世界最小電圧の乾電池1本で発光する有機ELを開発

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2022-01-07 分子科学研究所

発表のポイント

世界最小電圧の乾電池1本で発光する有機ELを開発

  • 世界最小電圧の乾電池1本分の起電力でディスプレイ並みの明るさで発光できる有機ELの開発に成功した。
  • 発光プロセスを担う有機分子同士の界面での相互作用をコントロールし、また蛍光色素をドーピングすることで、従来の類似構造のデバイスに比べ約70倍発光効率を向上させ、低電圧での高い発光輝度を実現した。
  • この新技術を用いれば、市販の有機ELを駆動させる電圧を大幅に低減でき、省エネルギー化につながる可能性がある。
概要

分子科学研究所の伊澤誠一郎助教、平本昌宏教授、富山大学の森本勝大准教授、中茂樹教授の研究グループは、乾電池1本をつなげるだけでディスプレイ並みの明るさで発光できる世界最小電圧で駆動する有機ELの開発に成功しました。

有機ELは高画質であることから、スマートフォンや大画面テレビなどで既に市販されていますが、その駆動電圧が高いことが省エネルギー化への課題とされています。今回、研究グループは、発光を担う二種類の有機半導体材料の界面でのアップコンバージョン(1)という過程を用い、その効率を向上させることで、乾電池1本分の電圧でディスプレイ並みの明るさで発光できる世界最小電圧で駆動する有機ELの開発に成功しました。開発した有機EL素子は、オレンジ色の光が、その光のエネルギーよりもはるかに小さな電圧である1 V以下から発光を開始します。さらに界面での有機分子同士の相互作用の制御により失活を抑制し、また蛍光色素のドープにより発光を促進させたことで、従来報告されているアップコンバージョンを利用したデバイスに比べ約70倍高い発光効率を実現しました。その結果、低電圧化と高い発光効率を両立でき、一般的な有機EL素子を駆動させるための起電力の1/3程度である乾電池1本をつなげるだけで、ディスプレイ程度の発光輝度である100 cd/m2以上の明るさで発光できる世界最小電圧で駆動する有機EL素子の開発に成功しました。今回の成果により、市販の有機ELの駆動電圧を大幅に低減でき、省エネルギー化の実現につながる可能性があります。

本研究は、科学研究費助成事業(若手研究、基盤研究(C)、学術変革領域研究(A))、戦略的創造研究推進事業(さきがけ)、ナノテクノロジープラットフォームプログラム、マツダ財団研究助成、花王芸術・科学財団研究助成、およびコニカミノルタ科学技術振興財団研究助成の一環として行われ、Wiley-VCHが出版する国際学術誌『Advanced Optical Materials』の1月6日付(日本時間・オンライン版)に掲載されました。

研究の背景

有機ELは高画質な映像を映し出せることから、スマートフォンや大画面テレビなどに使われ既に市販されています。さらに面発光光源であり、またフレキシブル薄膜上への製膜も容易であるため、次世代照明としても期待されています。

有機ELの発光効率は、電荷注入によって生成した励起子を効率良く発光させるメカニズムが開発済みのため、既にその内部量子収率は100%に到達しています。一方で、多層化が必要なことや材料中の電荷の移動度が低いことなどが原因で、駆動電圧が大きいことが問題とされ、省エネルギー化への課題とされています。例えば、600 nm程度のオレンジ色の光をディスプレイ程度の発光輝度である100 cd/m2で発光させるためには、4.5 V程度の電圧(乾電池3本分)が必要です。

研究の成果

今回、研究グループは、二種類の有機半導体材料の界面でのアップコンバージョンという過程を用い、その効率を向上させることで、乾電池1本分の電圧でディスプレイ並みの明るさで発光できる世界最小電圧で駆動する有機ELの開発に成功しました。

発光プロセスは注入された電子と正孔が、電子輸送層と正孔輸送・発光層の界面で出会い再結合することから始まります。その後、再結合によって生成した二つの三重項励起状態が衝突し、一つのエネルギーの高い一重項励起状態を作り出すアップコンバージョンという過程を経て発光します(図1)。

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図1: (a) 界面でのアップコンバージョン過程を利用した有機ELの構造。
(b) 新たに開発した有機ELに用いた分子の構造。


通常の発光層を電子/正孔輸送層でサンドイッチした構造の有機EL素子では3.5 V程度から発光が開始します。一方で、今回開発したこの界面でのアップコンバージョン過程を利用した有機EL素子ではオレンジ色の608 nm (2.04エレクトロンボルト(2))の光が、その光のエネルギーよりもはるかに小さな電圧である1 V以下から発光が開始することがわかりました(図2a)。さらに電子輸送層にフラーレンの代わりに結晶性の高いペリレンジイミドを用いることで界面での有機分子同士の相互作用をコントロールし失活を抑制したこと、また発光層にペリレン蛍光体をドープすることで発光を促進させたことで、発光輝度が大幅に向上し、従来のアップコンバージョン過程を用いた有機EL素子よりも約70倍高い発光効率を実現しました。その結果、従来の1/3程度の起電力である乾電池1本をつなげるだけで、ディスプレイ程度の発光輝度である100 cd/m2以上の明るさで発光できる世界最小電圧で駆動する有機EL素子の開発に成功しました(図2b)。

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図2: (a) 有機ELデバイスの発光輝度-電圧特性。 (b) 乾電池1本で高輝度発光を実現した写真。

今後の展開・この研究の社会的意義

本研究により、有機ELを発光させる駆動電圧を従来の1/3程度まで大幅に低減することができました。今後は、アップコンバージョン過程を経た発光プロセスの変換効率をさらに向上させることで、有機ELの駆動電圧の低減と発光効率をさらに高いレベルで両立させ、市販の有機ELの消費電力を減らし省エネルギー化の実現を目指します。

用語解説

1)アップコンバージョン
二つの励起子が衝突し、一つのエネルギーの高い励起子が生成されることで光のエネルギーを上昇させるプロセス。

2)エレクトロンボルト
エネルギーの単位。1エレクトロンボルトは1つの電荷が1 Vの電圧で加速するときに得るエネルギー。一般的にはエネルギーが1エレクトロンボルトの光を発光させるためには、発光素子に1 V以上の電圧を印加することが必要である。

論文情報

掲載誌:Advanced Optical Materials

論文タイトル:“Efficient interfacial upconversion enabling bright emission at an extremely low driving voltage in organic light-emitting diodes”(界面での高効率アップコンバージョンが可能にする超低電圧で駆動する有機EL)

著者:Seiichiro Izawa, Masahiro Morimoto, Shigeki Naka, Masahiro Hiramoto

掲載日:2022年1月6日(日本時間・オンライン公開)

DOI:10.1002/adom.202101710

研究グループ

分子科学研究所、富山大学

研究サポート

科学研究費助成事業 若手研究(18K14115)、基盤研究C (19K04465)、学術変革領域研究A(21H05411)、戦略的創造研究推進事業さきがけ(JPMJPR2101)、ナノテクノロジープラットフォームプログラム(JPMXP09S21MS0029)、マツダ財団 研究助成、花王芸術・科学財団研究助成、コニカミノルタ科学技術振興財団 研究助成

研究に関するお問い合わせ先

伊澤誠一郎(いざわ せいいちろう)
分子科学研究所 物質分子科学研究領域 助教

森本勝大(もりもと まさひろ)
富山大学学術研究部工学系 准教授

報道担当

自然科学研究機構 分子科学研究所
研究力強化戦略室 広報担当

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