迅速な自己修復性を示す機能性材料の開発に成功~さまざまな環境で自己修復できる実用材料の開発に期待~

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2021-11-11 理化学研究所

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター先進機能触媒研究グループの侯召民グループディレクター(環境資源科学研究センター副センター長、開拓研究本部侯有機金属化学研究室主任研究員)、ヤン・ヤン特別研究員(研究当時)、ハオビン・ワン特別研究員(研究当時)、西浦正芳専任研究員(開拓研究本部侯有機金属化学研究室専任研究員)らの共同研究チームは、希土類金属[1]触媒を用いることにより、2種類の極性オレフィン[2]とエチレンとの「精密三元共重合[3]」を達成し、迅速な自己修復性能を示す新しい「機能性ポリマー」の創製に成功しました。

本研究成果は、大気中だけではなく、水、酸やアルカリ性水溶液中などのさまざまな環境下で自己修復可能かつ実用性の高い新しい機能性材料の開発に大きく貢献すると期待できます。

今回、共同研究チームは、独自に開発したスカンジウム(Sc)触媒を用いることにより、エチレンと置換基の異なる2種類のアニシルプロピレン類[4]との精密三元共重合を初めて達成しました。得られた新しいポリマーは、伸び率約1,400%、破断強度約3メガパスカル(MPa、1MPaは100万パスカル)と優れたエラストマー物性[5]を示し、かつ迅速に(最速1分)自己修復します。また、外部から一切の刺激やエネルギーを加えなくても、大気中だけではなく、水、酸やアルカリ性水溶液中でも自己修復性能を示します。さらに、2種類のアニシルプロピレン類の組成比を変えることにより、ガラス転移点(Tg[6]を-31℃~98℃の任意の温度で精密に制御できます。

本研究成果は、科学雑誌『Angewandte Chemie International Edition』の上位5%の重要論文(Very Important Paper:VIP)に選出され、11月9日付でオンライン掲載されました。

背景

損傷から自己修復できる材料の開発は、学術的にも実用的にも極めて重要です。従来の自己修復性材料には、水素結合[7]やイオン相互作用などを生かして精巧に設計されたものが知られています。しかし、それらの相互作用は水や酸などで壊れやすいため、従来の材料は変化に富む実際の自然環境下ではほとんど機能しないことが課題です。

一方で、ポリエチレンに代表されるポリオレフィン[2]は、さまざまな包装材や農業用フィルムなどに幅広く利用されており、現代社会に欠かせない重要な汎用性高分子材料です。さらなるポリオレフィンの高付加価値化や用途の拡大を図るため、水素原子や炭素原子以外のヘテロ原子[8]を含むオレフィン[2](極性モノマー)とエチレン(非極性モノマー)を共重合[3]させて、ヘテロ原子などの極性基をポリオレフィンへ導入する触媒の研究が世界中で行われてきました。しかし、通常、ヘテロ原子を持つオレフィンの重合活性はエチレンに比べて格段に低いため、共重合反応の制御は難しく、さらにエチレンと2種類の極性オレフィンとの三元共重合はこれまで報告されていませんでした。

侯召民グループディレクターらは2019年に、独自に開発した希土類触媒を用いることにより、エチレンとアニシルプロピレン類[4]との二元共重合を達成し、得られたポリマーが優れた自己修復性能を示すことを明らかにしました注1)。また、アニシルプロピレン上の置換基が熱物性や自己修復特性に大きく影響することが分かりました。

そこで、今回はこれらを踏まえ、希土類金属触媒を用いたエチレンと置換基の異なる2種類のアニシルプロピレン類との三元共重合反応の開発に取り組み、機械物性や自己修復性能における置換基効果について検討しました。

注1)2019年2月7日プレスリリース「新しい機能性ポリマーの開発に成功

研究手法と成果

共同研究チームは、スカンジウム(Sc)触媒を用いて、エチレン1気圧の条件で2種類のアニシルプロピレン類との三元共重合を行うことにより、1段階で比較的高分子量のポリオレフィンを得ることに成功しました(図1)。構造解析の結果、このポリオレフィンは、アニシルプロピレン類とエチレンとの2種類の交互ユニットに加え、エチレン-エチレン連鎖を持つ構造であることが分かりました。また、これらの三元共重合体は、対応するそれぞれの二元共重合体のガラス転移点(Tg)とは異なる一つだけのTgを示すことから、二元共重合体の混合物ではなく、真の三元共重合体となっていることも分かりました。さらに、ヘキシル基を持つアニシルプロピレンとメトキシピレニル基を持つプロピレンのポリマーの場合は、モノマーの組成比を制御することにより、Tgを-31℃~98℃の任意の温度で精密に制御できることが明らかになりました。

図1 スカンジウム触媒によるエチレンと2種類のアニシルプロピレン類の三元共重合反応

酸素原子がスカンジウムイオンへ配位するにことよって、アニシルプロピレン類の炭素-炭素二重結合の挿入反応が促進され、エチレンとの効率的な三元共重合を達成した。生成された新しい機能性ポリマーは、アニシルプロピレンとエチレンとの交互ユニットに加え、エチレン-エチレン連鎖を持つ。下段は、置換基の異なる2種類のメトキシアリールプロピレン(メトキシナフチル(左)、メトキシピレニル(右))を示す。


得られたポリオレフィンは、伸び率約1,400%、破断強度約3メガパスカル(MPa、1MPaは100万パスカル)と優れたエラストマー物性を示すだけではなく、迅速な自己修復性能があることが明らかになりました。外部から一切の刺激やエネルギーを加えなくても、迅速に自己修復します(図2)。自己修復性能を引張試験で評価したところ、5分で引っ張り強度が97%回復し、対応する二元共重合体の自己修復時間(5日間)と比べて、大幅に自己修復速度が向上しました。また、大気中と比較すると遅いものの、水、酸やアルカリ性水溶液中でも48時間程度で自己修復します。

新しい機能性ポリマーの大気中における自己修復の図

図2 新しい機能性ポリマーの大気中における自己修復

左は薄膜をナイフで切った直後の傷。切断後1分で自己修復し、傷がほぼ消えている様子が分かる(右)。


さまざまな測定を行った結果、今回得られたポリオレフィンがエラストマー物性や自己修復性を発現する理由として、ヘキシルアニシルプロピレンとエチレンとの交互ユニットが柔らかい成分として働き、エチレン-エチレン連鎖の硬い結晶ユニットとエチレン-メトキシアリールプロピレン交互ユニットが物理的な架橋点として働くネットワーク構造の構築が重要な鍵となっていることが分かりました(図3)。切断面をくっつけると、エチレン-エチレン連鎖の硬い結晶ユニットやエチレン-メトキシアリールプロピレン交互ユニットが分子間相互作用で再凝集することにより、自己修復します(図3)。

過去に報告したエチレンとアニシルプロピレンの二元共重合体では、アニシルプロピレンとエチレンとの交互ユニットが柔らかい成分として働き、エチレン-エチレン連鎖の硬い結晶ユニットが物理的な架橋点として働くネットワーク構造が構築されています。この二元共重合体と比較すると、ヘキシル基の導入によって柔らかい成分がより動きやすくなったことに加えて、エチレン連鎖の結晶ユニットの他にエチレン-メトキシアリールプロピレン交互ユニットで架橋できる場所が増えたために、自己修復速度が大幅に向上したものと考えられます。

新しい機能性ポリマーのミクロ相分離構造の模式図と自己修復のメカニズムの図

図3 新しい機能性ポリマーのミクロ相分離構造の模式図と自己修復のメカニズム

ヘキシルアニシルプロピレンとエチレンとの交互ユニット(青線)は、柔らかい成分として働き、エチレン連鎖とエチレン-メトキシアリールプロピレン交互ユニット(赤線)は分子間相互作用によって集まり、固いユニットを生成する。これらの固い成分が架橋点として働くことにより、エラストマー物性や自己修復性を発現する。


水素結合やイオン結合などを活用する従来の自己修復性材料は、水中ではそれらの相互作用が弱まるため、うまく機能しないことがあります。しかし、今回開発したポリオレフィンにおけるいくつかの構造ユニットは水の影響を受けないため、大気中だけではなく、水、酸やアルカリ性水溶液中でも自己修復性を発現できる点が大きな特長です。

今後の期待

本研究では、希土類金属触媒を用いることにより、2種類の極性オレフィンとエチレンとの精密三元共重合を達成し、乾燥空気中だけでなく、水、酸やアルカリ性水溶液中でも自己修復性能や形状記憶性能を示す新しい機能性ポリマーの創製に成功しました。本研究成果は、今後の自己修復性材料の設計・開発にとって重要な指針を与えるものです。

また、今回開発したポリマーは簡便に合成可能であり、置換基の適切な選択やモノマー組成比の制御によって熱物性および機械物性を制御できることから、さまざまな環境下で自己修復可能でかつ実用性の高い新規機能性材料の開発に大きく貢献すると期待できます。

さらに今回の研究は、国際連合が2016年に定めた17項目の「持続可能な開発目標(SDGs)[9]」のうち「12.つくる責任つかう責任」に大きく貢献する成果です。

補足説明

1.希土類金属
元素の周期表で第3族にある、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)と原子番号57のランタン以下のランタノイド族の計17元素のこと。

2.極性オレフィン、ポリオレフィン、オレフィン
オレフィンとは、エチレン(CH2=CH2)、プロピレン(C2H4=CH2)、ブテン(C3H6=CH2)などのように、分子内に炭素-炭素二重結合(C=C)を持つ炭化水素化合物のこと。アルケンともいう。オレフィンをモノマー(単量体)として合成されるポリマー(高分子)を総称してポリオレフィンと呼ぶ。有機化合物における極性とは、結合間で電荷分布に偏りがある場合をいい、偏りがない場合を非極性という。本研究におけるヘテロ原子は、化合物内でマイナスに電荷が偏っている。極性官能基を持つオレフィンを極性オレフィンという。

3.精密共重合、共重合
2種以上の単量体が重合して重合体を生成する反応を共重合といい、このようにして得られた重合体を共重合体という。共重合体の物性は単量体の配列に大きく依存し、この配列を精密に制御して共重合させる反応を精密共重合という。

4.アニシルプロピレン類
ベンゼンの水素1個をメトキシ基(-OCH3)に置き換えた化合物(C6H5OCH3)をアニソールといい、これが置換基となる場合は、アニシル基という。このアニシル基を持つプロピレンをアニシルプロピレン類という。

5.エラストマー物性
エラストマー(elastomer)とはゴム弾性を持つ工業用材料の総称であり、「elastic(弾力のある)」と「polymer(重合体)」を組み合わせた造語。ゴムのように伸びたり縮んだりする物性をエラストマー物性という。

6.ガラス転移点(Tg
エラストマーを冷却していくと徐々に粘度が高くなり、ゴム状態から固化状態(ガラス状態)になる。この状態が変化する境界の温度をガラス転移点と呼び、Tgと一般に表示される。

7.水素結合
電気陰性度の強い二つの原子(N、O、F、Cl、Brなど)の間に水素原子が入ってできる結合。通常の共有結合よりはるかに弱いが、水分子間や生体のDNA二重らせん構造などで見られ、重要な役割を担っている。

8.ヘテロ原子
有機化学の分野で炭素、水素以外の原子のこと。ヘテロとは、「異なる」を意味する古代ギリシア語heterosに由来する。典型的なヘテロ原子としては、窒素、酸素、硫黄、リンなどが挙げられる。

9.持続可能な開発目標(SDGs)
2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール、169のターゲットから構成され、発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいる(外務省ホームページから一部改変して転載)。

共同研究チーム

理化学研究所 環境資源科学研究センター 先進機能触媒研究グループ
グループディレクター 侯 召民(コウ・ショウミン)
(環境資源科学研究センター 副センター長、開拓研究本部侯有機金属化学研究室 主任研究員)
特別研究員(研究当時) ヤン・ヤン(Yang Yang)
特別研究員(研究当時) ハオビン・ワン(Haobing Wang)
特別研究員 リン・ファン(Lin Huang)
専任研究員 西浦 正芳 (にしうら まさよし)
(開拓研究本部 侯有機金属化学研究室 専任研究員)

大分大学 理工学部
准教授 檜垣 勇次 (ひがき ゆうじ)

原論文情報

Yang Yang, Haobing Wang, Lin Huang, Masayoshi Nishiura, Yuji Higaki, Zhaomin Hou, “Terpolymerization of Ethylene and Two Different Methoxyaryl-substituted Propylenes by Scandium Catalyst Makes Tough and Fast Self-Healing Elastomers”, Angewandte Chemie International Edition (Selected as a very important paper (VIP)), 10.1002/anie.202111161

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 先進機能触媒研究グループ
グループディレクター 侯 召民(コウ・ショウミン)
(環境資源科学研究センター 副センター長、開拓研究本部 侯有機金属化学研究室 主任研究員)
特別研究員(研究当時) ヤン・ヤン(Yang Yang)
特別研究員(研究当時) ハオビン・ワン(Haobing Wang)
専任研究員 西浦 正芳(にしうら まさよし)
(開拓研究本部 侯有機金属化学研究室 専任研究員)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当

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