2022-02-09 京都大学
高強度アルミニウム合金は、航空・宇宙分野や、新幹線、スポーツ用品などに広く使われてはいるものの、水素脆化や応力腐食割れと呼ばれる、水素が関係する破壊現象のため、そのさらなる高性能化が阻まれていました。
材料工学専攻の平山 恭介 助教は、戸田 裕之 九州大学主幹教授、王亜飛 同特任助教、岩手大学、高輝度光科学研究センターと共同で、大型放射光施設SPring-8でのX線CTを利用した4D観察を活用し、高強度アルミニウム合金にある種の粒子を生成させることで、水素脆化を有効に防止できることを見出しました。
研究グループは、これまで高強度アルミニウム合金の破壊過程を4D観察し、得られた画像を詳細に解析してきました。これにより、金属材料中の水素の分布を精密に求め、高強度アルミニウム合金の水素脆化のメカニズムを解明しました。
これに基づき、水素脆化防止のためには、水素脆化をもたらすナノ粒子よりも水素を引き付け易いミクロ粒子から成る「水素脆化防止剤」をアルミニウム中に作り、ナノ粒子に水素が行かないようにすれば良いと発想しました。しかし、水素を蓄えたミクロ粒子そのものが水素脆化を起こし、アルミニウムの強度がかえって低下してしまう懸念がありました。そこで研究グループは、大型放射光施設SPring-8での4D観察を行い、ミクロ粒子の水素脆化は生じず、ミクロ粒子による水素脆化防止が有効に機能することを明らかにしました。
この手法は、アルミニウム合金の高強度化・高延性化をもたらすものとして工業的に利用できるようになると期待できます。ミクロ粒子は、アルミニウム、鉄、銅という3元素から成ります。アルミニウムのリサイクル時には、一緒にリサイクルされた鉄などが混入し、これらの元素の濃度が上昇してアルミニウムの特性が低下する事が問題となっています。提案する手法は、リサイクル時の鉄濃度上昇というマイナスの効果を、水素脆化防止というプラスの効果に転じることができる可能性もあります。
本研究成果は、2022年2月9日に、国際学会誌『Acta Materialia』のオンライン版に掲載されました。
図 ミクロ粒子の破壊の高分解能4D観察
研究者情報
平山恭介
論文情報
【タイトル】
In-situ 3D observation of hydrogen-assisted particle damage behavior in 7075 Al alloy by synchrotron X-ray tomographySPring-8
【著者】
Yafei Wang, Hiroyuki Toda, Yuantao Xu, Kazuyuki Shimizu, Kyosuke Hirayama, Hiro Fujihara, Akihisa Takeuchi, and Masayuki Uesugi
【掲載誌】Acta Materialia
【DOI】https://doi.org/10.1016/j.actamat.2022.117658