液体から気体まで切れ目無くカバーする粘度測定法の開発に成功
2021-06-14 物質・材料研究機構
NIMSは、ハーバード大学と共同で、単一のデバイスによって流体 (液体および気体) の粘度を測定可能な画期的な手法を開発しました。
概要
- NIMSは、ハーバード大学と共同で、単一のデバイスによって流体 (液体および気体) の粘度を測定可能な画期的な手法を開発しました。液体と気体の粘度は文字通り桁違いに異なるため、単一の測定手法によって両者をカバーすることは困難でした。本成果により粘度に基づいて任意の流体が識別可能となるため、一つの小型デバイスを用いた、呼気や血液などの生体試料に基づく健康モニタリングやヘルスチェックなどへの展開が見込まれます。基礎科学的な視点では、気液が共存する状態やその遷移過程に迫る知見の獲得も期待されます。
- 私たちは、水がサラサラであり、はちみつがトロトロであることを知っています。この「粘度」は液体のみならず、実はそよそよとした気体でも見られる特性です。このように、粘度は全ての流体を特徴付けるパラメータであるため、流体が関わるあらゆる分野・産業において、その計測技術は大変重要です。液体の粘度測定には既に各種粘度計が標準的な手法として使われており、気体についても、まだ研究レベルではあるものの多様な手法が提案されています。しかし、液体と気体という本質的に異なる2種類の流体の粘度をカバーできる手法は確立していません。近年、小型の簡易デバイスによる液体や気体の測定・識別技術に対する関心が高まっており、ウエアラブルな血圧計や携帯型のにおいチェッカーなどの開発が加速しています。そうした観点からも、従来にない測定レンジ・対象を有する新規流体粘度測定法には様々な期待がもたれています。
- 今回、研究チームはポリジメチルシロキサン (PDMS) という柔軟な材料によって作製された微小な流路 (マイクロ流路) を流体が通過する際に生じる流路壁の変形と流体粘度に相関 (粘度に比例して膨らむ) があることに着目し、この変形が液体・気体を問わず生じることを実証しました。これにより、任意の流体に適用できる本手法が実現しました。本デバイスは、市販のひずみゲージ (流路変形測定用) が流路上に埋め込まれただけのシンプルな構造で、流体の粘度をリアルタイムで測定することができます。また、ひずみゲージの配置場所を工夫することで、高い測定感度が実現しました。
- 今後は、生体試料の分析や識別を視野に入れ、呼気を含む各種生体ガス、唾液、尿、血液などの粘度測定に取り組み、健康モニタリングやヘルスチェックなどへと展開していきたいと考えています。さらには、気体から液体 (あるいはその逆) への中間的な状態や、気液が様々な形で共存する状態の粘度に関する基礎科学的な知見獲得も目指します。
- 本研究は、国立研究開発法人物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点 嗅覚センサグループの柴弘太主任研究員とハーバード大学のDavid A. Weitz教授らからなる研究チームによって行われました。また、本研究は、JSPS科研費 国際共同研究強化 (B) (課題番号 : JP19KK0141) 、電気通信普及財団 長期海外研究援助、丸文財団 交流研究助成の一環として行われました。
- 本研究成果は、Lab on a Chip誌オンライン版に2021年6月9日 (現地時間) に掲載されました。また、特許アメリカ仮出願済み (出願番号63/195894) です。
プレスリリース中の図 : 本手法による粘度決定までの大まかな流れ。
掲載論文
題目 : Microchannel measurements of viscosity for both gases and liquids
著者 : Kota Shiba, Guangming Li, Emmanuel Virot, Genki Yoshikawa, David A. Weitz
雑誌 : Lab on a Chip
掲載日時 : 2021年6月9日 (現地時間)
DOI : 10.1039/D1LC00202C