微弱な近赤外光を可視光に変換して検出する技術を開発 ~省エネを実現、光センサー感度や太陽光利用効率の飛躍的向上に期待~

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2022-12-12 科学技術振興機構,帝京科学大学,桐蔭横浜大学

ポイント
  • 「微弱な近赤外光を可視光に変換する」ため、高密度・高輝度なアップコンバージョンナノ粒子を開発。
  • 近赤外光を可視光に変換するアップコンバージョンナノ粒子と可視光を光電変換するペロブスカイト材料(ハロゲン化鉛ペロブスカイト)を組み合わせることで、近赤外光を75パーセントの効率で電気信号に変換することに成功。
  • インジウムガリウムヒ素(InGaAs)などのレアメタルを用いた高コストかつ製造プロセスが複雑な従来の近赤外光センサーに対し、省資源・省エネな新しい近赤外光検出技術としての展開が期待。

JST 戦略的創造研究推進事業(以下、さきがけ)において、帝京科学大学 生命環境学部 自然環境学科の石井 あゆみ 准教授らは、微弱な近赤外光を可視光に変換する材料を利用した新しい近赤外光センサーを開発しました。

近赤外光は、赤外線カメラ(暗視カメラ)、赤外線通信(ワイヤレス通信)、光ファイバー通信、リモコンや生体認証など、幅広い分野で日常的に利用されています。光通信技術、医療診断や環境計測などの発展において、近赤外領域における微弱な光の検出や高感度化は必要不可欠です。近赤外領域の光を検出するため用いられている材料として、900~1700ナノメートルに最適な吸収帯を持つ化合物半導体(InGaAsなど)が挙げられますが、レアメタルを用いた複雑な製造工程から価格が高く、ノイズによる制約が大きいなど、シリコン(Si)などを用いた可視光検出の精度にまで至っていないのが現状でした。

本研究グループは、微弱な近赤外光を高い効率で可視光に変換できるコアシェル型希土類系アップコンバージョンナノ粒子を開発しました。さらに、このナノ粒子を可視光に応答する無機半導体材料(ハロゲン化鉛ペロブスカイト)と組み合わせた近赤外受光素子(フォトダイオード)を開発し、高感度に検出することが難しいとされてきた微弱な近赤外光を75パーセントの効率で電気信号に変換することに成功しました。すなわち、高感度に検出することが難しいとされてきた近赤外光を、既存の技術や材料で高い精度の検出が可能な可視光に変換するという安価で簡便な新しい手法により、微弱な近赤外光の検出効率を飛躍的に向上することを実現しました。

本成果は、低いエネルギーの近赤外光を高いエネルギーの可視光に変換するナノ材料を利用した省資源・省エネな新しい近赤外光の検出手法を提案したものです。太陽光の中でも検出やエネルギーとしての利用が難しい近赤外領域の微弱な光を可視光に“変換して利用する”ことを可能とした本技術により、光センサーの近赤外光受光感度や太陽電池などの人工光合成における太陽光利用効率の飛躍的な向上が期待されます。

本研究は、桐蔭横浜大学 医用工学部 臨床工学科の宮坂 力 特任教授と共同で行いました。

本研究成果は、2022年12月9日(米国東部時間)に国際科学誌「Advanced Photonics Research」のオンライン版で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

研究領域
「光の極限制御・積極利用と新分野開拓」(研究総括:植田 憲一 電気通信大学 名誉教授)

研究課題名
「有機‐無機ハイブリッド界面を利用した一光子センシング技術の創出」

研究者
石井 あゆみ(帝京科学大学 生命環境学部 自然環境学科 准教授)

研究実施場所
帝京科学大学、桐蔭横浜大学

研究期間
平成29年10月~令和3年9月

さきがけ「光の極限制御・積極利用と新分野開拓」領域では、本質的な限界を持たないと言われる光を使って限界に挑戦し、それを超えようとする研究を推進します。具体的には、①環境・エネルギー・ものづくり・情報通信・医療などにおいて将来のさまざまな社会的要請に応える新たな光利用を創成しようとする研究、②光の存在・介在によって出現する現象を利用して、従来の物理学・化学・生物学・工学などの分野に大きな革新をもたらし、これらの壁を打破しようとする研究、③高エネルギー密度科学や高強度光物理、極限物性研究などを通じて、より普遍的な原理および現象を光科学技術の視点から確立しようとする研究、④上記の①~③を実現するための光源、受光、計測、イメージング機能を極限まで追究し、新しい応用に提供する研究などを対象とします。
上記研究課題では、光の受光・計測・イメージングなどといったセンシングの機能限界を追求すべく、光を一光子レベルでセンシングする超高感度な光検出の実現を目指します。有機と無機材料を界面で融合する物質化学的なアプローチにより、光が持つさまざまな情報(波長、異方性(偏光性)など)を1光子レベルで最大限に読み取るための多機能・高感度光検出素子の開発を目指し、研究を進めています。

詳しい資料は≫

<論文タイトル>
“Up-converting Near-infrared Light Detection in Lead Halide Perovskite with Core-shell Lanthanide Nanoparticles”
DOI:10.1002/adpr.202200222
<お問い合わせ先>
  • <研究に関すること>

    石井 あゆみ(イシイ アユミ)

    帝京科学大学 生命環境学部 自然環境学科 准教授
    〒409-0193 山梨県上野原市八ッ沢2525
    Tel:0554-63-6854
    E-mail:ayumi-intu.ac.jp

  • <JST事業に関すること>

    嶋林 ゆう子(シマバヤシ ユウコ)

    科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
    〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
    Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2067
    E-mail:prestojst.go.jp

  • <報道担当>

    科学技術振興機構 広報課

    〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
    Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
    E-mail:jstkohojst.go.jp

    帝京科学大学 研究支援第2係

    〒409-0193 山梨県上野原市八ッ沢2525
    Tel:0554-23-6808 Fax:0554-63-4430
    E-mail:kenkyushienntu.ac.jp

    桐蔭横浜大学 研究推進部

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