X線バースト天体における不安定マグネシウム燃焼の解明

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2021-10-20 東京大学

山口 英斉(原子核科学研究センター 講師)
早川 勢也(原子核科学研究センター 特任助教)
Hu Jun(胡钧)(中国科学院近代物理研究所 研究員)

発表のポイント

  • X22Mg (α,p )25Al反応の天体温度における反応率を世界最高精度で決定し、観測X線量を再現することに成功した。
  • 陽子共鳴散乱の手法を用いた加速器実験を行い、測定困難であった22Mg (α,p )25Al反応率を数10%以内という高精度で決定した。更に天体観測と合致する新X線バーストモデルを構築した。
  • X線バーストは銀河系で最も頻繁に起こっている熱核反応による爆発現象であり、我々の周りの元素の起源の1つである。その爆発メカニズムの理解が進展した意義は大きい。また、今後の不安定核間の反応研究が進展するきっかけとなると期待できる。

発表概要

東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター、理化学研究所、中国科学院近代物理研究所(中国)、モナシュ大学(オーストラリア)、ミシガン州立大学(米国)、エジンバラ大学(英国)、北京師範大学(中国)、成均館大学(韓国)、梨花女子大学(韓国)、INFN-LNS研究所(イタリア)、マクマスター大学(カナダ)、ブリュッセル自由大学(ベルギー)、蘭州大学(中国)からなる国際共同研究グループは、これまでの研究で十分に理解されていなかった、X線バースト天体(注1)における不安定核(注2)マグネシウムの重要な燃焼反応、22Mg(α,p)25Al(注3)を実験的に調べ、反応に寄与する共鳴(注4)の詳細情報を世界で初めて得ました。それにより、同反応の反応率(注5)を世界最高精度で決定するとともに、過去に観測されているX線バーストの光量をより精密に再現することに成功しました。これは、同反応が単独でも観測量に大きな影響を与える重要反応であることを具体的に示すとともに、研究が困難とされている不安定核から不安定核への反応に対し、新しいアプローチで理解を与えることを実証するものです。X線バーストによって起こる陽子過剰元素合成プロセスは、我々の身の回りの元素の起源の一つであり、今後さらに研究を進めることで、地球上の元素が宇宙でどのように準備されてきたかの理解が大きく進展することが期待されます。

発表内容

背景
X線バーストは、宇宙における天体からのX線の大量放出現象であり、銀河系の中で最も頻繁に起こっている熱核反応爆発です。近年のX線天文学の発展により、宇宙で起こっているX線バーストが多数観測されるようになりました。X線バーストにおける基本的な観測量は、光量の時間変化です。多くのX線バースト天体において、光量は急激に立ち上がってゆっくりと減衰するパターンを見せますが、バーストが繰り返し起こる例も知られています。この複雑な天体現象を理解するには、爆発のメカニズム、特にその背後にある原子核反応の精密な理解が必要です。太陽のような恒星における比較的ゆるやかな燃焼反応とは違い、X線バーストは数GK(ギガケルビン)という非常に高い天体温度(注6)で短時間に起こるため、地球上には通常存在しない陽子過剰の不安定核が生成され、崩壊する前に次の反応を起します。これは、rp-processと呼ばれる高速陽子捕獲過程として説明されます。さらに、X線バーストのような高温天体では、反応経路がヘリウムと陽子を交換する「(α,p)反応」を経由して、より高速に反応が進むと考えられます。これは特別にαp-過程と呼ばれることがあります(図1)。

図1:分野間協力に基づく本研究の流れ図。X線バースト現象の天体観測から得られた光量分布を、加速器実験によって決められた核反応率を基にした計算結果と比較し、観測を良く再現する結果を得た。右上の図には、X線バーストに代表される高温天体での核燃焼経路“αp-過程”の一部と、本研究の対象となった22Mg(α,p)25Al反応の位置が示されている。図には酸素(O)から塩素(Cl)までの多くの同位体を表示しているが、水色のタイルは、安定な性質を持ち、地球上にも存在する核種(安定核)、白色のタイルは、時間が経つと崩壊し、地球上にはほぼ存在しない核種(不安定核)である。すなわち、核燃焼経路が安定核よりも中性子の少ない、いわゆる陽子過剰核を通ることを示している。


本研究の対象となった不安定マグネシウム核の燃焼反応、22Mg(α,p)25Alは、このαp-過程の中の最重要反応の1つです。ところが、αp-過程を形成する反応の多くは、ある不安定核から別の不安定核を作る反応であるため、安定核の反応と比較し、実験研究が非常に困難なものとなっています。そのため、世界中でも研究があまり進展していません。先行のミシガン州立大グループの研究(注7)では、不安定核ビーム強度が十分でないために、天体温度よりはるかに高い温度における反応測定を行い、天体温度に外挿するということで22Mg(α,p)25Alの評価を行いました。しかし、天体温度においては、不規則に存在する共鳴が反応に重大な影響を及ぼすため、この外挿は大きな不定性を含むものと考えられます。一方、本研究では、東京大学の持つ不安定核ビーム生成技術を活用し、反応生成物である25Alから共鳴を調べるという逆転の発想により、22Mg(α,p)25Al 反応の天体温度における解明を目指しました。

研究手法と成果
今回の成果は、東京大学と理化学研究所の包括的連携協定のもと、東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センターが理化学研究所仁科加速器研究センターのRIビームファクトリー(注8)施設内に設置したCRIB(シーリブ)不安定核ビーム分離装置(注9)を用いた実験によって得られたものです。CRIBにおいて、高強度24Mg安定核ビームを重水素標的に照射することにより、自然界に存在しないアルミニウム-25 (25Al)同位体を、天体温度に近いエネルギーを持つ不安定核ビームとして生成しました。25Al ビームの強度は、一秒間あたり2 ×105個であり、一秒間あたり900個の22Mg ビームで行われた先行実験(注7)に対し、はるかに高い不安定核ビーム強度を実現しました。25Alビームを電磁石分析によって高純度化した後、陽子標的に照射すると、ある確率で25Alと陽子の共鳴散乱が起こります。半導体検出器を用いて、その散乱を起こした後の反跳陽子を捕らえ、エネルギーを精密測定しました(図2)。

図2: 実験装置の写真。東京大学理学系研究科附属原子核科学研究センターの所有するCRIB装置においてアルミニウム-25(25Al)不安定核ビームを生成し、本測定装置に入射させる。ビームはPPACとMCPという高時間分解能の検出器で識別され、水素を含むポリエチレン(CH2)標的に照射される。左手のシリコン検出器群において共鳴散乱の起こった後の反跳陽子を検出する。


この測定によって、アルミニウム-25と陽子の複合核である、シリコン-26(26Si)の共鳴を多数観測しました(図3)。

図3:本研究で測定を行った弾性・非弾性散乱の断面積スペクトル。シリコン-26原子核の構造に由来する多数の共鳴が観測された。それぞれの共鳴に書かれている数字と符号は、シリコン-26の励起エネルギー(MeV)と、共鳴の量子状態を表すスピン・パリティ。α崩壊閾値以上のエネルギーに存在する共鳴は、本研究のターゲットである22Mg(α,p)25Al反応に寄与する。


この26Siの共鳴は、22Mg(α,p)25Al反応の中間状態として非常に重要な役割を果たします。観測された共鳴の強度やスペクトル形状から、それぞれの共鳴状態の性質を分析しました。それを基に、22Mg(α,p)25Al反応の共鳴反応断面積の評価を行い、更に天体における核反応率へと変換しました(図4)。

図4:実験結果を基に導出された天体核反応率(天体での反応の起こりやすさ)。過去の理論・実験研究で評価された反応率には何桁もの食い違いがあった。本研究は、最新の先行研究(Randhawa et al.(2020))と比較的近い値を示しているが、より精度が良く、外挿に頼らない反応率の導出に成功した。右下の小図は重要な天体温度における値の詳細比較である。緑色の曲線は、最適値ではないが可能性の捨てきれない共鳴パラメータを採用した際の反応率であるが、これを採用しても図5、6の最終結果には大きな影響を及ぼさない。


この共鳴散乱の手法は、低エネルギーにおいては共鳴が非常に弱くなり、共鳴の情報を引き出すことができないという欠点があります。しかし、本研究のように、反応生成物である25Alの側から26Siを生成すると、22Mg+αと25Al+pの質量差のために、反応に寄与する重要な共鳴が比較的高いエネルギーに現れることになります。我々はこの性質を利用し、共鳴散乱の欠点を克服することができました。

得られた核反応率を用いて新しいX線バーストモデルを作り、光量計算を行いました。その結果、我々の新しいモデルにより、過去に観測されたX線バースト、GS 1826-24 とSAX J1808.4-3658の光量をより良く再現することが確認されました(図5、6)。

図5:X線バースト”GS1826-24”の観測光量と、各天体モデル・原子核反応率評価による計算の比較。本研究によって得られた反応率と新しいモデルによる計算が光量を最も精度よく再現しているのが分かる。小さいグラフは重要な部分を拡大したもの。

図6:X線バースト “SAX J1808.4-3658”の観測光量と各天体モデル、反応率での計算との比較。このX線バーストにおいては1日程度の間隔でバーストが繰り返し発生したが、その観測はX線天文衛星RXTEにより1日のうち限られた時間のみ可能であった(菱形:◇)。過去の研究で構築された理論モデル(Goodwin et al.(2019)とJohnson et al.(2018))においては、一見繰り返し周期と光量が良く再現されているように見えるが、観測に合うようにモデルのパラメータが調整されているという側面があった。実際、本研究、あるいは先行研究(Randhawa et al.)の22Mg (α,p)25Alをそれらのモデルに適用すると、繰り返しの周期、光量がともに大きく観測から外れる(四角:□)。我々は天体中のヘリウム量を増やした新しいモデルを作り、再び観測を良く再現する結果を得た(丸:●)。


特に、SAX J1808.4-3658においては、周期的に起こるバーストが観測されており、これが計算によって再現できるかどうかはモデルの精度の良さを確認するテストになります。これまでのJohnstonらによるX線バーストモデルは、観測に合うよう天体のヘリウム量などのパラメータを調整しており、モデルに大きな不定性を含んでいました。実際、我々あるいはミシガン州立大グループによる正確な反応率を、先行モデルに取り入れると、観測量から大きなずれが現れました。我々の新しいモデルは、先行モデルより天体中のヘリウム存在量が大きいと仮定しており、そのために新しい反応率を取り入れた場合にも観測量をX線の量、繰り返し周期ともによく再現することが確認できました。これは、我々の研究した22Mg(α,p)25Al反応の効果が、単一の反応であるにもかかわらす、非常に大きいものであることを示していることにもなります。

今後への期待
今回の研究は、不安定核ビームと共鳴散乱の手法を使うことにより、これまで研究が困難とされていた不安定核反応を効率よく研究できることを実証するものです。 今後、より多様な高強度不安定核ビームを生成する技術開発が進展すれば、22Mg(α,p)25Alに限らず、X線バーストの多くの重要反応の研究が可能となるでしょう。X線バーストは未だ謎に包まれている天体現象の1つですが、宇宙で頻繁に起こっており、重い元素の合成の主要過程の一つ、rp-過程の舞台となる典型的な天体と考えられています。従ってX線バーストは、天体爆発現象を深く理解するのみならず、地球や生物の体を形作る元素の起源を完全に明らかにする上で重要であり、今後の研究発展が期待されています。

発表雑誌
雑誌名
Physical Review Letters論文タイトル
First measurement of 25Al+presonant scattering for 22Mg(α, p25Al reaction and implications on understanding type-I x-ray bursts

著者
J. Hu*, H. Yamaguchi, Y. H. Lam, A. Heger, A. M. Jacobs, S. W. Xu, N. T. Zhang, S.B. Ma, L.H. Ru, E. Q. Liu, T. Liu, S. Hayakawa, L. Yang, H. Shimizu, D. Kahl, C.B. Hamill, A. St J. Murphy, J. Su, X. Fang, K. Y. Chae, M.S. Kwag, S. M. Cha, N.N. Duy, N.K. Uyen, D.H. Kim, R.G. Pizzone, M. La Cognata, S. Cherubini, S. Romano, A. Tumino, J. Liang, A. Psaltis, M. Sferrazza, D.H. Kim, Z. Johnston, Y.Y. Li, and S. Kubono.

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