逆回転する円盤の混合系が乱流を引き起こし相分離するしくみを解明

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2021-01-05 東京大学

○発表者:
ヒリシケシュ バドラ (インド工科大学 マドラス校 博士課程学生(研究当時:東京大学 工学系研究科 特別聴講学生))
高江 恭平      (東京大学 生産技術研究所 特任講師)
マニ イタヤラヤ   (インド工科大学 マドラス校 教授)
田中 肇       (研究開始当時:東京大学 生産技術研究所 教授/現在:東京大学名誉教授・東京大学 先端科学技術研究センター シニアプログラムアドバイザー(特任研究員))

○発表のポイント:
◆回転する粒子(自己駆動粒子)の集団は、流体の中で様々な動的な状態をとるが、そのメカニズムは謎に包まれていた。
◆時計回りと反時計回りの2種類の回転円盤を2次元の液体中で混ぜて放置すると、流れを介した相互作用のみで、両者がほぼ完全に相分離することを発見した。さらに、一般的な相分離とは異なり、大きな相分離構造が、ランダムに混ざった乱流(注1)状態から突然形成されることを明らかにした。
◆生物をはじめとする自己駆動粒子が、流れによりどのように自己組織化(注2)するかという基本的な問題の解明につながると期待される。

○発表概要:
「自己組織化」とは複雑な構造やシステムが自発的に組み上がる現象を指します。この現象の一種に、例えば、水流の中を泳ぐ魚の群れが全体として特定の形を形成するように、流体中で動いている粒子が複雑な構造やシステムを自発的に作る場合があり、これらは自然界や生体内でも見られるため、近年注目を浴びています。しかし、流体中を動いている粒子の自己組織化については、流れを介した相互作用の複雑性のため、どのような機序によってこの現象が起きるのかはわかっていませんでした。
そこで、インド工科大学 マドラス校のヒリシケシュ バドラ 博士課程学生(研究当時:東京大学 工学系研究科 特別聴講学生)、東京大学 生産技術研究所の高江 恭平 特任講師、インド工科大学・マドラス校 マニ イタヤラヤ 教授、東京大学 田中 肇 名誉教授(現在:先端科学技術研究センター シニアプログラムアドバイザー)の研究グループは、2次元の流体中に浮かんだ、時計回り、反時計回りに回転する円盤を混合した系での相分離を、流れの効果を正しく取り入れた流体力学シミュレーションによって研究しました。2種類の円盤の数が同程度のときは、互いに反対方向に流れる帯状構造が、また両者の数が大きく異なるときには、無秩序な相の中に回転するドロップレットが形成されることが明らかになりました(図1参照)。
一般に、相分離は、サラダドレッシングで見られるように、小さな相分離構造が徐々に大きくなるという粗大化と呼ばれる過程を経ます。しかし、このような常識に反し、粗大化過程を経ることなく、無秩序な乱流状態から直接最大の構造を形成することを発見しました。同じような回転粒子混合系でも液体がない乾いた系においては、やはり粗大化を伴う相分離が観察されます。したがって、この異常な振る舞いは、液体の存在に起因しているはずです。詳細な研究の結果、この特異な相分離挙動は、2次元液体の乱流に特徴的な小さなスケールから大きなスケールにエネルギーが輸送される逆カスケード(注3)現象に起因することが明らかになりました。この発見は、乱流領域における流れの自己組織化に伴う、自己駆動粒子群の自発的な構造形成の新しいメカニズムを明らかにしたものと言えます。
本研究成果は、2022年12月27日(英国時間)に「Communications Physics」に掲載されました。

○発表内容:
「自己組織化」とは複雑な構造やシステムが自発的に組み上がる現象を指します。この現象の一種に、例えば、水流の中を泳ぐ魚の群れが全体として特定の形を形成するように、流体中で動いている粒子が複雑な構造やシステムを自発的に作る場合があり、これらは自然界や生体内でも見られるため、近年注目を浴びています。しかし、流体中を動いている粒子の自己組織化については、流れを介した相互作用の複雑性のため、どのような機序によってこの現象が起きるのかはわかっていませんでした。
そこで、本研究グループは、粒子の回転運動により生じた流体の渦を介した動的な相互作用に着目して、時計回りと反時計回りの2種類の回転円盤を2次元の液体の中で混ぜた系の自己組織化現象について、同グループが独自に開発してきた、流体中の粒子運動を正しくシミュレーションすることを可能にする「流体粒子ダイナミクス(FPD)法(注4)」を用いて研究を行いました。
その結果、2次元の流体中の時計回り、反時計回りに回転する円盤の混合系は、粒子間に働く渦を介した流れの相互作用のみによって、同じタイプの円盤が集まることで相分離現象を示すことが明らかになりました。片方の成分が他方の成分より少ない場合には、少ない方の円盤を含む回転する液滴がまず一時的に形成され、その後、円盤間の流体を吐き出すことで、回転する結晶粒からなるドロップレットに変化することがわかりました(図1左図参照)。一方、両成分の量が同程度の場合は、反対方向に流れる2本の帯状の相分離構造が形成されます。また、この反対向きに流れる帯の間には、渦が形成されることが明らかになりました(図1右図参照)。どちらの場合も、サラダドレッシングなどの相分離で見られるような、徐々に相分離構造が粗大化する過程が見られず、混合された初期の均一状態から乱流状態を経て、大きな相分離構造が直接形成されることが明らかになりました。
このユニークな相分離挙動、すなわち相分離構造の粗大化の欠如は、2次元乱流特有の小さなスケールから大きなスケールに運動エネルギーが輸送されるという逆カスケード現象に起因することが明らかにされました。このメカニズムこそが、ここで見られた特異な相分離挙動を、通常の相分離とは本質的に異なるものにしている原因です。また、流体の流れは、遠方にも影響を与えるため、多くの粒子の間に動的な相互作用が生まれること、さらには、野球のカーブのメカニズムとして知られている、回転する円盤にその進行方向に垂直にマグナス力(注5)と呼ばれる非線形な力が働くため、同じ方向に回転する多数の粒子の間には反発的な力が働くなど、回転する円盤の流体中の集団運動は極めて複雑になることも明らかになりました。本研究は、生物などの自己駆動粒子が、非線形性を伴う流れのもとで、どのようにして自己組織化するのかという問題に、新たな光を当てると期待されます。
本研究は、日本学術振興会 特別推進研究(JP20H05619)、基盤研究(A)(JP18H03675)、東京大学とインド工科大学との協定に基づく交換留学プログラムの支援を受けて実施されました。

○発表雑誌:
雑誌名     :「Communications Physics」(2022年12月27日)
論文タイトル  :Phase separation of rotor mixtures without domain coarsening driven by two-dimensional turbulenc
著者      :Bhadra Hrishikesh, Kyohei Takae, Ethayaraja Mani, and Hajime Tanaka*
DOI 番号    :10.1038/s42005-022-01116-6

○問い合わせ先:
東京大学名誉教授
東京大学 先端科学技術研究センター シニアプログラムアドバイザー(特任研究員)
田中 肇(たなか はじめ)

○用語解説:
(注1)乱流
流体の速度や圧力などが不規則に変動する流れのことを乱流と呼ぶ。

(注2)自己組織化
ランダムな状態にある構成要素が、構成要素間に働く相互作用により自発的になんらかの秩序構造を形成する現象のことを呼ぶ。

(注3)逆カスケード
小さい渦が持っていたエネルギーが渦の合体によって、大きな渦のエネルギーになるという、3次元系で見られるのとは逆向きのエネルギーの移動のことを指す。

(注4)流体粒子ダイナミクス(FPD)法
Fluid Particle Dynamics(流体粒子動力学)法と呼ばれる手法のことで、コロイド粒子の運動と溶媒の流動を数値シミュレーションに取り込むことで、コロイド粒子の運動によりどのような流れが生ずるかを効率的に計算する方法。

(注5)マグナス力
回転する円柱または球(2次元の場合は円盤)が一様な流れの中に置かれたときに、その流れの方向に対して垂直の方向に働く力をマグナス力と呼ぶ。

○添付資料:
逆回転する円盤の混合系が乱流を引き起こし相分離するしくみを解明
図1 時計回り、反時計回りに回転する円盤の混合系で見られた最終的な相分離構造。色が赤くなるほど流体の流れが強い。また、矢印は流れの速度ベクトルを表している。左図は、回転の向きの異なる粒子の数に差がある場合で、少数の相が回転するドロップレットを形成する。右図は、2種類の円盤の数が同じときに見られる帯状の相分離構造。

0106流体工学
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