2022-04-22 物質・材料研究機構
NIMSは、固体の伸び縮みに伴う温度変調現象「弾性熱量効果」を利用する加熱/冷却技術に新たな可能性を切り拓きました。
概要
- 国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)は、固体の伸び縮みに伴う温度変調現象「弾性熱量効果」を利用する加熱/冷却技術に新たな可能性を切り拓きました。本研究では、日本の伝統工芸として知られる「切り紙」から着想を得た加工を施すことで、弾性熱量効果による温度変調用途としては注目されていなかった物質でさえも局所的な加熱/冷却素子として有力な材料になり得ることを示しました。これによって、小型電子機器用の熱エネルギー利用技術やフレキシブルな温度変調素子などへの応用展開が期待されます。
- 温度制御は私たちの生活に欠かせない重要な技術の一つです。現在、環境負荷が大きいフロン類ガスを用いる冷却技術に替わる固体型温度制御技術の候補原理として、弾性熱量効果が注目を集めており、高効率な温度変調を実現する物質探索が精力的に行われています。弾性熱量効果を示す物質は数多く存在しますが、有力な候補は形状記憶合金などに限られていました。
- 今回、研究チームが提案・実証したのは、弾性熱量効果による吸発熱を、板材の「切り紙」加工で制御するという手法です。切り紙加工によって、非常に小さな引張応力で任意の場所に大きな内部応力を集中的に発生させることが可能になります。その結果として、これまで弾性熱量効果の温度変調材料としては全く着目されていなかった身近なプラスチック材料の局所加熱/冷却能を大幅に向上できることを実証し、その値は従来最高性能の弾性熱量効果を示していた形状記憶合金をも凌ぐことを明らかにしました。
- 切り紙加工は、プラスチックに限らず様々な物質に人工的に伸縮性やフレキシビリティを与えられ、その加工パターンは多彩です。今後、弾性熱量効果による温度変調に最適な加工パターンや物質の選定を進めることで、電子機器に対する温度制御技術や曲面などにも取り付け可能なフレキシブルな温度変調素子開発への展開を目指していきます。
- 本研究は、NIMS 磁性・スピントロニクス材料研究拠点 スピンエネルギーグループの平井孝昌 研究員、内田健一 グループリーダーらによって行われました。また本研究の一部は、JST戦略的創造研究推進事業CREST (JPMJCR17I1)、キヤノン財団研究助成プログラム「産業基盤の創生」の支援を受けて実施されました。
- 本研究成果は、日本時間2022年4月19日に、ドイツ国際科学誌「Advanced Functional Materials」にオンライン掲載されました。
プレスリリース中の図 : (a) 弾性熱量効果による温度変調. (b) 切り紙加工で作成した温度変調素子
掲載論文
題目 : Elastocaloric Kirigami Temperature Modulator
著者 : Takamasa Hirai, Ryo Iguchi, Asuka Miura, Ken-ichi Uchida
雑誌 : Advanced Functional Materials
掲載日時 : 日本時間2022年4月19日
DOI : 10.1002/adfm.202201116