2022-07-24 JAXA
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2022年7月24日(日)に、「極超音速飛行に向けた、流体・燃焼の基盤的研究」の一環として、観測ロケットS-520-RD1を内之浦宇宙空間観測所から打ち上げました。
ロケットは正常に飛翔し、内之浦南東海上に落下しました。
ロケット飛翔結果
ロケット機種・号機 | 打上げ時刻 (日本標準時) |
発射上下角 | 最高到達高度 | 着水時刻 |
---|---|---|---|---|
S-520-RD1 | 5時00分00秒 | 78.0度 | 168km(打上げ206秒後) | 打上げ412秒後 |
これをもちまして、観測ロケットS-520-RD1実験は終了となります。
今回の観測ロケットS-520-RD1打上げ実施にご協力頂きました関係各方面に、深甚の謝意を表します。
関連リンク
観測ロケット S-520-RD1による 超音速燃焼飛行試験
極超音速機の研究
JAXAでは、極超音速(音速の5~6倍以上の速度)でも使用可能な空気吸い込みエンジン(スクラムジェットエンジン:ロケットエンジンが搭載した酸素と燃料を燃焼させるのに対し、大気中の酸素と搭載した燃料を燃焼させるもの)の研究を実施しています。
空気吸い込みエンジンは、搭載不要となった酸素の代わりにより多くの貨物を搭載できることから、将来の宇宙往還機や大陸間高速輸送機への適用が期待されています。
空気吸い込みエンジン搭載機の一例
ラムジェットエンジン試験設備(左)とエンジン(破線内)の様子
空気吸い込み式エンジン模式図
飛行試験の目的
空気吸い込みエンジンの地上の風洞試験では、①複雑な流路により生じる気流の乱れ強さの違いと②気流加温に伴う異ガスの混入、により実飛行との間で空力加熱やエンジンの特性に差異が生じます(図1)。このため、JAXAは空気吸い込みエンジンについて、地上での風洞試験結果を補正して実飛行状態における特性を予測する解析ツールを構築することを目標とする研究を実施しています。
本飛行試験は、実飛行で燃焼データ等を取得し解析ツールの評価を行うために実施します。
解析ツールを構築できると、空気吸い込みエンジンを搭載する将来の飛翔体実現に必要となる飛行試験回数を減らすことができ、開発コストを低減できます。本飛行試験によって、風洞試験結果に加えて実飛行中のデータを取得し、解析ツールの検証を行うことが目的です。
図1 地上の風洞試験設備での乱れと異ガス混入の例
装置概要
S-520-RD1号機は、観測ロケットS-520の1段部分と飛行試験用の供試体で構成され、全長約9.15m、直径約0.52m、全備質量約2.6トンです(図2)。
図2 S-520-RD1号機
飛行試験用の供試体は長さ約1.8m、直径約0.52m、質量は約300kgです。供試体内部の空気吸い込みエンジン内に空気を取り込むとともに、点火用の水素と燃料のエチレンをエンジン内に噴射して燃焼させ、データを取得します。
飛行試験の内容
観測ロケットS-520の1段モータによって打ち上げられた供試体は、1段モータから分離した後にラムライン制御部を用いて姿勢を変更し、供試体前方を進行方向として降下します。供試体は降下中に極超音速(マッハ数約5.5)に達し、エンジン外部に生じる空力加熱と、エンジン内部の超音速燃焼※に関するデータの取得を行います(図3)。取得したデータは電波によって地上局へ送信されます。
※極超音速で飛行すると、入口部の気流は極超音速ですが、それを空気吸込口で減速して圧力(燃焼圧力)を高めます。
減速するものの、燃焼する部分での気流のマッハ数は1を超えるため「超音速燃焼」と呼んでいます。
図3 S-520-RD1号機の飛行試験の内容
付記
本研究は、防衛装備庁安全保障技術研究推進制度にて平成29年度に採択された委託研究「極超音速飛行に向けた、流体・燃焼の基盤的研究」を受けたものです。