光機能性ナノワイヤをシリコンウエハ全面に大容量集積 ~適切な結晶作製条件によりデバイス応用可能な高品質なナノワイヤが簡便で大量に合成可能~

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2023-02-07 東京大学

ポイント
・シリコン基板全面で高い近赤外域の発光強度と均質性を持つ高機能半導体ナノワイヤの合成に成功。
・直径5センチのシリコンウエハ上に約7億本の極微細ナノワイヤを簡易な単一処理で形成。
・光吸収で表面が鏡面から黒くなり、大出力太陽電池やシリコン光デバイスなどへの展開に期待。

概要

北海道大学量子集積エレクトロニクス研究センターの石川史太郎教授、北海道大学大学院情報科学研究院の村山明宏教授、樋浦諭志准教授、愛媛大学大学院理工学研究科、及び東京大学大学院工学系研究科の柳田 剛教授、長島一樹准教授らの研究グループは、発光・受光機能に優れたガリウムヒ素系半導体ナノワイヤをシリコンウエハ全面に大容量で集積することに成功しました。
ナノワイヤはその一本一本をレーザーや太陽電池、トランジスタとして機能させることができます。今回の報告では、分子線エピタキシーという結晶作製手法で長さ約6ミクロン、直径約250nmのナノワイヤを作製しました。そこで構成元素ガリウムの微細な液滴を用い、圧力や温度といった結晶合成条件を適切にすることで、シリコンウエハ全面に高品質で均質なナノワイヤを大容量で合成できることを発見しました。直径5センチのシリコンウエハ上では、約7億本の微細なナノワイヤを、前処理などを用いず単一の分子線エピタキシー法のみで簡便に形成することができます。
作製したウエハからは良好な発光と効率的な光吸収が得られており、太陽電池の大出力化や、シリコンテクノロジーへの安価で高機能な光機能付加など新しい展開が期待されます。
なお、本研究成果は、2023年2月3日(金)公開のNanoscale Advances誌に掲載されました。

光機能性ナノワイヤをシリコンウエハ全面に大容量集積 ~適切な結晶作製条件によりデバイス応用可能な高品質なナノワイヤが簡便で大量に合成可能~

シリコンウエハ全面にナノワイヤを形成した試料。ナノワイヤが均質に形成され、光特性の高いガリウムヒ素基板相当以上の強い発光がウエハ全面で観測される。光吸収のため見た目は黒くなる。

【背景】
半導体の中でも周期表中のIII属とV族の元素を組み合わせたIII-V族化合物半導体は物質中でも最高峰の光電変換機能と電子移動度を持っており、高性能なレーザーやセンサー、LED等に用いられています。効率的な光学機能を持つ材料と半導体の基盤技術であるシリコンエレクトロニクスとの統合は長年追求されており、III-V族半導体との組み合わせは多くの試みがなされてきました。その中で、シリコン基板上に薄膜を形成したり、高品質な結晶構造が繋がるように積層されるエピタキシャル成長*1や、直接それぞれの材料を張り合わせたりするなど、様々なアプローチが試みられてきました。
加熱基板上で結晶を成長するエピタキシャル成長では、構成層の熱膨張係数差が問題となり、シリコン上の III–V 族半導体のエピタキシャル成長は困難でしたが、小さな開口部から針状結晶を形成させるナノワイヤでは、シリコンに上述のIII-V族化合物半導体を高品質にエピタキシャル成長できることが知られています。太陽電池などの応用にあたっては、その出力の大きさは重要な要素であり、高い機能を示しながらも小さなナノワイヤ単体では出力増加が難しく、その大量生産が求められます。
エピタキシャル成長で主に用いられる、有機金属気相エピタキシーや分子線エピタキシーといった方法は、ワイヤ形成のための微小開口部形成のためのリソグラフィー及び微細パターン事前形成の必要性や、結晶形成条件などの制約から、大量のナノワイヤ合成には不向きと一般的に考えられていました。従って、ナノワイヤの大量生産には、原料ガスの通気口中に微小な液滴を導入したエアロゾルを用いた成長など、特殊な成長手法の開拓などが試みられていました。
そのなかで本研究では、分子線エピタキシー法*2において、構成元素ガリウムの自己触媒効果を用いることで、市販のシリコンウエハ上に前処理を一切必要とすることなく、適切な結晶作製条件を用いるのみでデバイス応用可能な高品質なナノワイヤが簡便で大量に合成可能になることを示しました。

【研究手法】
ナノワイヤ作製は市販の2インチシリコン(111)ウエハを基板に、分子線エピタキシー法により行いました。ここで、ガリウムヒ素結晶を成長させるために用いる構成元素のガリウムそのものを結晶の核生成と成長を促進する触媒として用いました。シリコンウエハ上にガリウム液滴を形成し、そこから光機能の高いガリウムヒ素ナノワイヤを形成させました。
結晶は、液滴のガリウムにヒ素が混入して結晶が生成されるVLS :Vapor-Liquid-Solid、気相-液相-固相成長と呼ばれる結晶成長現象*3で形成されます。この際の結晶が出来上がる基板の温度・供給する金属元素の蒸気圧、成長環境となる装置内圧力などを詳細に検討し、適切な条件下ではウエハ全面で高い密度でナノワイヤが均質に出来上がることを発見しました。
さらに、ガリウムヒ素ナノワイヤが形成された後、その周囲を光や電子閉じ込め効果の高いアルミニウムガリウムヒ素で覆うことで、内部のガリウムヒ素部分の電子が外部に流れ出すことなく良好に機能すること、微細な積層構造の形成で将来のデバイス構造作製も可能になるよう努めました。また、ワイヤの最表面で空気に触れる部位が自然に酸化された膜として保護層となるよう構造設計しました。

【研究成果】
分子線エピタキシー法によるガリウム自己触媒効果を用いた結晶成長により、2インチシリコン(111)ウエハ全面で均質で良好な発光特性を示すガリウムヒ素系半導体ナノワイヤを大容量で合成することに成功しました。ナノワイヤ形成には、ウエハの成長前のパターニング、成膜、エッチングなどの特定の前処理は不要で、分子線エピタキシー装置による単一のプロセスで試料を合成することができました。形成されたワイヤは長さ約 6 µm、直径約 250 nm、密度は一平方センチメートルあたり、およそ5千万本で、これは2インチ基板全体でおよそ7億本に相当します。ナノワイヤの構造はガリウムヒ素内部のコアがアルミニウムガリウムヒ素の外殻で覆われた「GaAs/AlGaAs コア-シェルナノワイヤ」が高い精度で形成され、デバイス構造形成も将来可能となります。
ウエハの外観は、ナノワイヤによる光散乱と吸収によって可視波長の反射率が 2% 未満に抑制され、元のシリコンウエハの鏡面状態から黒く見えるように変化しました。ナノワイヤを成長したウエハは、市販のガリウムヒ素基板と同等かそれ以上の発光強度を持ち、さらにその発光波長はウエハ全体で均質でした。また、ナノワイヤ最外殻表面が空気に触れて自然酸化することで形成される自然酸化膜は、ナノワイヤの表面を安定な酸化膜で長期間保護し、光特性の向上に寄与することも示されました。

【今後への期待】
本報告では、直径5センチの2インチシリコン(111)ウエハ上で約7億本の微細ナノワイヤを前処理や後加工などが不要な単一の分子線エピタキシー法のみで簡便に形成することができました。ワイヤは非常に均質で高品質であり、微細な積層構造も形成可能であることから各種のデバイスも作製可能です。ナノワイヤ群では効率的な光吸収が促進される結果も得られており、太陽電池の大出力化や、シリコンテクノロジーへの安価で高機能な光機能付加など新しい展開が期待されます。

【謝辞】
本研究の一部は、科学研究費補助金(課題番号19H00855, 16H05970, 21KK0068)、キヤノン財団研究助成プログラム「新しい産業を生む科学技術」の助成を受けて実施されました。
論文情報
論文名 Wafer-scale integration of GaAs/AlGaAs core-shell nanowires on silicon by the single process of self-catalyzed molecular beam epitaxy(自己触媒分子線エピタキシー単一プロセスによるGaAs/AlGaAsコア-シェルナノワイヤのシリコン基板上全面集積)
著者名 峰久恵輔1,2, 村上 諒3, 橋本英季1,2, 中間海音1,2, 坂口健大3, 堤 陸郎3, 谷川武瑠3, 行宗詳規3, 長島一樹4,柳田 剛4, 佐藤紫乃2, 樋浦諭志2, 村山明宏2, 石川史太郎1(1北海道大学量子集積エレクトロニクス研究センター、2北海道大学大学院情報科学研究院、3愛媛大学大学院理工学研究科、4東京大学大学院工学系研究科)
雑誌名 Nanoscale Advances(ナノ材料学の専門誌)
DOI 10.1039/D2NA00848C
公表日 2023年2月3日(金)(オンライン公開)

【用語解説】
*1 エピタキシャル成長 … 結晶の構成原子が下地の配列を引き継いで積みあがり大きく形成されていくこと。
*2 分子線エピタキシー法 … 宇宙空間程度の超高真空中で結晶の構成元素の金属を内部で加熱して直進性の高い蒸気として照射し結晶をエピタキシャル成長させる手法。
*3 結晶成長 … 結晶の元となる種結晶や結晶基板を元にしてその結晶を増大させていくこと。

Nanoscale Advances:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2023/NA/D2NA00848C

0402電気応用
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