全面マスク用マグネット固定方式メガネを開発・発売~全面マスクを使用する様々な施設での利活用が可能に~

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2023-03-01 日本原子力研究開発機構,株式会社コクゴ

発表のポイント】

  • 全面マスク装着時は、マスクの接顔部と顔面との間の気密性が低下するのを防ぐため、メガネをかけないのが一般的でした。このため、全面マスクを用いる作業に従事する作業者は限定され、被ばく及び疲労の偏りなどの懸念がありました。
  • 開発したメガネを使用することにより、全面マスクの機能を損なうことなくメガネを使用することが可能になり、作業者を限定することなく従事できるようになりました。
  • 開発したメガネは、マグネット固定方式を採用することで、誰でも簡単に確実な装着が可能です。(図-1参照)
  • 開発したメガネは、あらゆる種類の全面マスクに適用でき汎用性が高いことから、原子力施設だけではなく、国内外の全面マスクを使用する、化学施設、生物施設、研究施設、医療施設、消防施設等を有する防災機関において、利活用が期待できます。
  • 全面マスク用マグネット固定方式メガネは、令和5年3月1日より発売します。

全面マスク用マグネット固定方式メガネを開発・発売~全面マスクを使用する様々な施設での利活用が可能に~

図-1 全面マスク用マグネット固定方式メガネの着用例

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:小口正範)核燃料サイクル工学研究所プルトニウム燃料技術開発センターの全面マスク用メガネ開発グループは、全面マスク使用時にメガネをかけた人でも作業が実施できるように、全面マスク用マグネット固定方式メガネを開発し、MOX燃料製造技術開発施設での運用を開始しました。また、核燃料サイクル工学研究所の自衛消防班等においても本メガネを配備しました。

全面マスクは、高い密着性により顔面を覆うことで全面マスク内の気密を担保する構造です。このため、テンプルが付いたメガネをかけた状態で全面マスクを装着してしまうと顔面とマスクの間に隙間ができ気密性が損なわれます。(図-2参照)

全面マスクの装着時は、メガネがかけられないため、作業者は限定されてしまい、被ばくや疲労の偏りなどの懸念がありました。

図-2 メガネをかけることによる漏れの原因

そこで、普段メガネをしている人がメガネをかけた状態でも、全面マスクの気密性を損なうことなく作業が行えるように、「全面マスク用マグネット固定方式メガネ」を開発しました。メガネについてはテンプルがない構造とし、マグネットにより固定できる方式を採用しました。開発したメガネは、誰でも簡単に確実な装着が可能です。(図-3参照)

図-3 全面マスク用マグネット固定方式メガネ(開発品)

全面マスク用マグネット固定方式メガネは、共同開発を行った(株)コクゴより令和5年3月1日より発売します。

【開発の背景と目的】

全面マスク作業時は、気密性の観点からメガネを使用することが出来ないため、作業者が限定されてしまいます。この問題を解決するため、気密性を損なわず、誰でも簡単・確実に装着できるメガネの開発を行いました。

(1) メガネ(市販品)をかけた状態での全面マスクの漏れ率測定試験
メガネ(市販品)をかけた状態で、全面マスクを装着した場合に、全面マスクの性能にどの程度影響するか評価するため、NaCl漏れ率測定試験1)を実施しました。(図-4参照)
この結果、メガネ(市販品)をかけている状態で全面マスクを装着すると、防護係数2)が大幅に低下することが分かりました。

図-4 漏れ率測定結果

(2) メガネ(市販品)をかけることによる漏れの原因
全面マスクは高い密着性により顔面を覆うことで、全面マスク内の気密を担保する構造です。メガネ(市販品)を使用する作業者が全面マスクを装着した場合、顔面とマスクの間にテンプルによる隙間ができ、汚染を吸引する危険性が高まり、内部被ばくの原因となる可能性があります。

(3) 課題
メガネ(市販品)をかけた状態での全面マスクの漏れ率測定試験から、防護係数が大きく低下することが定量的に確認できたため、全面マスクの性能を維持した状態で使用できるメガネを開発する必要がありました。

【開発内容と成果】

上記の課題を解決するため、「全面マスク用マグネット固定方式メガネ」を開発しました。

1.全面マスク用マグネット固定方式メガネの概要

(1) メガネ(図-5参照)

  • テンプルが無い構造とし、フレーム(レンズ、リム、ブリッジ)一体型の構造としました。
  • 材質は、落下等による破損防止の観点から、プラスチック製を採用しました。
  • 度数は多くの人が使用できるよう、近眼・老眼の7種類を用意しました。

図-5 テンプルが無い構造のメガネ

(2) 把持機構(図-6、図-7、図-8参照)

メガネのテンプルに替わりに、以下の機能を有する把持機構を採用しました。

  • クリップによりメガネのブリッジ部を把持することで鋭利な部分をなくしました。
  • クリップには関節があるため、任意の角度に曲げることが可能です。(可動範囲:約90度)
  • クリップの関節部分は継手用の部品を付け足すことにより、長さの調節も可能です。

図-6 把持機構の構造

図-7 把持機構によりメガネを把持した状態

図-8 把持機構の関節を1つ延長した例

(3) マグネット固定方式(図-9参照)

全面マスクの気密性を損なわず、簡単・確実にメガネを固定することができるようマグネット固定方式を採用しました。

  • 視界を妨げない位置に、外側と内側のマグネットで面体を挟み、磁力によりメガネを固定する構造としました。
  • 面体外側のマグネットを手で動かすことで、磁力により内側にあるメガネの把持機構に接続しているマグネットも付随して動くため、全面マスクを外すことなく、メガネ位置の微調整が可能です。また、内側のマグネットの設置面を覆っているフェルトは、面体のキズを防止するとともに動きを滑らかにする効果があります。
  • メガネの他、装着するデバイスによって、マグネットの磁力や把持機構のクリップ力を任意に変更できます。

図-9 マグネット固定方式による全面マスクへのメガネ取り付け方法

2. 主な成果

全面マスク用マグネット固定方式メガネを使用することにより、全面マスクの機能を損なうことなく誰でも簡単で確実に視力を矯正でき、全面マスクを使用した作業に従事することが可能となり、原子力施設等における安全対策強化に大きく貢献できました。(図-10参照)

図-10 MOX燃料製造技術開発施設での使用例(汚染検査作業)

【今後への期待】

全面マスク用マグネット固定方式メガネは、全面マスクの種類によらず、あらゆる全面マスクに適用でき、汎用性が高いことから、国内外の全面マスクを使用する施設や、消防施設等を有する防災機関において、利活用されることが期待できます。(図-11参照)

図-11 核燃料サイクル工学研究所自衛消防班での使用例

【特許・表彰】

この全面マスク用マグネット固定方式メガネについては国内外でも類似のメガネは無く、新規性及び独創性の高いアイデアであることから、特許(特願2022-000568 保持装置)を出願しました。また、令和4年度科学技術分野の文部科学大臣表彰(創意工夫功労者賞)を受賞しました。

【販売について】

全面マスク用マグネット固定方式メガネは、共同開発を行った(株)コクゴより令和5年3月1日より発売します。

【用語の説明】

1)NaCl漏れ率測定試験
JIS T 8159(呼吸保護具の漏れ率試験方法)で規定されている試験方法で、チャンバー内に「呼吸用保護具」を装着した被験者が入り、その中で定められた動作を行う間に、チャンバー内及び面体内のNaCl濃度を測定し、呼吸用保護具の漏れ率を評価する試験。

2)防護係数
呼吸用保護具の防護性能を表す指標で、環境中の有害物質濃度と吸気中の有害物質濃度の比で算出。防護係数が高いほど、防護性能が高いことを表す。

2005放射線防護
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