2021-04-16 資源エネルギー庁
2021年2月13日、福島県沖を震源とする地震が発生し、東北の一部エリアでは震度6強の激しい揺れを観測しました。地震の影響で、東北エリアの重要インフラでは、東北新幹線の運転見あわせや常磐道の土砂崩れなど大きな被害も起こりました。この時、東京エリアでは停電が起こったことを覚えている方も多いのではないでしょうか。なぜ、地震の震源地からはなれたエリアで、停電が発生したのでしょう?その理由をご説明しましょう。
地震発生直後、6つの発電所が安全のためストップ
地震が起こったのは、2月13日23時8分のこと。その直後、火力発電所6ヶ所が、設備の安全確保のため緊急停止しました。
みなさんもご存じのように、エレベーターや工場の機械などには、揺れを感じると安全をはかるため自動的に停止する機能がついています。火力発電所にも、同じ機能がついています。
これは、地震などの大きな揺れが生じた時には、発電所を停止させなければ、タービンなどの設備が傷つき、復旧に長期間かかるおそれがあるためです。場合によっては、復旧まで数ヶ月~1年程度かかる恐れもあります。通常、震度5程度の揺れであれば緊急停止することはないのですが、今回は揺れが非常に大きかったため、自動停止の機能がはたらきました。停止したのは、下記の表にある福島県・宮城県の太平洋沿岸の火力発電所です。
地震直後に停止した主な火力発電所
停電の理由は、電気の「性質」と「周波数」
こうして、地震直後に複数の発電所が同時に停止したことで、電気の供給力が大幅に減少。その減少した供給力は、合計約650万kWになりました。これが、東京エリアで停電が起こる発端となりました。
停止したのは東京から遠く離れた火力発電所なのに、東京エリアで停電とは、いったいどういうことでしょう?ポイントとなるのは、電気の“性質”です。
私たちが使っている電気は、電圧のプラスとマイナスが交互に入れ替わって、波のように流れています。この波が1秒の間に起こる回数を「周波数」と呼ぶのですが、電気を供給する時は、この「周波数」を一定に保つことが必要となります。
周波数のイメージ
周波数を一定に保つには、電気の消費量(需要)と電気をつくる量(供給=発電)を常に一致させなくてはなりません。もし、需要と供給をバランスできず、周波数を一定に保てなくなると、場合によっては広範囲で大停電が発生する可能性があります。
そこで、電気の送配電をおこなう電力会社(一般送配電事業者)は、需要が増えた場合には発電量を増やしたり、また需要が減った場合には発電量を少なくしたりといった調整を常におこなっています。
需要と供給が常に一致するようバランスさせている
では、電気の供給力が足りなくなった場合はどうするのでしょう。供給力が大きく減ると、周波数が大幅に低下します。その場合、需要を緊急遮断するしくみとして「周波数低下リレー(UFR)」が作動します。
UFRが動作すると、電力系統(電気を送るための送配電のシステム)から、需要が切り離されます。つまり、需要を強制的にシステムから切り離すことで、足りない供給力とのバランスを取り、それによって大停電を回避できるようにするのです。
- UFRとは
- 複数の発電機の同時停止など、供給力が足りなくなることにより大幅に周波数が低下した際に動作し、自動で発電機や需要などを電力系統から切り離す装置。発電機を保護すること、また、連鎖的な発電機の停止などをふせぐとともに、残っている供給力で周波数を制御できる範囲にまで回復させることを目的に、自動的に需要を系統から切り離す。
「周波数低下リレー(UFR)」のしくみ(イメージ)
(出典)「第1回 平成30年北海道胆振東部地震に伴う大規模停電に関する検証委員会 参考資料3_2018年9月電力広域的運営推進機関」より資源エネルギー庁作成
この「UFR」は、電気を集めて必要な場所へ分配するため電圧を変える「変電所」の単位で設置されていますが、隣同士の家でも、異なる変電所から電気が送られている場合があります。そのため、「UFR」が作動すると、自分の家は電気が使えているのに隣の家は停電している…という状況も生まれる可能性があります。また、発電機を設置している工場などであっても、変電所単位で需要と供給のバランスが取れない場合には、停電する場合があります。
大停電をふせぐため、瞬時に電気のバランスを取るしくみ
今回、震源地からはなれた東京エリアで停電が起こったのは、この「UFR」が作動したためです。
関東エリア・山梨県・静岡県東部に電気を送配電する東京電力パワーグリッドと、東北6県および新潟県に電気を送配電する東北電力ネットワークのサービスエリア内は、エリア全体の周波数を一体で運用しています。そのため、地震の震源地がどこかによらず、直接の地震被害がなかった地域でも複数エリアで停電が発生したわけです。
一般家庭の消費電力は、おおよそ2~5kW程度。そう考えると、約650万kWという供給力が一気に失われたことは相当のインパクトがあったと見られ、それを瞬時に調整するための対応だったと考えられます。
大規模な供給力減少時の周波数の変動(イメージ)
詳しく知りたい
2021年2月13日の地震によって、東京電力パワーグリッドおよび東北電力ネットワークのサービスエリア内では、最大95万戸の停電が発生しました。
その後、発電設備や送配電設備の安全確認を進めつつ、被害を受けていない火力発電所の発電量を増加させたり、「電力広域的運営推進機関」(「電力システム改革の鍵を握る『広域機関』」参照)の指示で、ほかのエリアから電力を融通したりするなど、電気の供給力を積みあげる取り組みがおこなわれました。その結果、東京エリアでは3時間程度、東北エリアでも半日程度で復旧し、14日午前中にはほぼ全ての停電を解消しています。
近年発生している大規模な自然災害とくらべると、今回、停電の解消にかかった時間は非常に短いものでした。
近年の大規模自然災害時における停電戸数の推移
今回、震源地からはなれた場所で停電が起こってびっくりしたという方も多いかもしれませんが、このように、電気の性質を知ることで、停電の理由が見えてきます。「UFR」は、広範囲で大規模な停電が起こることを防ぎ、停電範囲を最小限に抑えるために作動する、ブレーキのようなものなのです。
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