2021-09-30 国立天文台
ビッグバンから30億年の間に形成された初期の大質量銀河には、星を作るための材料である冷たい水素ガスが大量に含まれているはずです。しかし、アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡を用いて初期宇宙を観測した研究者たちは、星の材料を使い果たした奇妙な初期大質量銀河を6つも発見しました。短い時間で大量の星を作り、そして突然星を作るのをやめてしまった銀河では何が起きていたのか、謎は深まるばかりです。
NASAハッブル宇宙望遠鏡で撮影された銀河団MACSJ 0138の画像に、アルマ望遠鏡のデータを合成した画像。拡大された部分にはオレンジや赤の明るい点が見えますが、これはアルマ望遠鏡で観測された冷たい塵の広がりです。この冷たい塵は、銀河団内の銀河に存在する星の形成に必要な冷たい水素ガスの量を推測するのに役立ちます。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/S. Dagnello (NRAO), STScI, K. Whitaker et al.
初期宇宙で星形成が止まってしまっている6つの銀河を観測したのは、”REsolving QUIEscent Magnified galaxies at high redshift” (REQUIEM)と名付けられたプロジェクトです。本研究を引きいる、マサチューセッツ大学アマースト校のケイト・ウィテカー准教授は、「宇宙で最も質量の大きい銀河たちは猛烈な勢いで生きており、非常に短い時間で星を生み出していました。星形成の材料であるガスは、宇宙の初期には豊富にあるはずです。私たちは当初、ビッグバンから数十億年後にこれらの銀河が星形成にブレーキをかけたと考えていました。今回の研究では、初期の銀河は実際にはブレーキをかけたのではなく、ガス欠になっていたのではないかと結論づけています。」とコメントしています。
銀河がどのように形成され、どのように星形成活動を停止するのかを理解するために、研究チームはハッブル宇宙望遠鏡で銀河に存在する星の詳細を明らかにしました。また、アルマ望遠鏡では銀河の塵が放つミリ波の観測が行われ、銀河内のガスの量を推測することができました。REQUIEMの目的は、強い重力レンズを自然の望遠鏡として利用し、星形成休眠中の銀河をより高い解像度で観測することです。これにより、研究者は銀河の内部で何が起きているのかを明確に把握することができます。
テキサス大学オースティン校でハッブルフェローを務めるジャスティン・スピルカー氏は、「銀河が新しい星をあまり作っていないとすぐに暗くなってしまうため、望遠鏡で詳細に観測することは難しくなります。REQUIEMでは、重力レンズ効果を受けた銀河を観測することで、この問題を解決しています。重力レンズ効果とは、銀河の光が私たちに近い場所にある他の銀河のまわりで曲がることで、もとの銀河の姿が引き伸ばされたり拡大されたりすることを指します。重力レンズ効果とハッブルやアルマの解像力や感度が相まって、自然の望遠鏡として機能します。星形成活動が止まりかけている銀河が実際よりも大きく明るく見えることで、何が起きていて何が起きていないのかを知ることができるのです。」と語っています。
今回の観測により、研究対象となった6つの銀河で星形成が停止したのは、冷たいガスを星に変換する効率が急激に低下したためではなく、銀河内のガスが枯渇したか、外部に取り除かれた結果であることがわかりました。アリゾナ大学の天文学者で、共同研究者であるクリスティーナ・ウィリアムズ氏は、「なぜこのようなことが起こるのかはまだわかっていませんが、考えられるのは、外部からのガスの供給が断たれたか、あるいは超巨大ブラックホールが膨大なエネルギーを注入して銀河内のガスを高温に保っているかのどちらかでしょう。これは銀河が燃料タンクを補充することができず、星形成のエンジンを再起動することができないことを意味しています。」と述べています。6つの銀河のうちの4つでは、塵からの電波がそもそも検出されませんでした。これは、銀河の星に対して塵の量が1万分の1以下しかないことを示唆しています。塵とガスの存在比が天の川銀河と同じだとしても、これらの銀河におけるガスの総質量は、星の総質量の100分の1しかないことになります。
この研究は、今後何年にもわたって初期宇宙の研究の指針となる情報を提示しています。ウィテカー氏は、「今回の研究は、遠方の休眠銀河の冷たい塵からの電波を初めて測定したものです。実際、天の川銀河にごく近い場所以外でこの種の測定を行ったのはこれが初めてです」と述べています。さらに今回の研究によって、星形成が停止した銀河がどれだけのガスを持っているかを確認することができました。「私たちは、初期の大質量銀河の星形成の材料を十分な感度で調べること、言い換えれば銀河の燃料タンクの残量を読み取ることができました。これらの銀河の冷たいガスの特性に関して、これまで決定的に欠けていた情報でした。」とウィテカー氏は付け加えます。
研究チームは、これらの銀河が「ガス欠」状態になっていること、何かがガスの補充と新しい星の形成を妨げていることまでは明らかにしましたが、初期の大質量銀河で起きる星形成活動を何が支配しているのかという問いについては、まだ解決の一歩目を踏み出したにすぎません。「大質量銀河がなぜこれほど宇宙初期に形成されたのか、また大量の冷たいガスが容易に手に入ったのになぜ星の形成を止めてしまったのかについては、まだ多くのことがわかっていません。この巨大な宇宙の怪物たちが約10億年の間に1000億個の星を形成した後、突然星の形成を停止したという事実だけでも、私たちにとってはぜひとも解明したい謎です。REQUIEMはその最初の手がかりを提供してくれました」とウィテカー氏はコメントしています。
この記事は、米国立電波天文台が2021年9月23日に発表したプレスリリースをもとに作成しました。
論文情報
この観測成果は、Kate Whitaker et al. “Exhausted gas reservoirs drive massive galaxy quenching in the early universe”として、英国の科学誌「ネイチャー」に2021年9月23日付で掲載されました。