トマト用接ぎ木装置を開発~接ぎ木作業の自動化・省力化を低コストな接合資材で実現~

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2021-02-24 農研機構,イワタニアグリグリーン株式会社,京和グリーン株式会社

ポイント

農研機構では、世界的に需要の多いトマト苗接ぎ木作業の自動化・省力化を目指し、接合資材に低コストな樹脂製テープ(粘着剤不使用)を用いた新たな接合方法と、それを用いた自動接ぎ木メカニズムを考案しました。さらに、開発技術の実用化を目指し、企業との共同研究を実施し、この度、トマト用接ぎ木装置を開発しました。

概要

熟練技術が必要な接ぎ木作業を行える労働力が不足する中で、接ぎ木苗1)を今後も安定的に供給していくため、接ぎ木作業の自動化・省力化が求められています。
そこで、農研機構では、低コストな樹脂製テープを用いた新たな接合方法と、それを用いた自動接ぎ木メカニズムを考案しました。
さらに、農研機構、イワタニアグリグリーン株式会社及び京和グリーン株式会社は、開発技術の実用化に向けた共同研究を実施し、この度、トマト用接ぎ木装置を開発しました。
接ぎ木の接合資材2)には、伸縮性を有した樹脂製テープを使用しているため、穂木と台木の茎の太さの違いに対して広い許容範囲で接ぎ木可能です。また、苗1本当たりの樹脂製テープの価格は、市販価格と比較して、チューブ3)(手作業用)の約35~50%、クリップ(ウリ科野菜用接ぎ木装置用でトマトにも利用可)の約15%であり、低コストで接ぎ木苗を生産できます。
本装置はイワタニアグリグリーン(株)より、2021年春以降に販売を開始します。

関連情報

特許:特許第6747637号、特許第6751948号

問い合わせ先

研究推進責任者 :
農研機構農業技術革新工学研究センター 所長 小林 研
イワタニアグリグリーン株式会社 代表取締役社長 林原 達朗
京和グリーン株式会社 代表取締役 加納 一広

研究担当者 :
農研機構農業技術革新工学研究センター
次世代コア技術研究領域 主任研究員 中山 夏希

広報担当者 :
農研機構農業技術革新工学研究センター
研究推進部 広報推進室 研究員 皆川 啓子

詳細情報

社会的背景

世界におけるトマトの年間生産量は182,000千トン、栽培面積は4,840千ha(FAOSTAT、2017)に及び、また、生産量は年々増加しています。その中で、モントリオール議定書(1992)により土壌消毒での臭化メチルの利用が規制されたことから、土壌病害に対する対策技術として、また、トマトの樹勢を強化する手段としても、接ぎ木苗の需要が増加しています。
日本においても、トマトの接ぎ木苗の利用は全栽培面積の約58%(4,312ha)に達しており、今後も増加が見込まれます(2011年、農研機構野菜茶業研究所)。特に、近年では、苗生産企業からの購入苗を利用してトマト栽培を行う生産者が増加しています。一方、接ぎ木作業は主に熟練を要する者による手作業で行われており、接ぎ木苗を増産していくためには安定した作業者の確保、育成・増員が必須ですが、そのような人材の確保は年々困難となっています。

開発の経緯

接ぎ木作業者の不足が深刻化する中、購入接ぎ木苗を今後も安定的に供給していくために、接ぎ木作業の自動化・省力化が強く求められていました。既に市販されているトマト用の接ぎ木装置もありますが、コストや機械調整の煩雑さ等から広く利用される状況にはなっていません。また、接ぎ木苗1本ごとに用いる接合資材費が、従来の手作業用に比べて機械用では増加するため、低コスト化が求められています。手作業用の接合資材に用いられるチューブについても、ランニングコストの低減が求められています。
そこで、農研機構では、接合資材に低コストな樹脂製テープを用いる新たな接合方法(特許第6747637号「接ぎ木方法」)と、それを用いた自動接ぎ木メカニズム(特許第6751948号「接ぎ木装置」)を考案しました。
さらに、農研機構、イワタニアグリグリーン株式会社及び京和グリーン株式会社と開発技術の実用化に向けた共同研究を実施し、この度、トマト用接ぎ木装置を開発しました。

開発機の特徴

開発機は、穂木4)及び台木5)の切断部、接合部、苗を把持し移動させる回転テーブル、テープ供給部等から構成されます(図1)。装置の電源はAC100Vを使用しており、各作業部には電動アクチュエータ(電気モータによって動作する装置)を用いています。また、苗切断後の余分な茎等の除去を行うためエアコンプレッサ(1.1kW、容量25L程度)を使用します。
動作の流れは、作業者1名が穂木及び台木を1株ずつ回転テーブル(回転角度45°)に供給します。初めに、供給位置から45°回転した位置で両苗の斜め切断を同時に行い、次に135°回転した位置でテープによる接合を行います。最後に、供給部から225°回転した位置で、設置されている機外搬出用のコンベア上に苗を落下させ、接ぎ木が完了します。
樹脂製テープは、ゴムの様に伸縮性を有しています。その際、粘着剤は使用せず、超音波溶着6)という手段を用いてテープ同士の接着を行います。接合部では、2枚の樹脂製テープを引き伸ばした状態で苗の接合箇所を挟み込み、苗の胚軸周辺のテープを超音波溶着し、接合箇所の固定を行います(図2)。樹脂製テープは、エコテックスⓇスタンダード100認証7)を取得しているものを用いています。
開発機の作業能率は450~520本/h程度となり、熟練作業者による接ぎ木作業が200本/h程度であるのに対して2倍以上の能率です。また、接ぎ木から1週間後の活着率は熟練作業者による接ぎ木作業と同等程度の90%以上です(表1、2)。さらに、本装置では、台木と穂木の茎の直径の差が平均で0.6mm程度ある場合でも良好に接ぎ木を行うことができます。胚軸長8)(台木)及び第1節間長9)(穂木)は、表1の条件において、作業を良好に行うことが可能です。接ぎ木から2週間後の様子を図3に示しました。接ぎ木後の樹脂製テープは、苗の生育に伴い徐々に溶着部分が剥がれ自然に脱落するので、除去等の作業を必要としません。
苗1本当たりの樹脂製テープの価格は、市販価格と比較して、チューブ(手作業用)の約35~50%、クリップ(ウリ科接ぎ木装置用でトマトにも利用可)の約15%です。

今後の予定

本装置はイワタニアグリグリーン(株)より、2021年春以降に販売を開始します。

用語の解説
1)接ぎ木苗
接ぎ木とは、2種類の異なる特徴を持つ植物(穂木及び台木)を組み合わせて1本の苗を作る技術で、接ぎ木苗は、病害に対する抵抗性の向上、樹勢強化、品質向上等を目的として、トマトの他、ナス、キュウリ、スイカなど多くの果菜類栽培で利用されています。
2)接合資材
接ぎ木面同士を接着、保持するための接ぎ木用資材です。トマト用では、チューブやクリップ等があります。機械用では、チューブとクリップが合わさった形状のものがあります。
3)チューブ
樹脂製の弾性筒状体に切れ目が設けられた形状で、トマトの接合資材として最も用いられている接合資材です。内径が1.4~2.4mm程度の間で、0.3mm程度ごとに4種類程度の規格があります。それらを茎の太さに応じて使い分けます。
4)穂木
地上部で展開していく上部側の苗です。
5)台木
根及び穂木と接合するまでの茎からなる下部側の苗です。
6)超音波溶着
溶着箇所を金属等で挟む等して加圧し、超音波振動によって加圧部に摩擦熱を発生させることによって瞬時に樹脂を溶融し、溶着する技術です。
7)エコテックスⓇスタンダード100認証
繊維関連の素材や製品について、有害な化学物質が含まれていないことを証明する国際安全規格です。(https://oeko-tex-japan.com/about/standard100/)
8)胚軸長
根鉢上面から子葉までの茎の長さです。
9)第1節間長
子葉から第1本葉までの茎の長さです。
参考図

図1

図1 開発機の外観

図2

図2 接合の様子

表1 供試苗の条件

表1

表2 作業能率及び活着率

表2図3

図3 接ぎ木から2週間後の様子

1202農芸化学
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