2021-11-13 国立天文台
原始惑星系円盤の姿を、アルマ望遠鏡による観測(左)と、アテルイIIによるシミュレーション(右)とで比較。右は、原始惑星系円盤を外側から内側へと惑星が移動している途中の姿であり、点線は惑星の軌道を、灰色領域はシミュレーションの計算領域外を表している。(クレジット:金川和弘、ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)) オリジナルサイズ(704KB)
スーパーコンピュータ「アテルイII」のシミュレーションから、原始惑星系円盤に見られる塵(ちり)のリング状構造が、惑星の存在だけではなく、惑星が移動した足跡でもある可能性が明らかになりました。これまでの原始惑星系円盤の観測結果に、新たな視点を与える研究成果です。
ガスや塵から成る原始惑星系円盤は、惑星が生まれる現場です。近年の高精度の観測により、その詳細な姿が明らかになってきました。特に、アルマ望遠鏡による電波観測では、塵で形成されたリング状の構造が、多くの原始惑星系円盤に見つかっています。このリング状の構造を作り出す要因の一つとして、円盤内で生まれた惑星の存在が考えられています。原始惑星系円盤の中で生まれた惑星は、周囲のガスと重力を及ぼし合い、その結果、惑星の通り道に沿ったガスや塵の密度が下がり円盤内に隙間が作られます。その隙間の外側には塵がリング状に集まることが、数値シミュレーションによって確かめられています。
また、これまでの理論研究から、惑星によって作られる隙間の構造には、「乱流」と呼ばれる円盤内でのガスの複雑な動きが重要であると考えられてきました。アルマ望遠鏡の観測からは、乱流は弱く、原始惑星系円盤内に生じているのは静かな流れであることが分かってきました。しかし、このような弱い乱流の円盤の中で惑星が生まれた時にどのようなことが起こるのか、理論的にはまだ解明されていませんでした。
この問題を解明するため、茨城大学の金川和弘(かながわ かずひろ)研究員らの研究チームは、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」を用いた高解像度のシミュレーションを行いました。そして、乱流が弱い原始惑星系円盤での、惑星と塵のリング状構造の関係を調べることに成功しました。これまで、惑星によって作られたリング状構造には、常にその惑星が付随しているものと考えられてきました。しかし今回の計算から、惑星は、生まれたときに形成されたリング状構造をその場所に「置き去り」にしたまま、中心の若い星に向かって移動する場合があることが分かりました。また惑星は、移動した先でも新たなリング状構造を作るため、原始惑星系円盤内では、移動した惑星の「始点」と「終点」で2つのリング状の構造が作られることになります。
今回のシミュレーションから、原始惑星系円盤に見られるリング状構造は、惑星が生まれた位置だけではなく、惑星が移動した歴史をも表している可能性が明らかになりました。この研究では、原始惑星系円盤の外側から内側へとダイナミックな移動を経る、惑星形成の新しいシナリオを提唱しています。
さらに興味深いことに、アルマ望遠鏡でリング状構造が見つかっている原始惑星系円盤の多くは、今回のシミュレーションが示した構造を持っていることが分かりました。今後、さらに多くのリング状構造が発見されることで、惑星の移動や進化の姿がより明らかになることが期待されます。また、超大型望遠鏡TMTや、次世代大型電波干渉計ngVLA(next generation Very Large Array)といった次世代大型望遠鏡を用いたさらなる高精度な観測が実現し、中心の若い星の近くに移動した惑星を検出することができれば、本研究が提唱する新しいシナリオの強力な裏付けになると考えられます。
アテルイIIのシミュレーションで得られた惑星の移動とともに変化する塵のリング状構造(上段)と、それに対応すると考えられるアルマ望遠鏡で観測された原始惑星系円盤(下段)。上段の点線は惑星の軌道を、灰色領域はシミュレーションの計算領域外を表している。上段は、原始惑星系円盤内の惑星が、移動開始(左)、移動中(中央)、移動終了(右)の各段階での円盤の姿を示している。(クレジット:金川和弘、ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)) オリジナルサイズ(703KB)
この研究成果は、Kazuhiro D. Kanagawa et al. “Dust rings as a footprint of planet formation in a protoplanetary disk”として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2021年11月12日に掲載されました。