溶けにくい空気中の匂い物質の高速溶解に成功

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環境中に漂う匂い物質が検出可能な匂いバイオセンサの実現

2020-10-15 東京大学先端科学技術研究センター

東京大学先端科学技術研究センターの照月大悟特任助教、光野秀文特任准教授、神崎亮平教授と、静岡大学の佐藤浩平助教、間瀬暢之教授、及び東京農業大学の櫻井健志准教授らの研究グループは、超音波スプレーノズルを用いた微細ミスト噴霧によって気液界面を増大させることで、気体状の匂い物質を高速・高効率に水中へ溶解する技術を開発しました。

環境中に漂う揮発性有機化合物(Volatile Organic Compound; VOC)を簡便に分析する技術への関心が高まっています。東京大学先端科学技術研究センター神崎研究室では、匂い物質を高感度・高選択的に検出可能な匂いセンサ素子(センサ細胞)の構築を展開してきました。センサ細胞は、細胞と細胞に発現した昆虫嗅覚受容体を維持、機能させるために水溶液中に配置する必要があります。しかし、匂い物質の多くは難水溶性有機化合物に属するため、センサ細胞は気体状の匂い物質を直接検出できないという課題がありました。

本研究では、超音波スプレーノズル(アトマイザー)を用いて微細ミストを噴霧することで気液界面を増大し、気体状の匂い物質を高速・高効率に水中に溶解する手法を開発しました。アトマイザーによるミスト噴霧では、高密度のファインバブル(直径100 µm未満の気泡)を生成するため、バブル内部が高圧であることにより匂い物質の溶解力向上に寄与します。フラスコ内で単体の匂い物質、または官能基の異なる匂い物質を混合臭として揮発させた後に、アトマイザーによるミスト噴霧を1分間行うことで、各種匂い物質を蒸留水中に溶解しました。また、水中に溶解した混合臭を用いてセンサ細胞のカルシウムイメージングを行うことで、混合臭に含まれる特定のターゲット臭を検出できることを示しました。さらに、構築した溶解技術に基づいて、小型ファンを備えたポータブル匂い捕集・溶解装置プロトタイプを開発しました。

これらの結果から、センサ細胞の検出範囲を気体状の匂い物質に拡大することが可能となり、プロトタイプを構築したことで、実環境中で利用可能な匂いバイオセンサシステムの構築が期待されます。

この成果は、東京大学GAPファンドプログラムと、生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」の支援を受けて行われました。

「環境中の匂い物質検出は医療分野や安心安全分野など様々な応用が期待されますが、微細ミスト噴霧による溶解手法によって、これまで困難だった難水溶性の気体状匂い物質の溶解を簡便に行うことが可能となりました」と照月特任助教は話します。「本研究は、センサ細胞の検出範囲を気体状の匂い物質に拡大し、細胞/受容体ベースの匂いバイオセンサ技術に対するブレークスルー技術となることが期待されます」と続けます。

微細ミスト噴霧による気体状匂い物質の溶解手法とポータブル匂い捕集・溶解装置プロトタイプの模式図
超音波スプレーノズルによって気液界面を増大させることで、難水溶性の気体状匂い物質の水中への高速溶解を可能としました。小型ファンによって環境中から気体状匂い物質を捕集して溶解するポータブル匂い捕集・溶解装置プロトタイプを構築しました。
© 2020 照月 大悟

論文情報

Daigo Terutsuki, Hidefumi Mitsuno, Kohei Sato, Takeshi Sakurai, Nobuyuki Mase, Ryohei Kanzaki, “Highly effective volatile organic compound dissolving strategy based on mist atomization for odorant biosensors ,” Analytica Chimica Acta: 2020年9月28日, doi:10.1016/j.aca.2020.09.043.
論文へのリンク (掲載誌)

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