金属錯体からの電子供与が金属酸化物クラスターの潜在的な触媒機能を引き出した!

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協奏的な酸素生成触媒機能の発見

2022-01-19 東京大学

発表者

下山 雄人(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 博士課程3年生)
荻原 直希(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 助教)
翁 哲偉(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 博士課程3年生)
内田 さやか(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 准教授)

発表のポイント

  • 水素を主要なエネルギー源とする水素社会の実現に向け、水電解における酸素生成反応(注1)を促進する、金属酸化物クラスターと金属錯体から成る結晶性材料を開発した。
  • 結晶性材料での金属錯体から金属酸化物クラスターへの電子供与が、酸素生成反応における協奏的な触媒機能の発現の鍵となることを解明した。
  • 高効率性・高耐久性・低コストな貴金属フリーの触媒(注2)材料の開発により、水電解などの水素エネルギー変換システムへの応用が期待される。

発表概要

地球上に豊富に存在する水の電気分解(水電解)により水素を製造する技術の確立は、水素社会の実現において急務な課題となっています。現在、この技術のボトルネックとなっているのが酸素生成反応であり、この反応を促進させる触媒材料の開発が盛んに行われています。これまでに、ルテニウムやイリジウム等の貴金属が高効率で酸素生成反応を促進することが報告されていますが、持続可能性・低コスト化の観点から貴金属フリーな触媒材料の探索が進められています。しかし、貴金属を用いずに、酸素生成反応の高効率性・高耐久性を兼ね備えた触媒材料を合成するのは未だに困難であり、新たな設計指針を提案する必要があります。
東京大学大学院総合文化研究科 内田さやか准教授らの研究グループは、新たな触媒材料の構成ブロックとして、金属酸化物クラスター(ポリオキソメタレート、図1)(注3)に着目しました。ポリオキソメタレートは、その構造内部にコバルト(注4)を導入すると、酸素生成反応における触媒機能を示すことが報告されています。しかしながら、その反応効率は低水準であるという課題がありました。本研究では、このコバルトを含むポリオキソメタレートを金属錯体と複合化することで、ナノ細孔(注5)を有する多孔性イオン結晶(注6)を構築しました(図1)。得られたイオン結晶は複合化前のポリオキソメタレートに比べて、酸素生成反応に対する触媒活性が40倍以上に向上することを見出しました。また、金属錯体からポリオキソメタレートへの電子供与が、触媒機能の向上の鍵となることを突き止めました。この研究成果は、ポリオキソメタレートを金属錯体と複合化することで、ポリオキソメタレートが有する触媒機能が格段に向上することを示しており、今後、様々なポリオキソメタレートと金属錯体との組み合わせにより、革新的な触媒材料の創製が期待されます。
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP20J14672, JP21K14639, JP20H02750, JP21K18975)の一環として行われました。

図1.(左図)多孔性イオン結晶の合成スキーム。ポリオキソメタレートと金属錯体を水中で反応させるだけで簡単に多孔性イオン結晶が得られる。(右図)酸素生成反応における触媒活性の比較。多孔性イオン結晶は複合化前のポリオキソメタレートと比べて、高い触媒活性を示す。金属錯体からポリオキソメタレートへの電子供与によって、ポリオキソメタレートの潜在的な触媒機能が引き出されることが、各種分光学測定により解明された。

発表内容

研究背景

近年、環境・エネルギー問題の解決する方策として、水素をエネルギー源とする水素社会への移行が注目を集めています。なかでも地球上に豊富に存在する水の電気分解(水電解)により水素を製造する技術の確立は、水素社会の実現において急務な課題となっています。現在、この技術のボトルネックとなっているのが、酸素生成反応です。酸素生成反応は、水から水素を製造する際に同時に起こす必要があり、この反応の効率が悪いと水素の製造効率が低下してしまいます。これまでに、ルテニウムやイリジウム等の貴金属が高効率で酸素生成反応を促進することが報告されていますが、持続可能性・低コスト化の観点から貴金属フリーな触媒材料の探索が進められています。しかし、貴金属を用いずに、酸素生成反応の高効率性・高耐久性を兼ね備えたな触媒材料を合成するのは未だに困難であり、新たな設計指針を提案する必要があります。

研究内容

本研究にて、新たな触媒材料の構成ブロックとして用いたポリオキソメタレートは、その構造内部にコバルトを導入すると、酸素生成反応における触媒機能を発現することが報告されています。コバルトを含むポリオキソメタレートは優れた耐久性を有するものの、酸素生成の反応効率は低水準であるという課題があります。その酸素生成触媒機能を向上させるために、本研究ではポリオキソメタレートを含む結晶性の複合材料である多孔性イオン結晶に着目しました。多孔性イオン結晶は、負電荷を持つポリオキソメタレートと正電荷をもつ金属錯体が分子レベルで複合化した複合材料であり、協奏的な触媒機能が期待できます。実際に、コバルトを含むポリオキソメタレートと金属錯体からなる多孔性イオン結晶は、複合化前のポリオキソメタレートに比べて、40倍以上の酸素生成触媒活性を示し、複合化によって触媒活性が大幅に向上することが分かりました。更に、電気化学測定(注7)、赤外分光(注8)、X線光電子分光(注9)によって、多孔性イオン結晶の電子状態(注10)を調査した結果、多孔性イオン結晶内で金属錯体からポリオキソメタレートへの電子供与が観測されました。また、多孔性イオン結晶を構成する金属錯体の種類を換え、ポリオキソメタレートへの電子供給が起こらない組み合わせにしたところ、触媒機能の向上は確認されませんでした。これにより、金属錯体からポリオキソメタレートへの電子供与が、イオン結晶における触媒機能の飛躍的な向上の起源であることが明らかになりました。

今後の予定

ポリオキソメタレートと金属錯体の適切な設計・組み合わせにより、電子移動の方向や量を精密に制御することで、高効率的な酸素生成反応を実現する革新的な触媒材料の創製が期待されます。

用語解説

(注1)酸素生成反応
水分子を水素イオン(*)、電子、酸素分子に分解する反応(反応式:2H2O → O2 + 4H+ + 4e–)。
(*)イオン:電子を受け取るもしくは失った状態の原子を指す。電子を受け取って、負の電荷を帯びた状態を陰イオン、電子を失って正の電荷を帯びた状態を陽イオンという。

(注2)触媒
化学反応においてそのもの自身は反応前後で変化しないが、反応速度を変化させる物質。

(注3)ポリオキソメタレート
金属酸化物の分子状のイオン種であり、英語で polyoxometalate(ポリオキソメタレート)と呼ばれ、一般に負電荷を有する陰イオンである。

(注4)コバルト
元素記号Coで表され、原子番号は27である。卑金属に分類される。

(注5)ナノ細孔
ナノサイズの細孔。長さの単位で1ナノメートルは10億分の1メートル。

(注6)多孔性イオン結晶
陽イオンと陰イオンとの静電相互作用により構築される結晶の中でも、特に内部にナノサイズの空間を有する材料。ここで、静電相互作用とは一般に化学では正電荷を持つ陽イオンと負電荷をもつ陰イオンとの間に働く引力に基づく相互作用をさす。

(注7)電気化学測定
測定対象の物質に、電気的な信号を印可して電気化学反応を誘起させ、その応答を測定することで、物質の電子状態や電気化学的な触媒活性などの情報が得られる。

(注8)赤外分光
測定対象の物質に赤外線を照射して得られる透過光を分光してスペクトルを得る手法であり、対象とする分子の構造や状態に関する情報が得られる。

(注9)X線光電子分光
測定対象の物質にX線を照射すると、物質の表面から電子が励起される。この電子の運動エネルギーを測定することで、物質を構成する原子の電子状態に関する情報が得られる。

(注10)電子状態
物質(原子、分子なども含む)における電子の状態のこと。物質の性質を決定づける指標となる。

論文情報

Yuto Shimoyama, Naoki Ogiwara, Zhewei Weng, Sayaka Uchida*, “Oxygen Evolution Reaction Driven by Charge-Transfer from Cr-Complex to Co-Containing Polyoxometalate in a Porous Ionic Crystal,” Journal of American Chemical Society: 2022年1月18日, doi:10.1021/jacs.1c10471.
論文へのリンク (掲載誌)

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