アルマ望遠鏡、124億年前の星形成銀河にフッ素を検出

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2021-11-15 国立天文台

私たちの骨や歯に含まれるフッ素の宇宙における生成メカニズムに迫る、新たな発見がありました。天文学者の国際チームは、アルマ望遠鏡を用いて、光が120億年以上かけて到達するほど遠方の銀河でフッ素を検出しました。このような遠方の星形成銀河でフッ素が発見されたのは、今回が初めてです。

アルマ望遠鏡、124億年前の星形成銀河にフッ素を検出

フッ素が検出された遠方銀河NGP-190387の想像図。非常に活発に星を生み出す銀河です。
Credit: ESO/M. Kornmesser


今回の研究を主導した英国ハートフォードシャー大学のマキシミリアン・フランコ氏は、「フッ素は、私たちが毎日使っている歯磨き粉にフッ化物の形で含まれているので、誰もが知っている元素です」と語ります。身の回りのほとんどの元素と同様に、フッ素も星の中で作られますが、これまで、この元素がどのようにして作られるのか、宇宙のどんな天体がその役割を果たしているのかは正確にはわかっていませんでした。

フランコ氏らの研究チームがアルマ望遠鏡を用いて遠方にある銀河NGP-190387を観測したところ、この銀河に含まれる大きなガス雲の中から、フッ化水素が放つ電波を検出しました。この銀河は、地球に電波が届くまでに124億年かかるところに位置しており、124億年前の宇宙(宇宙が現在の年齢の約10%であったころ)の様子を私たちに見せてくれています。星は寿命が尽きると中心部で形成された元素を放出すること、この銀河が宇宙誕生後14億年という早い時代にあったものであることを考え合わせると、今回の検出は、フッ素を生み出した星の寿命が短かったことを意味しています。

研究チームは、わずか数百万年しか生きられない超大質量星が年老いた状態にある「ウォルフ・ライエ星」と呼ばれるタイプの星が、フッ素の生成場所として最も可能性が高いと考えています。研究チームによれば、発見されたフッ化水素の量を説明するには、これらの星が必要だといいます。ウォルフ・ライエ星が宇宙のフッ素の供給源である可能性は以前から指摘されていましたが、初期宇宙においてウォルフ・ライエ星がフッ素の生成にどれほど重要であったかはこれまで天文学者には知られていませんでした。

「私たちは、既知の最も重い星の一つであり、寿命が尽きると激しく爆発する可能性があるウォルフ・ライエ星が、ある意味で、歯の健康維持に役立つことを示したのです」とフランコ氏は冗談めかしてコメントしています。

ウォルフ・ライエ星の想像図。太陽の30倍以上の質量をもつ巨大な星が進化した姿で、星表面からは非常に激しくガスが放出されており、高温な星の内部がむき出しになって青く輝きます。
Credit: ESO/L. Calçada


ウォルフ・ライエ星以外でフッ素が生成・放出されるシナリオは、過去にも提唱されています。例えば、太陽の数倍の質量をもつ巨大な年老いた星である「漸近巨星分枝星」の脈動などが挙げられます。しかし研究チームは、これらのシナリオは元素の放出までに数十億年かかるものもあり、NGP-190387のフッ素の量を完全には説明できないのではないかと考えています。

「この銀河では、わずか数千万年から数億年で、現在の天の川銀河の星々と同じレベルのフッ素量になったのです。これはまったく予想外の結果です。今回の測定により、20年にわたって研究されてきたフッ素の起源に、まったく新しい制約が加わりました。」と、共同研究者であるハートフォードシャー大学の小林千晶氏は語っています。

NGP-190387におけるフッ素の発見は、天の川銀河とその周辺の銀河以外でフッ素が検出された最初の例の一つです。これまでに、超巨大ブラックホールがエネルギー源となって大変明るく輝く遠方のクエーサーでフッ素が発見されたことがあります。しかし、宇宙の歴史の中でこれほど早い時期に、星を形成している銀河でこの元素が観測されたのは初めてのことです。

フッ素の検出は、宇宙と地上の観測装置を駆使した偶然の発見でした。NGP-190387は、欧州宇宙機関のハーシェル宇宙望遠鏡で発見され、その後アルマ望遠鏡で観測された天体で、非常に遠方にあるにしては明るい天体です。NGP-190387の並外れた明るさは、NGP-190387と地球の間に位置する別の大質量銀河が引き起こす重力レンズ効果によるものであることが、今回のアルマ望遠鏡による観測で明らかになりました。手前にある大質量銀河がその強大な重力によってNGP-190387が放つ電波を増幅したことで、今回のフッ素の検出が成し遂げられたのです。

今後、NGP-190387の研究が進めば、この銀河のさらなる秘密が明らかになるかもしれません。チリの欧州南天天文台フェローであるチェンタオ・ヤン氏は「アルマ望遠鏡は冷たい星間ガスや塵から放出される電波に感度があります。一方で次世代の大型光学赤外線望遠鏡を使えば、NGP-190387に含まれる星の光を観測することができ、この銀河の星の含有量に関する重要な情報を得ることができるでしょう」とコメントしています。

この記事は、欧州南天天文台が2021年11月4日に発表したプレスリリースをもとに作成しました。

論文情報

この観測結果は、M.Franco et al. “The ramp-up of interstellar medium enrichment at z > 4 “として2021年11月4日付の天文学専門誌Nature Astronomyに掲載されました。

1701物理及び化学
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