実生活環境を想定し、感染価が残存しやすい状態での付着ウイルスに対する効果を検証
2021-07-15 シャープ株式会社
シャープは、島根大学医学部微生物学講座 吉山裕規教授(日本ウイルス学会理事)、明海大学保健医療学部 渡部茂教授、京都工芸繊維大学機械工学系 山川勝史教授の監修の下、ウイルス対策として推奨されている湿度※460%の条件下で、付着した唾液に含まれる変異株を含む新型コロナウイルスにプラズマクラスターイオンを2時間照射することにより、感染価が99.4%以上減少することを世界で初めて実証しました。
一般的に、新型コロナウイルスの感染経路は、空気中の浮遊ウイルスによる飛沫感染と付着ウイルスによる接触感染に大別されると考えられています。そこで当社は、2020年9月にプラズマクラスター技術で空気中に浮遊する新型コロナウイルスの減少効果を実証し、今回新たに付着新型コロナウイルスへの効果を検証しました。
まず、実生活環境を想定し、異なる湿度での飛沫粒子の動きについてシミュレーションで確認しました(事前検証①)。湿度30%と60%の時に人が咳をした場合のシミュレーションを行った結果、湿度60%の環境では人の周囲に浮遊する飛沫粒子は湿度30%の時と比べ減少した一方で、その飛沫粒子は落下してテーブルなどに付着しました。そのため、飛沫粒子が減少して浮遊ウイルスの感染リスクを低減できる湿度60%の環境で、落下して付着した新型コロナウイルスの低減効果も検証することが重要であると考えました。
次に、ウイルス感染を引き起こす飛沫の多くが唾液に由来することから、通常ウイルス試験に用いる液体培地と唾液のそれぞれに混合した新型コロナウイルスを用いて、湿度60%の環境で2時間自然放置した場合の感染価を測定しました(事前検証②)。その結果、液体培地中の感染価は1%未満だったのに対し、唾液中の感染価は約56%残存していました。
これらの検証結果から、湿度60%で付着した唾液に新型コロナウイルスが含まれている状況を実生活環境と想定し、プラズマクラスター技術の効果検証を行った結果、変異株を含む新型コロナウイルスの感染価が99.4%以上減少することを確認しました。
当社は今後も、プラズマクラスター技術によるさまざまな効果検証を進めることにより、社会に貢献してまいります。
<島根大学医学部微生物学講座 教授 吉山 裕規(よしやま ひろのり)氏のコメント>
ウイルス感染を抑制するためには、加湿などにより相対湿度60%程度に環境を維持し、人の気道粘膜の乾燥を防いで防御機能を保ちながら、ウイルスの感染力を抑制することが重要です。ところが、相対湿度60%の環境は浮遊する飛沫粒子を減らす一方で、浮遊していた飛沫粒子は落下して付着することから、付着ウイルスの対策も必要であることがわかりました。今回の検証で、プラズマクラスター技術が身体の防御機能を保つ相対湿度60%において、付着した唾液に含まれる新型コロナウイルスを不活化できる可能性を示したことは、感染防御の点から大変意義があると考えられます。また、新型コロナウイルスの変異株に対しても同等の低減効果が得られており、今後発生する新たな変異株についても同様に低減効果が期待できます。
※1 感染性を持つウイルス粒子の数。
※2 イオン放出式の空気浄化技術において。(2021年7月15日現在、当社調べ)
※3 Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2、略称: SARS-CoV-2。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因となる、SARS関連コロナウイルス(SARS-CoV)に属するコロナウイルスのこと。変異株はアルファ株。
※4 相対湿度。
● プラズマクラスターロゴ(図形)およびプラズマクラスター、Plasmaclusterはシャープ株式会社の登録商標です。
■ 事前検証の概要
<事前検証①> 飛沫粒子の湿度依存性の検証
●検証実施機関 : 京都工芸繊維大学 機械工学系
●検証方法 : 室内で咳をして生じた飛沫粒子のシミュレーション
●シミュレーション条件 : 温度20℃、相対湿度30%と相対湿度60%
●結果 : 相対湿度60%では人の周囲に浮遊する飛沫粒子が相対湿度30%より減少する一方、落下した飛沫粒子がテーブルなどに付着することを確認。
図1.シミュレーション結果画像(8秒後)
<事前検証②> ウイルスの感染価に対する唾液の影響検証
●検証実施機関 : 島根大学 医学部 微生物学講座
●検証方法 : 新型コロナウイルスを含む液体培地と唾液をそれぞれ相対湿度60%で2時間自然放置した後の感染価を比較
●検証ウイルス : 新型コロナウイルス 従来株
●試験条件 : 温度約20℃、相対湿度約60%
(液体培地)D-MEM/Ham’s F-12培地を使用
(唾液)男女7名分を使用
(試験片)ウイルスを含む液体培地または唾液をそれぞれフィルターに50uL塗布
(評価方法)TCID50法* * TCID50法:段階的に希釈したウイルス液を細胞へ接種し感染価を調べる方法。
●結果 : 液体培地中の感染価は1%未満だったのに対し、唾液中の感染価は約56%残存していることを確認。
初期値 |
2時間後 |
残存率 |
|
液体 培地 |
1.0 × 107 |
5.6 × 104 |
0.6% |
唾液 |
1.0 × 107 |
5.6 × 106 |
56.2% |
図2.感染価残存率の比較グラフ
■ プラズマクラスター技術の効果検証試験の概要
●試験実施機関 : 島根大学 医学部 微生物学講座
●検証装置 : プラズマクラスター技術搭載付着ウイルス試験装置
図3.試験装置イメージ
●プラズマクラスターイオン濃度 : 約60万個/cm3 (イオン照射距離:10cm)
●試験空間容積 : 約38L
●試験条件 : 温度約20℃、相対湿度約60%
●対照試験 : 上記装置のプラズマクラスターイオン発生無しとの比較
●検証ウイルス : 新型コロナウイルス 従来株 / 変異株(アルファ株)
●試験方法 :
①唾液とウイルス液を混合。
②フィルターにウイルス液を50uL塗布し、プラズマクラスターイオンを2時間照射後、回収。
③回収したウイルス液からTCID50法によりウイルス感染価(TCID50/mL)を算出。
●結果 :
検証 |
プラズマクラスター |
プラズマクラスター |
減少率 |
|
(a) |
従来株 |
5.6 × 106 |
1.8 × 104 |
99.7% |
(b) |
変異株 |
5.6 × 104 |
3.2 × 102 |
99.4% |
図4.新型コロナウイルス 従来株(a)と変異株(b)の感染価減少率のグラフ