塩と熱い水蒸気に包まれる巨大赤ちゃん星のペア

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2020-09-25 国立天文台

図:アルマ望遠鏡が撮影した原始星のペア「IRAS 16547-4247」の周囲の構造。
アルマ望遠鏡が撮影した原始星のペア「IRAS 16547-4247」の周囲の構造。
塵が放つ電波を黄色、シアン化メチル(CH3CN)が放つ電波を赤色、塩化ナトリウム(NaCl)が放つ電波を緑色、水蒸気(H2O)が放つ電波を青色として合成し、画像下にはそれぞれの中心部をクローズアップして示しています。塵とシアン化メチルが原始星ペアを大きく取り巻くように広がっているのに対して、塩化ナトリウムと水蒸気が個々の原始星の周りに集中して存在していることが分かります。広範囲の画像で、原始星のペアの上側に、原始星から放たれるジェットからの電波を水色で合成したものを示しています。(クレジット:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tanaka et al.) オリジナルサイズ(247KB)


重い原始星がペアを組む天体について、それぞれの原始星を囲むガス円盤の中に、塵(ちり)が壊されることで出てきた塩化ナトリウムや、高温に加熱された水蒸気が含まれていることが、アルマ望遠鏡による観測で明らかになりました。これらの分子から放たれる電波を解析したところ、二つのガス円盤が互いに逆向きに回転する様子などが示され、大質量星の誕生を探る上で重要な手掛かりが得られました。

恒星にはさまざまな質量のものがあり、質量が太陽程度の「小質量星」もあれば、太陽の10倍以上の「大質量星」もあります。いずれも、宇宙に浮かぶガスと塵の雲を材料にして生まれますが、大質量星は、小質量星に比べて数が少なく、また誕生する場所も地球から遠いため、その形成のメカニズムは小質量星に比べると十分には理解が進んでいません。その理由には、大質量の原始星の周囲には非常に大量のガスが存在し、それが複雑な分布をしているため、星に流れ込むガス円盤を見分けるのが困難だったことが挙げられます。

さそり座の方向、約9500光年の距離にある「IRAS 16547-4247」は、合わせて太陽の25倍の質量の原始星のペアが、太陽の1000倍もの質量の大量のガスの中に深くに埋もれている天体です。国立天文台の田中圭(たなか けい)特任研究員、理化学研究所のイーチェン・チャン基礎科学特別研究員らの研究チームは、アルマ望遠鏡を用いてこの天体を高解像度・高感度で観測し、原始星の周囲に存在するさまざまな分子が放つ電波を捉えました。そして、その分布が分子によって大きく異なっていることが分かりました。これまで重い原始星で多く観測されてきたシアン化メチルや二酸化硫黄は、原始星から遠い領域まで広がっているのに対し、原始星の近くでは高温の水蒸気や塩化ナトリウム、一酸化ケイ素の分子が放つ電波が検出されたのです。

ペアの原始星には、それぞれに原始星の周りを回転しながら取り巻いているガス円盤があり、そのガス円盤から個々の星へと物質が供給されています。この現在ペアになっている原始星が、一つの巨大なガス円盤が分裂して誕生した「双子」だとすれば、二つのガス円盤は同じ方向に回転しているはずです。ところが、今回の観測からは、この二つのガス円盤がそれぞれ逆の向きに回転している兆候が捉えられたのです。もし本当に二つの円盤が逆の向きに回転しているとしたら、離れた場所で別々のガスの集まりから生まれた原始星が、やがて出会ってペアを組んだ可能性があります。今後より詳細な観測を続けることで、重い原始星を育むガス円盤の熱くダイナミックな姿から、大質量星誕生のメカニズムが解明されると期待できます。

この研究成果は、Kei E. I. Tanaka et al. “Salt, Hot Water, and Silicon Compounds Tracing Massive Twin Disks”として、2020年8月25日発行の米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』に掲載されました。

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