星が生まれているところに直接流れ込む星の材料はどこからやって来たか?~近所の若い星なしコアからの材料の流れ込み~

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2024-04-18 国立天文台野辺山観測所

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星形成ストリーマーへ、周囲のリザーバーからガスが流れ込む様子のイメージ。(クレジット:国立天文台)

最近の観測から、星が生まれつつあるところに外部から星の原料となるガスが追加で流れ込む構造が見つかっており、 “ストリーマー”と呼ばれています。最近の研究から、太陽系の形成段階においてもストリーマーが存在していた可能性が指摘されており、その研究の重要性が認識され始めています。ストリーマーは最終的に出来上がる星や惑星の化学組成に大きく影響すると考えられることから、生命を育む惑星系環境がどのように形成されるかを調べる上でも重要です。
国立天文台、ドイツのマックス・プランク地球外物理学研究所(MPE)、大妻女子大学などのメンバーで構成された国際研究グループは、太陽と同程度の質量の星が生まれているペルセウス領域のクラス0原始星候補天体*1の1つである「Per-emb-2」に着目しました。Per-emb-2では、先行して実施されたフランスのNOEMA干渉計による観測でストリーマーがあることが発見されていましたが、「ストリーマーの元となるガスがどこから流れて来ているのか?」という、その起源については良く分かっていませんでした。そこで、研究グループでは、Per-emb-2のストリーマーに流れ込むガスを見つけて調査するため、「広い範囲の分子ガスの分布を調べる」ことを得意とする野辺山45m望遠鏡に搭載されたFORESTとZ45と名付けられた2つの受信機を用いて、4種類の炭素鎖分子*2(HC3N, HC5N, CCS, CCH)の観測を新たに行いました。この目的は、ストリーマーの起源を見つけ、ストリーマー自身とその起源の正確な質量を調べ、どれくらいの歳月に渡ってガスが流入し続けるのかを解明することです。
観測では、ストリーマーが見られる原始星の北側を広くカバーするマップを取得しました。図1は観測で得られた様々な炭素鎖分子の空間分布を示しています。その結果、ストリーマー(図中1番の塊)の周りに、2つのガスの塊(コア)があることが分かりました。さらに、電波観測で得られたスペクトルの速度解析により、3番のコアが、ストリーマー(1番のコア)に向かって流れてきていることが分かり、これがストリーマーの起源(=リザーバー)であると同定されました。このリザーバーのサイズは典型的な星なし分子雲コアに対応しています。2番のコアも今回新たに発見されましたが、Per-emb-2原始星との関係は現段階では分かっておらず、今後さらに研究を進める必要があることもわかりました。
また研究グループでは、アメリカのGreen Bank 100m望遠鏡やスペインのIRAM30m望遠鏡といった世界中の単一電波望遠鏡のデータを組み合わせ、Per-emb-2のストリーマーとリザーバーで検出されたHC3N, CCS, HC5Nの詳細な状態解析を行い、ストリーマーとリザーバーの物理環境(温度・密度)と化学環境(分子の存在量)を導出しました。その結果、リザーバーの物理環境は、星が生まれる前の星なし分子雲コアに類似していることがわかりました。さらに、観測で得られた分子種のうちCCSとHC3Nの存在量比と、化学反応ネットワークシミュレーションの結果を比較すると、リザーバーとストリーマーが化学的に非常に若い組成を持ち、どちらも同程度の化学的年齢であることが分かりました。このことは、今回同定したコアがストリーマーの材料となっていることの証拠でもあります。
観測とシミュレーションの結果を用いることで、リザーバーとストリーマーの正確な質量を導出したところ、それぞれ約16 M⊙ (M⊙:太陽の質量、1 M⊙は約1.989×1030 kg) 、13 M⊙と計算されました。したがって、ストリーマーとして流れ込むことができるガスの質量は最大で約29 M⊙となります。さらに、ストリーマーによる質量降着率は1年あたり約9×10-5 M⊙と導出されました。流れ込むガスの速度と全体のガスの量がわかると、ストリーマーの寿命が計算できます。仮に、リザーバーにあるガスが全てPer-emb-2原始星に流れ込むと仮定すると、20万年はストリーマーによるガスの流入が続くと見積もられ、これはクラスI原始星*3段階が終わる頃に対応します。この結果は、濃いガスの中で星が成長する長い時間も、“化学的にフレッシュなガス”が外部から流れ込み続け、絶えず化学的特徴を変え続けることができることを意味しています。つまり、惑星系の化学的環境は、星の誕生が始まる最初の段階で決まっているのではなく、星の成長が止まるギリギリまで変わり続けるということです。地球に生命が誕生したのは、最初から運命的に決まっていたのではなく、偶然の結果なのかもしれません。
今後は、南米チリにあるALMAを使って、ガスが流れ込んでいる場所で化学組成が変えられている現場を捉えたいと考えています。

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図1. 様々な炭素鎖分子の空間分布。マゼンダのクロスはPer-emb-2原始星の位置、各パネルの左上にある白い丸は野辺山45m望遠鏡のビームサイズを示す。
上段:FORESTで得られた (a) HC3N, (b) CCS, (c) CCHの結果。ピーク (1) 及び (3) はストリーマー及びリザーバーに対応する。
下段:Z45受情機で得られた (d) HC3N, (e) CCS, (f) HC5Nの結果。FOREST受情機による観測周波数帯 (90GHz)よりZ45による観測波数帯 (45GHz) の方が低いため、空間分解能が異なるが、HC3NとHC5Nのマップではストリーマーとリザーバーが十分に空間分解されて検出されている。
*この研究のポイント
野辺山45m望遠鏡だけでなく、他の大型の単一鏡のデータも合わせて解析した点です。この研究を進める上で、2ヶ月間 Max Planck Institute for Extraterrestrial Physicsに滞在させていただき、他の望遠鏡のデータを提供していただいたり、新しい解析手法を試しながら楽しく論文を書くことができました。3つの望遠鏡のデータの全てが矛盾なく説明できる解析結果が得られた時は、パズルのピースが上手くはまったような感じがしました。
用語説明
*1  クラス0原始星候補天体:原始星に特有の双極分子流が観測されるため、濃い分子ガスの中に埋もれていて、形成途中の若い星と考えられている。(参考ホームページ:https://astro-dic.jp/class-0-object/

*2  炭素鎖分子: 炭素原子が二重結合や三重結合などで連なった星間空間特有の分子。現在までに130種類以上発見されている。(炭素鎖分子に関するレビュー論文: https://link.springer.com/article/10.1007/s10509-024-04292-9

*3  クラス I原始星:分子雲コアに深く埋もれており星間減光が数10等以上、物質降着が活発で、双極分子流などの質量放出現象も普遍的に見られる。(参考ホームページ:https://astro-dic.jp/class-i-object/

掲載誌情報
本論文は、2024年4月17日発行のThe Astrophysical Journalに掲載されました。論文の題目および所属は以下の通りです。
発表雑誌:The Astrophysical Journal
ページ情報:vol. 965, issue 2, article ID 162
論文名:The Reservoir of the Per-emb-2 Streamer
著者:Taniguchi, Kotomi; E Pineda, Jaime; Caselli, Paola; Shimoikura, Tomomi; Friesen, Rachel K.; Segura-Cox, Dominique M.; Schmiedeke, Anika
掲載URL:https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ad2fa1

研究グループメンバー
谷口琴美 特任助教 (国立天文台 科学研究部)
Jaime E. Pineda博士 (Center for Astrochemical Studies, Max Planck Institute for Extraterrestrial Physics, ドイツ)
Paola Caselli教授 (Center for Astrochemical Studies, Max Planck Institute for Extraterrestrial Physics, ドイツ)
下井倉ともみ 准教授 (大妻女子大学 社会情報学部 環境情報学専攻)
Rachel K. Friesen 助教 (University of Toronto, カナダ)
Dominique M. Segura-Cox 博士 (University of Texas, アメリカ)
Anika Schmiedeke 博士 (Green Bank Observatory, アメリカ)

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