四国地域の土壌中有害重金属類のリスクを地図として”見える化”

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災害土砂などの安全性評価に貢献する「表層土壌評価基本図」をウェブ公開

2021-03-30 産業技術総合研究所

ポイント

  • 四国地域の土壌に含まれる有害元素成分の濃度を調査し、人体への影響についてリスク評価
  • 一部の土壌で環境基準を超える元素が検出されたが、人体リスクが懸念されるレベルではなかった
  • 誰でも簡単に地図上で有害元素成分の分布やリスクレベルを確認できる
  • 今後発生し得る建設発生土や災害土砂の安全性評価のための基盤情報としてSDGsに貢献

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】(以下「産総研」という)地圏資源環境研究部門【研究部門長 光畑 裕司】地圏環境リスク研究グループ 川辺 能成 研究グループ長、原 淳子 主任研究員は、四国地域での自然由来重金属類の分布特性や土壌中有害元素の人体リスク評価に関する調査・研究を行い、成果として「表層土壌評価基本図~四国地域~」を出版する。

わが国では人為的な汚染だけでなく、道路・鉄道などのインフラ整備や自然災害時のリスク管理の面から自然由来の有害元素も法的な規制対象になっている。今回の成果は建設発生土や災害土砂に含まれる有害元素の濃度、それら元素の人体への影響を判断する上で有益な基盤情報である。専門家や技術者に限らず、誰もが閲覧でき、容易に理解できるこのマップは、われわれの健康な社会生活を持続する上でのリスクコミュニケーションツールとしての利用が期待される。

なお、「表層土壌評価基本図~四国地域~」は、2021年3月30日より産総研 地質調査総合センターのウェブサイトで公開される(URL:https://www.gsj.jp/Map/JP/soils_assessment.html)。

図

四国地域の表層土壌評価基本図(ダウンロードデータをGoogleEarthで閲覧可能)※この図は土壌分類を示す

開発の社会的背景

近年、気候変動や地震活動に伴う大きな斜面崩壊、土砂崩れ、洪水、津波などの災害により、表層土壌がわれわれの生活空間になだれ込むことで受ける影響は大きい。さらに ダム、鉄道、道路などの各種インフラ工事に伴って問題となる自然由来重金属類を含む建設発生土の処理やその環境対策には、膨大な費用がかかる上に、環境影響評価に関する説明が不十分になりがちで周辺住民からの理解を得難いところがある。

特に、高知・徳島県南部海岸域は、南海トラフ地震の津波対策強化地域に指定されているほか、台風などの豪雨による土砂災害や洪水も近年頻繁に発生しており、堆積残留した土砂の管理が求められている。さらに、香川・愛媛県を横断する四国新幹線の整備計画が議論されており、今後生じ得る土地改変時の環境影響評価において本図の貢献が見込まれる。このような社会的背景から、表層土壌中の有害元素に関するバックグラウンド情報の必要性が高まっている。

研究の経緯

産総研は、2008年からわが国の表層土壌を対象とした土壌化学情報、有害重金属類に関するリスク評価を実施・公開してきた(https://www.gsj.jp/Map/JP/soils_assessment.html)。これまでは精度の高い評価を行うために県単位の限定的な調査を進めてきたが、近年の必要性の高まりを受けて、早急に全国の情報を網羅的に整備するための調査・研究を開始した。

研究の内容

今回公開する四国地域の「表層土壌評価基本図」では、調査範囲を拡大するために分析地点の選定方法を大幅に改良した。具体的には、表層地質と河川流域、土壌・地歴情報などを網羅的に地理空間情報解析して分析地点を選定することで、これまでの精度をできるだけ保った地化学情報を得ることに成功した。これを基に、四国地域の表層土壌についてクロムやヒ素などの12元素(Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、As、Se、Cd、Sb、Pb、U)の重金属類の濃度分布を明らかにするとともに、人体への影響についてリスク評価を実施した。その結果、山間部で環境基準を超える重金属類が検出されたが、現在の土地利用では人体へのリスクが懸念されるレベルではなかった。

現在はすべて閉鎖されているが、かつて四国地域には600を超える金属鉱山があり、銅鉱、硫化鉄鉱の生産が盛んであった。四国地域は、丘陵地が多く、浸食を受けやすい上に表土の層が薄いため、表層土壌が周辺の金属鉱山や土壌の元になる基盤岩の影響を受けやすいと予想され、表層土壌中の自然由来重金属類が高い可能性があった。

四国地域で主要な鉱床群は銅、マンガンである。これらは、中央構造線の南側にあり、銅鉱床はその8割が三波川帯、マンガン鉱床は三波川帯、秩父帯、四万十帯と東西方向に延びる帯状構造に沿って分布している。これらはいずれも山間部に位置し、今回の調査から、表層土壌中の銅、マンガン含有量を高めていることが分かった。また、多くの地域で表層土壌中の自然由来重金属類が基盤岩の種類に直接関係していることが分かった。

四国地方で特に懸念されたのがクロムであるが、調査の結果、古生代の超苦鉄質岩(黒瀬川帯)、中生代の三波川帯苦鉄質片岩部、御荷鉾緑色岩類が表層に露出する地域で、高濃度のクロムを含む土壌の分布が見られた。しかし、そのほとんどは構成鉱物中にとどまり、高濃度分布域も山間部の基盤岩周辺に限られていた。流域への溶出も基盤岩周辺の河川上流部に限られ、含有量に比べて溶出値は低く推移した。また、広域への移行は認められなかった。これらの土壌は、土地利用を変えず、クロムが空気と触れない還元環境で三価クロムとしておけば、高濃度を含有する地域でも人体には影響がない(図1)。しかし、安定な三価クロムが酸素に触れて六価クロムへと変化すると、強い毒性、腐食性、発がん性を持つ毒物となる。そのため、三価クロムのリスク指標値(Cr3+_RfD)が0.02を上回る地域は、豪雨などによる土砂災害でクロムが流出し、空気と触れる酸化環境となった場合に、人体への健康被害が懸念される地域となり得る可能性がある。これらの地域では、災害時などに適切なリスク管理が必要と考えられる。

図1

図1 クロムの含有量分布とCr3+に対する人体リスク評価図

一方、沿岸域や河川下流域の土壌で、ヒ素は周辺より高い水溶出量を示した(図2)。四国地域全体を見ると、高知県の沿岸域ではヒ素溶出量の高い地域がほとんど見られない。それに対し、愛媛県北西部~北部地域の平野部、香川県坂出市東部と木津川~香束川下流域、徳島県吉野川下流域、那賀川下流域は、環境基準(0.01 mg/L)以下であるが、周囲より高いヒ素溶出量(0.002~0.0075 mg/L)を示した。これらヒ素水溶出量の高い地域は、ヒ素含有量の高い地域とは必ずしも合致していない。ヒ素は還元雰囲気で浸出しやすいため、地下水への移行が容易である。また、上流に過去に操業していた金属鉱山があるか、精錬を行っていた一部地域では、上流部より移行してきたヒ素が下流の平野部の土壌へ付加して、周辺よりもヒ素の溶出値を高めていると考えられた。ただし、人体への吸収量は暴露径路によって濃度レベルが異なるため、リスク評価の結果、人体へのリスクはないと判断した。

図2

図2 ヒ素の含有量および水溶出量分布図

表層土壌は、われわれの社会・生活活動に密接に関わっている。そのため、表層土壌中の有害重金属類の情報や人体へのリスクについては、容易に誰でも閲覧できる情報として整備されるべきであり、今回の「表層土壌評価基本図~四国地域~」の出版は将来の全国版整備を見据えた試金石となる。

また、表層土壌評価基本図には、有害金属や土壌を構成する主要元素に関する情報に加え、土壌中の希土類元素の情報が含まれる。希土類元素は生体に対して低リスクであるが、土壌中の希土類元素は、そこで生産される肥料や農作物へと移行し、いずれも類似する存在度パターンを示すことが報告されている。今後、これが何らかの指標となることが期待される。

今後の予定

今後、リスク評価に加えるべき元素にフッ素やホウ素がある。軽元素なので抽出の過程に起因する濃度誤差が大きく、現在の評価基本図にはリスク評価に必要な情報が含まれていない。フッ素やホウ素の情報整備を進めるとともに、リスク解析手法の確立を進める予定である。また、現在は九州地方の調査を開始しており、最終的には全国版の整備を目指している。

用語の説明
◆自然由来重金属類
天然の岩石や堆積物中に含まれる重金属類で、人間の産業活動などで環境中に放出される人為的原因による重金属類と区別される。
◆土壌中有害元素の人体リスク評価
土壌中の有害元素成分に関して、土壌から人体への暴露径路(ここでは直接摂取、大気飛散粒子吸収摂取、農作物と地下水からの摂取)を設定し、人体への健康リスクの解析を行い、さらにリスク基準と比較して、リスクが受容可能か決定すること。
◆表層土壌
ここでは表面から50cm程度までの土壌を表層土壌とした。
◆建設発生土
土木工事や建築工事などで建設副産物として発生する土のことで、利用先が見つからず、仮置きとして放置されたり、他人の土地を侵害したりなど、法令に違反した行為が問題となっている。特に発生土に有害物質が含まれる場合は、環境問題にも進展する悪質な事件となり得る。
◆災害土砂
大雨、地震、火山の噴火などがきっかけとなり、山や崖が崩れて発生する土砂のことである。崩れた土砂が雨水や川の水と混じって流れ、家や道路、田畑を埋めたり、人命を奪う災害にまで進展したりする場合もある。
◆リスクコミュニケーション
消費者、事業者、行政担当者、リスク管理者などの関係者間で、情報や意見を交換し、相互の意思疎通を図ること。
◆基盤岩
地質学的には、その地域で最も古い岩石。
◆中央構造線
西南日本 (特に関東西部~四国) で、地質が大きく異なる境の断層線のことである。これを境に地質学的には北側を西南日本内帯、南側を西南日本外帯と呼ぶ。
◆三波川帯、御荷鉾緑色岩類(みかぶりょくしょくがんるい)、秩父帯、四万十帯、黒瀬川帯
四国地域の基盤岩は、東西方向に延びる帯状構造を持っており、中央構造線より南側(外帯)は、北から三波川帯、御荷鉾緑色岩類、秩父帯、四万十帯に区分される。秩父帯はさらに3つに区分され、黒瀬川帯は秩父帯内の構造区分の一つである。
◆超苦鉄質岩(ちょうくてつしつがん)
鉄やマグネシウムを非常に多く含む岩石。
◆水溶出量
環境省告示第18号(環境省、2018年改正)に基づく溶出量試験(水溶出試験)で得られる成分溶出量。
◆希土類元素
スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)計17元素の総称。これららの元素は互いに性質が似ており、分離・抽出・精製するのが難しく、希少価値が高い。幅広い先端技術製品に使用されている。
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