宇宙船で使われる材料を身近に:独自方法論により熱電変換出力3倍増大を実証
2021-01-29 大阪大学,高知工科大学,東邦大学,科学技術振興機構
ポイント
- 環境に調和したシリコンゲルマニウム(SiGe)熱電材料において、電気伝導率とゼーベック係数の同時増大を実現し、室温近傍で高い熱電変換出力因子を得ることに成功した。
- 熱電変換において、大きな電気伝導率とゼーベック係数が必要であるが、相関があるため両物性値を同時に増大させることは困難であった。このことが廃熱を電気に変える最大の障害となっていた。
- 本成果は、無毒な材料を用いて室温近傍の未利用熱をエネルギー源とした熱電発電源の実現への道を拓くものである。
大阪大学 大学院基礎工学研究科の中村 芳明 教授、高知工科大学 環境理工学群の藤田 武志 教授、東邦大学 理学部の大江 純一郎 教授、九州シンクロトロン光研究センターの小林 英一 主任研究員らの研究グループは、革新的な熱電性能向上の方法論を提案し、環境調和型SiGe材料で最高の熱電変換出力因子(=(ゼーベック係数)2×(電気伝導率))を室温近傍で達成しました(既存SiGeの約3倍増大)。
室温近傍の膨大な廃熱を電気に直接変換することが可能な熱電材料は、新規グリーンエネルギー源として期待されています。しかし、トレードオフ関係にあるゼーベック係数と電気伝導率を同時に増大することは長年の課題でありました。
本研究グループは、急冷法を用いてSiGeとAuのコンポジット材料を作製し、SiGe中のAu不純物が形成する共鳴準位によりゼーベック係数を増大させるだけでなく、Au結晶の優れた電気伝導性を生かして、電気伝導率も同時に増大することに成功しました。結果として、宇宙船に搭載されている電源(RTG、Radioisotope Thermoelectric Generator)に利用されているSiGe熱電材料の値を3倍上回る最高熱電出力因子を室温近傍で達成することに成功しました。
従来、環境調和性が高いものの、SiGe材料は宇宙船の電源として高温領域でしか利用されていませんでした。本成果により、高性能SiGe材料を用いることで、生活に密接した室温近傍の廃熱が電気エネルギーとして再利用可能となる「新エネルギー社会」実現が期待できます。
本研究成果は、英国王立化学会「Journal of Materials Chemistry A」に、1月29日(金)(日本時間)に公開されます。
本研究は、科学研究費補助金・基盤研究A(19H00853)、挑戦的研究(萌芽)(19K22110)、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製(研究総括:瀬戸山 亨)」の研究課題「ナノ超空間を利用した熱・スピン・電界交差相関による高効率エネルギー変換材料の創製(研究代表者:水口 将輝)」の一環として行われました。
<論文タイトル>
- “Anomalous enhancement of thermoelectric power factor by thermal management with resonant level effect”
- DOI:10.1039/D0TA08683E
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
中村 芳明(ナカムラ ヨシアキ)
大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授
<JST事業に関すること>
嶋林 ゆう子(シマバヤシ ユウコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
<報道担当>
大阪大学 大学院基礎工学研究科 庶務係
高知工科大学 広報課
東邦大学 法人本部経営企画部
科学技術振興機構 広報課