航空機燃料電池向け世界最高レベルの大容量水素再循環装置の実証に成功 ~電動水素ターボブロアの小型化および高耐久性を実現~

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2023-11-13 IHI技術情報

IHIは,世界最高レベルの水素循環量を実現する大容量再循環装置となる電動水素ターボブロアを開発し,このたび,実証運転に成功しました。本装置は航空機燃料電池向けに使用することを目指して開発したもので,独自開発のガス軸受(※1)超高速モータを採用することで,大容量化を達成しました。
本件は,IHIが,秋田大学(学長:山本文雄氏)および秋田県の航空機機体製造装置メーカーである株式会社三栄機械(代表取締役社長:佐藤淳氏)と連携して取り組み,実現したものです。
今回開発した電動水素ターボブロア(図1)は,燃料電池発電時に未反応のまま排出される水蒸気を含む大量の水素(水素供給側の排出ガス)を回収し,燃料極(負極,アノード)に再循環する装置です。
本開発には,航空機燃料電池向けとして大量の水素ガスを回収するために,独自開発のガス軸受を用いた超高速モータ(図2)を採用しています。これにより,再循環装置の大容量(高効率)化かつ小型化,軽量化を実現しました。ガス軸受は,潤滑油を使用しないため,潤滑油で水素を汚染することがありません。
さらに,本装置は水素雰囲気中で使用するための密閉構造化や,大容量化に必要なモータ排熱性能の向上(熱によるモータへのダメージを低減)を行っています。航空機燃料電池として必要となる電力出力400kWを超える大型の燃料電池の水素再循環は,従来の小容積型ブロアでは複数台並列で運転せざるを得ませんでしたが,本装置であれば1台で実現することができるようになります。

図1 燃料極用大容量水素ターボブロア試験風景
図1 燃料極用大容量水素ターボブロア試験風景

図2 水素ターボブロア用超高速モータ(概念図)
図2 水素ターボブロア用超高速モータ(概念図)

完成した試作品について,そうまIHIグリーンエネルギーセンター(※2)および秋田大学の電動化システム共同研究センター(※3)にて特性評価を行いました。その結果,燃料電池燃料極排気ガスの水素ガス環境や,水蒸気を含んだ高湿潤環境で,これまで難しいとされていた必要性能が得られることを確認しました。この成果は,航空機にとどまらず,今後,大出力化が期待される燃料電池モビリティにおいて,船舶や大型トラックなどの開発にも貢献します。
IHIは,引き続き航空機の電動化に向けた電動ハイブリッド推進システムの開発に取り組み,水素再循環装置に対しては,2024年中には燃料電池システムに乗せ検証を行うことを目標に開発を進めていきます。同じく開発を進めている航空機推進用大出力電動モータ(※4),燃料電池の空気供給を担う電動ターボコンプレッサ(※5)や高磁束プラスチック磁石ロータ(※6)と組み合わせ,2030年代の水素航空機の実用化に貢献します。さらに,2020年2月に開発したエンジン内蔵型発電機(※7)と組み合わせ,燃料電池電動ハイブリッドジェットエンジンから航空機システム全体の電動化・最適化にも取り組んでいきます。


※1 ガス軸受
回転軸が高速回転するときに、自ら周囲のガスを引き込んでガス膜を形成し回転体を自立浮上させる動圧式の軸受。回転軸が非接触であることから,軸受けの高耐久化を可能とする。

※2 そうまIHIグリーンエネルギーセンター(SIGC,所在地:福島県相馬市)
持続性のある地産地消型スマートコミュニティ事業により「水素を活用したCO₂フリーの循環型地域社会創り」を実践。2020年に開所した「そうまラボ」では,水素利用の先進技術開発拠点として,太陽光発電電力(出力1,600kW)の余剰電力で製造した水素を使用し,将来の水素社会を見据えた水素利用・エネルギーキャリア転換技術研究・実証試験等、水素を用いた試験拠点としての役割も担う。
https://www.ihi.co.jp/all_news/2020/other/1196903_1611.html

※3 電動化システム共同研究センター
秋田大学が内閣府「地方大学・地域産業創生交付金」の交付事業を受け,秋田県立大学(学長:福田裕穂氏)と共同で運営する電動化システム共同研究センターを2021年4月に設置。

※4 2023年03月31日 航空機推進系大出力電動モータの試作機の開発に成功
https://www.ihi.co.jp/all_news/2022/other/1198232_3483.html

※5 2023年6月16日 軽量・小型で世界最高レベル出力の電動ターボコンプレッサを開発 ~空気軸受の独自開発により,航空機用燃料電池推進システムを実現~
https://www.ihi.co.jp/all_news/2023/technology/1199829_3546.html

※6 2023年6月15日 航空機・車載システム向け超高速モータ用高磁束プラスチック磁石ロータ(回転子)の開発に成功 ~モータの大出力化・小型化・軽量化および製造時間・コスト削減を可能に~
https://www.ihi.co.jp/all_news/2023/technology/1199830_3546.html

※7 2020年3月30日 世界初,ジェットエンジン後方に搭載可能なエンジン内蔵型電動機を開発 ~CO₂削減に向け,航空機システム全体のエネルギーマネジメント最適化を目指す~
https://www.ihi.co.jp/all_news/2019/aeroengine_space_defense/1196481_1594.html

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