高分子ガラス表面における疑似絡み合いセグメントの観測に成功

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高分子鎖の局所コンフォメーションから革新的接着技術の構築へ

2021-08-19 九州大学,科学技術振興機構

次世代モビリティの軽量化を目的として構造部材のマルチマテリアル化が推奨され、将来的にはオールプラスチック化が予測されています。このため、部材の組み立ては現在のボルト・リベットなどを用いた接合技術から、高分子材料を用いた接着技術へ転換することが喫緊の課題となっています。モビリティ部材を接着技術だけで組み上げることが可能になれば、軽量化の実現、すなわち、燃費向上による省エネ化、低炭素化が加速できます。さらには、その先の自動運転が普及するSociety5.0を実現するためには、センサや電子部品の小型化、高性能化が必須であり、これらを自在に組み立てるための接着が可能となれば、安全・安心社会の推進へと大きく貢献できると期待されます。人命に関わるモビリティにおいて接着技術を導入するには、理論に基づく強度や耐久性の保証およびそれらに基づいた健全性や信頼性が求められます。しかし、現状では、実接着界面での破壊挙動の分子描像はもちろん、接着機構すら理解できていない状況です。

九州大学 大学院工学研究院/次世代接着技術研究センターの田中 敬二 主幹教授/センター長、川口 大輔 准教授らの研究グループは、接着現象を、分子中の官能基の配向状態から巨視的な力学強度までのマルチスケールな空間で、かつ、時間変化で包括的に解析しています。接着界面の本質的な理解により次世代接着技術を確立し、基盤技術を構築することを目的として、JST 未来社会創造事業 大規模プロジェクト型「界面マルチスケール4次元解析による革新的接着技術の構築」を遂行しています。同プロジェクトでは、高分子科学および先端計測を専門とする研究者と共同連携企業の連合体が特定先端大型研究施設などの支援の下、「接着現象」における界面の理解から社会実装までを展開しています。

研究グループはナノクリープ実験に基づき、高分子ガラス表面では分子鎖の長さに依存しない絡み合いセグメントが存在することを観測しました。従来は、高分子鎖の絡み合いはその長さのみで規定されると考えられていましたが、本研究では、高分子表面に存在する分子鎖が内部領域までつながるため、表面近傍でセグメントが緩和しても疑似ループコンフォメーションが形成され、短い分子鎖でも一時的に絡み合ったような粘弾性挙動を示すことを明らかにしました。この成果は、熱可塑性表面層での分子鎖の絡み合い制御につながることから、現在、接着方法論が確立されておらず適用例の少ない熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の接着技術の開発を加速すると期待できます。

本研究は、田中 教授が客員教授を勤める浙江理工大学および南フロリダ大学、プリンストン大学と共同で行いました。

本研究成果は、2021年8月18日(英国時間)にNature誌のオンライン版で公開されます。

今回の研究成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業 大規模プロジェクト型 技術テーマ「Society5.0の実現をもたらす革新的接着技術の開発」

研究開発課題名:「界面マルチスケール4次元解析による革新的接着技術の構築」
(研究開発代表者:田中 敬二)

研究者:九州大学 大学院工学研究院/次世代接着技術研究センター
田中 敬二 主幹教授/センター長

研究実施場所:九州大学
https://www.jst.go.jp/mirai/jp/uploads/brochure-r01.pdf

詳しい資料は≫

<論文タイトル>
“Mobility Gradients Yield Rubbery Surfaces atop Polymer Glasses”
DOI:10.1038/s41586-021-03733-7
<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
田中 敬二(タナカ ケイジ)
九州大学 大学院工学研究院 主幹教授/次世代接着技術研究センター センター長

<JST事業に関すること>
庄司 真理子(ショウジ マリコ)
科学技術振興機構 未来創造研究開発推進部

<報道担当>
九州大学 広報室
科学技術振興機構 広報課

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