的タンパク質を効率的に抽出するプロセスの開発は、タンパク質の変性対策や効率性・スケールアップの観点から技術的課題があり、国内外を含めて進んでいません。例えば、既存の抽出システムでは、植物由来の不要粒子を除くために多くのプロセスが必要とされるため、精製までのプロセスにかかる処理時間が長くなり、コストも高くなるという課題がありました。

2.今回の成果

NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2020年度から、本事業※3でバイオ由来製品生産技術の開発に取り組んでいます。その一環として、鹿島建設株式会社(以下、鹿島)は、一過性遺伝子発現系技術を利用した有用タンパク質生産技術の実用化に向けた産官学共同研究※4に参画しています。この研究の中で、鹿島は今般、目的タンパク質を短時間で高効率に抽出するための破砕・抽出システムを開発することに成功しました。本システムは、(1)破砕、(2)固液分離/清澄化、(3)精密ろ過の3プロセスで構成します。収穫した植物を破砕することで目的タンパク質を抽出し、目的タンパク質を含む破砕液から植物残渣(ざんさ)などの0.2µm以上の不要な粒子を除去した清澄度の高い溶液を次工程の精製処理に供給します(図2)。従来のプロセスでは植物由来の不要粒子を除くために多くのプロセスが必要ですが、最適なプロトコルを開発したことで、目的タンパク質の変性などを抑制しながら、3プロセス内の作業を削減することができました。さらに、本システムを適用することで、医薬品製造など目的タンパク質生産における精製コストの低減が期待できます。

各プロセスの詳細は、以下のとおりです。

図2 破砕から精密ろ過までのフローを表した写真
図2 破砕から精密ろ過までのフロー

(1)破砕

破砕処理にはさまざまな方法がありますが、一般的な大量処理では材料が高温化しやすい傾向があり、目的のタンパク質によっては変性などによる収量低下の原因となります。鹿島が開発した破砕処理装置は冷却機構を備えた回転刃方式で、破砕処理に伴って生じる温度上昇を抑制することができます。このため、熱耐性の異なるさまざまなタンパク質の抽出に適用でき、また、長時間の破砕ができるため、抽出効率が高いことが特長です。本プロセスでは、緩衝液やろ過助剤を破砕と同時に混合することが可能であり、固液分離前の混合プロセスを省略することができます。

(2)固液分離/清澄化

目的タンパク質を含有する破砕液から不要な固形分をできるだけ取り除くプロセスです。鹿島が開発した固液分離/清澄化処理方法では、温度上昇を伴わずに処理できるコールドプレス式の固液分離装置と、タンパク質を吸着しにくい最適なろ過助剤を組み合わせます。これにより、高い清澄度と目的タンパク質回収率を両立しながら、大量の破砕液を固液分離できます。本処理方式の採用により、次プロセスの精密ろ過処理に要する所要時間を短縮させるとともに、精密ろ過フィルターの負荷を軽減することが可能となります。

(3)精密ろ過

0.2µm孔径のフィルターを用いて、ろ液を精製処理に供給するプロセスです。精製処理において支障となる粒子を除去するとともに、カルタヘナ法※5への対応として遺伝子導入時に用いた遺伝子組換え菌を除去します。鹿島が採用した精密ろ過装置は、フィルターに対して垂直方向に通液して粒子を分離する一般的なろ過技術(ノーマルフローフィルトレーション)と比較して、目詰まりが生じにくいタンジェンシャルフローフィルトレーション(TFF)方式※6を採用していることが特長です。清澄化処理プロセスの効果との相乗効果により、ろ液の回収効率が高く、通常行われる段階的なろ過プロセスを省略することができます。

3.今後の予定

鹿島は今後、国内の遺伝子組換え植物工場の設計・施工に本成果を活用していきます。また、共同研究全体で構築される新たな一貫生産技術については、鹿島が実施するライフサイクルアセスメント(LCA)によりCO2排出量の削減効果の有効性を検証します。その上で、建設・エンジニアリングの側面からカーボンリサイクル実現に向けた社会実装への取り組みを進めます。

NEDOは本事業を通じて、バイオ由来製品の社会実装加速や新たな製品・サービスの創出、さらに日本のバイオエコノミー活性化へ貢献します。これにより、2050年カーボンニュートラルへの道筋を示し、バイオものづくり分野におけるGHGの排出量削減に貢献します。

なお、本研究成果の一部を、2023年10月11日から13日にパシフィコ横浜で開催される「BioJapan2023※7」のNEDOブースにおいて展示します。

【注釈】
※1 一過性遺伝子発現系技術
外来遺伝子を後天的に植物細胞内に導入し、一過的に発現させて目的タンパク質を生産する方法です。
(参考)松田ら,2022:植物工場を利用した医薬用タンパク質生産.生物と気象(Climate in Biosphere)2:58-68
※2 一般に次のような利点がある
(参考)松田ら,2022:植物工場を利用した医薬用タンパク質生産.生物と気象(Climate in Biosphere)2:58-68、およびその引用文献など
※3 本事業
事業名:カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発
事業期間:2020年度~2026年度
事業概要:カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発
※4 一過性遺伝子発現系技術を利用した有用タンパク質生産技術の実用化に向けた産官学共同研究
(参考)NEDOリリース(2020年8月28日)「バイオ由来製品の社会実装に向け、バイオ資源の拡充と生産プロセス確立に着手
※5 カルタヘナ法
「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(通称「カルタヘナ法」)により、国内における遺伝子組換え生物の使用などを用いる際の規制措置を講じています。また、遺伝子組換え生物が生物多様性へ影響の審査や適切な使用方法について規定されています。
※6 タンジェンシャルフローフィルトレーション(TFF)方式
フィルターの膜面に対して平行な流れを作ってろ過を行うことで、膜面への物質の堆積を抑制しながらろ過を行う方式です。
※7 BioJapan2023
BioJapan2023公式サイト
4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 材料・ナノテクノロジー部 担当:平松、伊藤、林
鹿島建設株式会社 広報室 TEL:03-6438-2557

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:根本、坂本、瀧川、山脇

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