非生物学的な嫌気的アンモニア酸化触媒を発見~新たな排水処理技術の開発や生命起源研究への貢献に期待~

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2024-05-27 東京工業大学

要点
  • 酸素分子を使わず嫌気的にアンモニアを活性化する人工触媒を発見
  • 37種類の鉱物材料に対するスクリーニングで硫酸銅が触媒となることを確認
  • 富栄養化問題から窒素が関わる生命起源研究に新たな知見を提示

概要

東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)の中村龍平教授(理化学研究所チームリーダー)、何道平研究員(研究当時、現 上海交通大学准教授)、理化学研究所の橋爪大輔チームリーダー、足立精宏テクニカルスタッフIらの研究チームは、嫌気環境に鉱物として存在する硫化銅(コベライト[用語1])が、バクテリアが行う嫌気的アンモニア酸化を人工的に駆動する能力があることを突き止めた。

嫌気的アンモニア酸化(アナモックス)は、アンモニアと亜硝酸から窒素ガスを作り出す反応で、1995年に排水処理場に生息するバクテリアで発見された。これは地球海洋における固定窒素の50%近くの除去に関与する重要な反応で、30年近く研究されてきたにもかかわらず、これまでにアナモックス反応を駆動できる人工触媒は開発されていなかった。中村教授らのチームは、37種類の鉱物材料に対して触媒活性を調べたところ、硫化銅が特異的にアナモックス反応を触媒することを見出した。詳細な反応機構の検討により、硫化銅は、3つの金属酵素によって構成される生物学的アナモックス経路全体を再現できることを明らかにした。本成果は、アンモニアを活性化する新たな反応経路を提供する成果であり、新たな排水処理技術の開発、そしてアミノ酸や核酸塩基などの窒素化合物が重要な役割を担う生命起源研究に大きなインパクトを与えるものだと言える。

本研究成果は、5月24日付(現地時間)の「Nature Chemistry」に掲載された。

図1. アナモックス反応
図1. アナモックス反応

背景

アンモニアは、あらゆる生物にとって必須の代謝産物であり、その活性化は生態系や地球規模での物質循環において大きな役割を果たしている。最近まで、アンモニアの活性化(アンモニウムイオン[用語2]の活性化)には分子状酸素が必要だと考えられていた。しかし、1995年に排水処理場に生息するバクテリアによって、亜硝酸塩(NO2)を酸化剤とする嫌気的アンモニア酸化(アナモックス)が起こっていることが発見され、この常識は根本から覆った。

アナモックス反応は、バクテリア細胞内のアナモキソソームと呼ばれるオルガネラ[用語3]内に存在する3つの金属酵素(亜硝酸還元酵素、ヒドラジン合成酵素、ヒドラジン脱水素酵素)によって触媒される。反応は、亜硝酸(NO2)が一酸化窒素(NO)に還元されることで開始される。続いてNOとアンモニウム(NH4+)の間でN-N結合が形成され、中間体ヒドラジン(N2H4)が生成される。その後、ヒドラジンは窒素(N2)に酸化され、亜硝酸還元とヒドラジン合成に必要な電子を補充するために4個の電子が得られる(図1)。

アナモックスプロセスは現在、脱窒反応と同じくらい重要な生物学的プロセスとして認識されており、海洋に存在する固定窒素の最大50%の除去に貢献している。さらに従来の廃水処理プロセスとは異なり、好気的条件を作り出すための大量のエネルギーを必要としないため、きれいな水を作り出すための効率的で持続可能なアプローチとして期待されている。しかし、30年近くにわたる生化学的研究にもかかわらず、アナモックス反応を行うことができる人工触媒は見つかっていない。そこで本研究チームは、バクテリアのアナモキソソームで進行する3つの酵素反応を再現できる人工の触媒の開発に挑戦した。

研究成果

本研究チームは、アナモックス反応を駆動する非酵素触媒を特定するために、37種類の金属、金属硫化物、金属酸化物、金属水酸化物の触媒活性を調べた。触媒の活性スクリーニングでは、アナモックス微生物[用語4]を培養する際に用いるpH7のリン酸緩衝液中に、同位体標識した14NO215NH4+を基質として加え、生成した物質をガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)で分析した。その結果、試験した37種類の物質のうち、硫化銅(CuS)だけが29N214N15N)の生成に対して活性を示した(図2)。この29N214NO2由来の14Nと15NH4+由来の15Nの異なる2つの窒素原子により構成されている。またCuSは29N2と並行して、ハイブリッド29N2O(15N14NO)も生成することが分かった。N2Oは強力な温室効果ガスで、自然界では好気性バクテリアによる硝化プロセスの生成物として同定されている。今回得られたハイブリッド29N2Oは、2個ある窒素原子の1つが14NO2に、もう1つが15NH4+に由来するユニークな同位体組成だった。

図2 37種類の鉱物を用いたアナモックス反応触媒のスクリーニング
図2. 37種類の鉱物を用いたアナモックス反応触媒のスクリーニング

X線回折[用語5]とラマン分析により、アナモックス反応の触媒活性を示した合成CuSは天然に存在するコベライト鉱物と同じ構造であることが明らかになった。ここで注目すべきは、アナモックス反応が銅の価数に強く依存する点である。一価の酸化数を持つCu2Sを用いた際には、ヘテロ結合由来の化合物は全く検出されなかった。金属-ニトロシル錯体の形成は、金属中心の酸化状態に強く依存する。そのため、Cuに配位したNOが、2つの異なる窒素種を縮合させる中間体として働いていると推察される。実際に、分光学的手法を用いた反応中間体の検出実験から、29N2の生成は銅ニトロソニウム種(Cu+/NO+)によるアンモニウムの酸化によって媒介されることが明らかになった。

アナモックス反応の最も特徴的な反応ステップはヒドラジンの合成である。ヒドラジンは自然界で最も強力な還元剤であり、化学産業においても重要な役割を担っている。そこで本研究チームは、生体内反応と同様に、CuSによるアナモックス反応においてヒドラジンが生成しているかどうかを検証した。ヒドラジンは反応性が高く、短寿命であるため、パラジメチルアミノベンズアルデヒドの誘導体化反応において安定化させることで、ヒドラジン中間体として検出することに成功した。さらに、CuS触媒によって生体内反応と同様に生成したヒドラジンが、窒素分子へ酸化されていることも確認した。

このように、3つの酵素によって触媒されるアナモックス反応を、単一のコベライト(CuS)鉱物の触媒作用によって再現することに成功した。そして、同位体実験と触媒活性中間体の分光学的同定に基づいて、非酵素的アナモックス反応の反応スキームを提唱した(図3)。生物系と非生物系の主な違いのひとつは、ヒドラジンの生成メカニズムである。これまで生物学的プロセスでは、ヒドロキシルアミンとアンモニアが反応することでヒドラジンが形成すると推測されていた。しかし、ヒドロキシルアミンとアンモニアは互いに反発しあうことから、同モデルには修正が必要であると指摘されてきた。本研究で特定された金属配位したNO+は求電子性であり、高い酸化能力を持っている。したがって、ヒドロキシルアミンに代わる活性中間体として、Cu+/NO+が生体反応においても寄与していることが考えられる。

図3 鉱物コベライトが駆動するアナモックス反応経路

図3. 鉱物コベライトが駆動するアナモックス反応経路

社会的インパクト

1995年に発見されたバクテリアによる嫌気的アンモニア酸化(アナモックス)は、アンモニアの活性化に関する科学者の理解を大きく拡張した。しかし発見から30年後の現在にいたるまで、同反応を化学触媒により再現した例はなかった。そのため、3つの酵素反応を1つの鉱物で再現した本研究は、酵素反応の理解のみならず、アンモニアが関わる合成化学や環境浄化プロセスなどに新たな知見を与えると期待される。また、今回報告した硫化銅(CuS)触媒は、天然ではコベライト鉱物として存在している。そのため、本研究で実証した鉱物が駆動するアンモニアの活性化とヒドラジンの合成は、アミノ酸や核酸塩基などの窒素含有の生体分子合成が鍵となる生命起源研究にも貢献する成果である。

今後の展開

今後、反応速度を大幅に向上させることができれば、アンモニアベースの燃料電池や、窒素汚染の環境修復など、アンモニアの活性化を必要とする用途に利用できる可能性がある。また、今回発表された知見は、N–N結合やN-ヘテロ原子結合の形成に関連するアンモニウムベースの化学の基礎的研究を促進すると期待される。

付記

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 学術変革領域研究(22H05153)の支援を受けて行われた。また、触媒材料の解析は、大型放射光施設「SPring-8」[用語6]のビームラインBL14B2(高輝度光科学研究センター2021A1664、2021B1920、2022A1045、2022A1669)ならびにBL17SU(理化学研究所20220060)において実施された。

用語説明

[用語1] コベライト : 2価の銅イオンを含む硫化銅鉱物の一種(CuS)。

[用語2] アンモニウムイオン : アンモニアのプロトン化によって形成されるイオン(NH4+)。

[用語3] オルガネラ : 細胞内にある、一定の機能を持つようになった小器官の総称。細胞小器官などとも呼ばれ、核、ミトコンドリア、ゴルジ体などが例として挙げられる。

[用語4] アナモックス微生物 : 嫌気的アンモニア酸化を行う微生物。同反応により生命活動を維持するためのエネルギーを獲得する。

[用語5] X線回折 : 結晶性の物質にX線を照射して得られる回折図形から結晶構造を調べる方法。固体材料の構造を評価する上で広く活用されている。本研究のような無機材料だけでなく、有機分子やタンパク質などの結晶構造を明らかにするためにも使われてきた。

[用語6] 大型放射光施設「SPring-8」 : 兵庫県播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理研の実験施設。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来する。放射光(シンクロトロン放射)とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する細くて強力な電磁波のこと。SPring-8では、遠赤外線から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光が得られるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。

論文情報

掲載誌 :Nature Chemistry
論文タイトル :Copper sulfide mineral performs nonenzymatic anaerobic ammonium oxidation through a hydrazine intermediate
著者 :Daoping He, Kiyohiro Adachi, Daisuke Hashizume, Ryuhei Nakamura
DOI :10.1038/s41557-024-01537-6

お問い合わせ先

東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)
教授 中村龍平

取材申し込み先
東京工業大学 総務部 広報課
理化学研究所 広報室 報道担当

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