スマートな技術で持続的な農業を:ドローン空撮と融合した圃場試験法(GAUSS)を開発し、輪作に適したダイズ品種を推定

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2021-06-01 東京大学

発表のポイント
  • 一般的な圃場試験(注1)とドローン空撮画像を組み合わせて収量などのデータを解析する方法を開発し、圃場試験データの空間解像度を従来の約100倍にすることができました。
  • この手法により、ダイズとコムギの輪作栽培において、後作コムギの収量を増加させるダイズ品種を初めて推定することができました。
  • 誤差が大きくデータの取得が大変な従来の圃場試験の難点をシンプルな手法で改善することができました。この手法は、様々な作物栽培や生態学研究に応用可能です。
発表概要

東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構の深野祐也助教らの研究チームは、一般的な圃場での栽培試験とドローン空撮画像を組み合わせて解析する方法を開発し、ダイズとコムギの輪作栽培(注2)において後作コムギの収量を増加させるダイズ品種の推定に成功しました(図1)。1930年代に圃場試験法が体系化されて以来、世界中の野外圃場で植物栽培試験が行われています。圃場試験では、データの取得に大きな労力がかかるためデータ数が少なく、また野外環境であるためデータに大きな誤差が含まれてしまうという難点があります。一方、ドローン空撮や画像解析技術の発達により、圃場全面の高解像度な植物形質データが取得できるようになってきました。しかし、従来の圃場試験とドローン空撮画像のデータを組み合わせて解析する方法はありませんでした。そこで研究チームは地理情報システム(GIS)ベースのシンプルな解析手法(GAUSS:GIS-based Analysis for UAV Supported field Survey)を開発し(図2)、ダイズとコムギの輪作栽培をモデルとして、どのようなダイズ品種や形質が後作のコムギの収量を増加させるかを検証しました。生態調和農学機構内の実験圃場でダイズ14品種を栽培したのちコムギ1品種(さとのそら)を栽培し、各ダイズ品種の栽培位置とコムギの収量の空間的なバラつきの関連を調査しました(図3)。その結果、従来の手法に比べて100倍程度の空間解像度を持つデータが取得でき、各データの位置情報を用いた統計手法により、コムギの収量を増加させるダイズ品種を推定することに成功しました(図4)。この手法はシンプルかつ低コストであり、今後、様々な作物を対象にした圃場試験や農業現場、草地などの自然生態系での応用が期待されます。

発表内容

スマートな技術で持続的な農業を:ドローン空撮と融合した圃場試験法(GAUSS)を開発し、輪作に適したダイズ品種を推定

図1 研究全体の概要

図2 圃場試験とドローン空撮画像を融合させた解析手法(GAUSS)の概略

図3 生態調和農学機構でのダイズとコムギの輪作栽培とドローン空撮の様子

図4 GAUSSを用いたダイズ品種間でのコムギ収量の比較(上図)と従来の方法での比較(中図)。コムギの収量に影響を与えるダイズ形質の推定結果(下図)。

圃場環境での植物栽培試験は、植物科学や農学において重要であるだけでなく、作物の育種や新しい栽培法を検証するために実学的にも必須の実験です。圃場試験の方法は、近代統計学の始祖の一人であるR・A・フィッシャーが体系化して以来ほとんど変わらず、世界中で同じような手法が用いられています。圃場試験では、データの取得の大部分が人力に頼っているため、取得できるデータ数が少なく、また野外環境での栽培であるため、土地ムラなどデータに大きな誤差が含まれてしまうという難点があります。一方、近年のドローン空撮や画像解析技術の発達により、圃場全面の高解像度な植物形質データが取得できるようになってきました。しかし、データ数が少なくバラつきの多い従来の圃場試験と、大量データを取得できるドローン空撮画像を組み合わせて解析する方法は、これまで開発されていませんでした。 研究チームは、GISベースのシンプルな解析手法(GAUSS)を開発することで、従来の圃場試験とドローン空撮データを融合させ、圃場試験を改善することに挑戦しました。GAUSSは、景観生態学で用いられる生物の分布予測モデルを参考にした手法で、大きく分けて3つのステップからなります(図2)。①ドローン空撮画像と従来の圃場試験データを用いた収量予測モデルの開発、②GIS上での圃場全面のグリッド化と各グリッドの収量の予測、③収量予測値を用いた空間構造を考慮した統計的検定、です。
GAUSSの有効性を検証するために、ダイズとコムギの輪作栽培に注目しました。ダイズなどのマメ科植物は、根粒菌との相利共生によって大気中から窒素を獲得するという生態系サービスを担っています。このマメ科植物の窒素固定能力を利用して輪作を行う栽培法には長い歴史があり、現在でも世界中で広く行われています。マメ科作物が持つ輪作の利益を最大化し、持続的な農業を達成するためには、マメ科作物のどんな形質が輪作の利益と関連しているかを特定する必要があります。このためには、同じマメ科の品種間で後作物への収量の影響を比較する必要がありますが、このような違いを検証した研究はありませんでした。このような研究が行われていない理由の一つには、2つの異なる作物の栽培を行う輪作の圃場試験ではデータのバラつきが大きくなってしまうため、従来の圃場試験や統計的手法(分散分析など)では マメ科作物の品種間の差を検出することが難しいことがあったのかもしれません。
研究チームは、ダイズとコムギの輪作栽培をモデルとして、どのようなダイズ品種やダイズ形質が後作のコムギの収量を増加させるかを検証しました。生態調和農学機構内の実験圃場でダイズ14品種を栽培したのちコムギ1品種を栽培し、各ダイズ品種の栽培位置とコムギの収量のバラつきの関連を調査しました(図3)。従来の方法で取得した収量データとドローン空撮画像から計算されたいくつかの指標を解析することで、空撮画像から実際の収量を精度よく予測できるモデルを作りました(R2 = 0.81)。この収量モデルを使って、圃場全面における高空間分解能のコムギの収量予測値(n = 8756)が得られました。この予測値を元に空間構造(土地ムラ等)を考慮した統計解析を行ったところ、ダイズ品種間でコムギの収量に有意な差が検出され、特定の形質(茎の乾重量・地上部バイオマスなど)が後作のコムギ収量に影響することが分かりました(図4)。この結果は、人力のみの従来の圃場試験データ(n = 64)を解析しただけでは得られない結果です。このように、GAUSSを用いることで、輪作に適したマメ科作物の品種や形質を初めて推定できました。
GAUSSはシンプルな解析手法であるため、どのような圃場試験にも応用可能です。この手法をさまざまな圃場試験に応用することで、これまでデータ数の少なさと土地ムラなどのバラつきに隠されていたパターンを発見することができるかもしれません。今後は、さまざまな作物を対象にした農学的な圃場試験や農業の生産現場、生態学的な野外実験、そして草地などの自然生態系での利用が見込まれます。本研究は、作物学・農業情報学・生態学という異なる分野の専門家が集まることで達成されました。持続的な農業に向けて、異分野融合研究のさらなるの進展が期待されます。

発表雑誌
雑誌名
Frontiers in Plant Science
論文タイトル
GIS-based analysis for UAV-supported field experiments reveals soybean traits associated with rotational benefit
著者
Yuya Fukano*, Wei Guo, Naohiro Aoki, Shinjiro Ootuska, Koji Noshita, Kei Uchida, Yoichiro Kato, Kazuhiro Sasaki, Shotaka Kamikawa, Hirofumi Kubota(*責任著者)
DOI番号
doi: 10.3389/fpls.2021.637694
論文URL
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpls.2021.637694/abstract
発表者
深野  祐也(東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 助教)
郭    威(東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 助教)
青木  直大(東京大学大学院農学生命科学研究科生産・環境生物学専攻 准教授)
大塚 眞ニ郎(東京大学大学院農学生命科学研究科生産・環境生物学専攻 博士課程2年)
野下  浩司(九州大学理学研究院生物科学部門 助教)
内田   圭(東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 助教)
加藤 洋一郎(東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻 教授)
佐々木 和浩(東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 助教:当時/
現・国立研究開発法人国際農林水産業研究センター 生物資源・利用領域 研究員)
神川  翔貴(東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 技術専門職員)
久保田 浩史(東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 技術専門職員)
問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構
助教 深野 祐也(フカノ ユウヤ)

用語解説

注1 圃場試験
肥料の効果や品種の違いなどを調べるために、畑地や水田などで行う野外実験。圃場を一定の区画に区切り、それぞれで異なる処理を施す。野外環境で様々な誤差が生じてしまうために、誤差を少なくして精度を高めるために、様々な実験計画手法や統計解析手法が使われる。

注2 輪作栽培
同じ畑で異なる作物を周期的に栽培する方法。窒素固定作用のあるマメ科作物は、輪作によく用いられる。

1204農業及び蚕糸
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